表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/164

試練の結果

「え……?」



 そんな攻撃は、シルキーに傷一つつけられなかった。

 当たれば上級職すらたやすく両断できるはずの攻撃が、まるで届いていなかった。



「――【海聖防壁】」



 彼女を囲う、蒼く四角い箱に阻まれていた。

 彼女の正面の結界には、衝撃に耐えきれなかったのかひびが入っている。

 だがそれだけだ。内部にいるシルキーには届かない。

 傷一つなく、涼しい顔を保っている。



「火力、思考力、敏捷性は……まあこれくらいでしょうね」



 淡々とした言葉を発して。



「【ライトニング・フィールド】」



 シルキーの宣言に従って、雷の領域が展開される。



「まずい……!」



 とっさによけようとして、それができない、そもそもする必要がないことにピーターが気付く。

 それの狙いがピーターではなく、リタであるという事実に。



「戻れ!」



 ピーターは【霊安室】にリタの本体を収納する。

 それにより、【トリックルーム】と【トリートルーム】が解除される。



「【ライトニング・スピア】」



 五本の雷光で造られた槍。

 それらが、全てピーターを狙う。

 装甲がはがれ、HPが削れていく。

 アンデッドの再生能力が発動するが、それよりも肉体が削れる速度の方がはるかに早い。



「まだーー」

「もう無理よ【エレキ・フィールド】」

「……ぐあっ」



 シルキーが放ったのは、雷の結界。

それは同時に、こちらを拘束する檻でもある。

 完全に拘束される。

 それからしばらくして、【降霊憑依】の時間が切れる。



「ぐ、ごぶ」



 口の端から、血液がこぼれる。

 使用時間が短かったこともあって、今回は比較的ましだった。



「ぶえっ」



 いつのまにか拘束が解除されており、ピーターは床の顔から突っ込む。

 それによって、鼻から血を流しつつ、ピーターは顔を上げる。

 いつの間にか現れていた、カバに乗り込んだシルキーが見下ろしていた。

 


「今のスキルは、どういうもの、ですか?」

「どれのこと?」



 シルキーは、無表情のまま、小首をかしげる。



「全部です、結界とか、雷とか、そういうの全部どうやって使ってるんですか?」



 最初は、魔法スキルを使えるマジックアイテムを使っているのかと思ったが、どうやらそうでもない。

 精霊術師というのは、精霊を使ってくるのという認識ではあったものの、精霊抜きで戦える者たちではないはずだ。



「〈精霊術師〉の基本スキルに、【霊魔共有】というものがあるの。これは、配下の精霊の使う魔法スキルを私も部分的に使えるようになるスキルね」



 自分と精霊の格の差や、熟練度によって変化するけどね、とシルキーは付け加えた。

 なるほど、とピーターは納得する。

 精霊術師系統は、MPが高いといのは知っている。

 それは精霊のバフという側面もあるのだろうが、同時に自分で魔法を行使するスキルを使うためのものでもある。



「アンタは、そういうの使えないの?」

「そういうスキルはないですね」



 〈降霊術師〉系統は、アンデッドとの連携を前提にしたスキルばかり。

 〈冥導師〉になってから取得したスキルは例外だが……あれもある意味傍にアンデッドがいることを前提としたスキルであり、本人の単独戦力を引き上げる効果もない。

 とはいえ、ピーターには【降霊憑依】という切り札もある。

 本人を守るスキルがあるという点では、〈降霊術師〉も〈精霊術師〉も同じなのかもしれない。

 というか、モンスターを扱う職業は大なり小なり自身を守るスキルがあるのだ。

 そうでないと、本人が狙われた時に何もできなくなってしまう。

 


 ピーターを見下ろして、シルキーは見下ろす。



「ふーん。まあ弱いわね」

「そうですね」

「正直、反応が遅いわ。戦略はともかく咄嗟の反射神経がまるでないわよ。〈従魔師〉系列――モンスターと一緒に戦うジョブにありがちな融合スキルは強力だけど、うまく活用できないとただステータスに使われている状態になってしまうわ」

「……申し開きもありません」



 事実だった。

 彼のステータスは、融合すれば素の数十倍まで向上する。

 しかし、それを活かしきれていない。

 急速に伸びるステータスに適応できず、どうしても動きが直線的になる。

 それこそ、速度で圧倒的にこちらに劣るシルキーでも対応して、バリアを張ることができたように。

 もっとも、使いこなせないのにも事情がある。

 反動の大きいスキルゆえに、扱えるまで練習するというのも難しい。

 そもそも、本来【降霊憑依】は追い詰められたときしか使わない、最後の切り札でもある。

 使用回数はゴレイム戦を含めても、両手の指で足りる程度でしかない。



「そもそも回復魔法が効かないって何?戦闘で言えば欠陥もいいところじゃない。アンタ以外でそんな変な奴一人しか知らないわよ」

「…………」



 思った以上にダメだしされた。

 ギフトに関しては、どうしようもないことなのだが、戦闘に向いていないといわれてしまえば反論のしようがない。

 聖属性の攻撃を無効化できるとはいえ、デメリットとメリットどちらの方が大きいかは、ピーター自身が一番よくわかっているのだから。



 何より……そういった理屈を抜きにしても、ここで負けてしまったという結果がすべてだ。

 精霊の支配者は、精霊の力を一切借りずにピーターを完封した。手も足も出なかった。

 これ以上ない程の、悪い結果が出てしまっている。

 これで、弟子になどなれるものか、とピーターは思った。何かが間違っていたとは思わないが、ただ純粋に、足りなかった。



「ただ、見込みはあるわね」

「え?」



 その直後の発言に、固まった。



「思い切りの良さは買うわ。諦めがいいだけかもしれないけどね」

「え?え?」

「それと、一番大事な素養が備わってるわ」



 何を言っているのか、わからなかった。

 大事な素養が何かも、今のどこに肯定的にとらえられる要素があったのかも微塵もわからない。

 だが、一つだけわかる。彼女は、ピーターを。



「あの、それってつまり」

「合格よ。これからは私の弟子を名乗りなさい、ピーター・ハンバート」



 正直、ピーターにはわからない。

 なぜ、そんなことを言うのか、自分のどこに見込みがあるのか。



「あ、ありがとうございます!」

「やったね、ぴーたー!」

「おめでとうございます主様」



 ピーターはもちろん、リタとハルも合格を喜んだ。



「まあ、出来が悪いのは事実だし、そこはビシバシ鍛えていくことにするわ。覚悟しておきなさいね」

「ありがとうございます!」



 ピーターは体をくの字に追って、感謝を示した。

 何がよかったのかはわからない。

 実力も、才能もない。

 けれど、ラーファや、アランの前で誓ったこと。

 強くなると、決めたこと。

 そのために、一歩を踏み出せることが、スタートラインに立たせてもらえたことが嬉しかったから。



「まあ、励みなさい、弟子一号」

「はい!」



 ピーター・ハンバート、試験合格。

 〈精霊姫〉シルキー・ロードウェルの弟子入り決定及び、魔術魔法学院入学決定。

 しかし、それはあくまで最初の一歩に過ぎなかった。


感想、評価、ブックマークありがとうございます。


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ