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弟子入りの試練

 先程までの島。

 それが、マギウヌスの首都であり、なおかつ本島でもあるオーバーカレッジ。

 広さで言えば、アルティオスと同等程度といったところ。

 しかし、それだけがマギウヌスではない。

 中心に位置するオーバーカレッジを中心に、百を超える浮遊島が構築する国。

 それが、魔法魔術国家、マギウヌスの正体である。

 すさまじい大きさだった。

 今いる島は、それほどでもない。

 直径二百メートル程度の小島。

 しかし、問題となるのは、むしろその高低差。

 島の上にあるのは、一本の大樹。

 高さは、千メートルはあるだろうか。

 太い幹が天高く伸び、あちこちに生えた枝からは青々とした葉が生えている。

 そんな大樹には、よく見ると扉がついている。

 巨大樹を見たゆえの荘厳さと、どこか普通の木とは思えないような薄気味悪さも感じていた。



「行くわよ。ついてきなさい」



 よく見ると、木の根元には、扉があった。


 中に入ろうとして、ピーターは気づいた。

 静かすぎる。

 何も感じられない。

 木の周りを飛び回るはずの鳥のさえずりも。

 木の上をはい回る虫の姿も。

 何一つとして、知覚できない。

 どこにもいないかのように。



「…………」



 ピーター達がシルキーに続いて入ると、すぐそこには白を基調とした大広間があった。

 それだけでも、相当広い。

 豪邸であるはずの、リタの本体を三つか四つは収納できてしまうだろう。

 外から見た大木も相当大きかったが、内部は奇妙なことにそれよりさらに広く思える。

 普通に考えれば壁に使われた分だけ、狭まるはずなのに、だ。



(随分広いですね。リタのような幻術の類でしょうか?)

「わからないけど、何かタネがあるとみるべきだろうね。そもそも、このツリーハウス自体がただの木じゃさそうだ」

「?」



 ハルの念話に対して、ピーターが返す。

 ちなみに、リタは全く分かっていないらしく、疑問符を脳内に浮かべている。

 脳味噌はもうないが。


 広間の中央には、白いテーブルがある。

 そこの、上座にシルキーは座る。

 座るといっても、椅子ではなく、カバの巨大ぬいぐるみの上で、だ。

 その傍には、椅子があるので、ピーターはそこに腰掛ける。

 リタは、その隣に座った。

 ハルは、【霊安室】の内部にいる。

 空間的には間違いなくおさまるだろうが……普段屋内では出さないことが習慣づけられているのでなんとなく出さなかった。



 紅茶が運ばれている。

 ふわふわとポットとカップが浮いて運ばれてきた。

 そして浮いたまま、お茶がカップに注がれ、ピーターとシルキーの前に置かれる。

 どこからともなく、ミルクツボと砂糖の入った瓶が出てきて二人の前に置かれた。

 ピーターは、無言で砂糖を十個ほど入れてからリタに差し出す。

 リタが顔を突っ込んで味わった後、一息に飲み干した。



「甘いものが好きなの?」

「いいえ」

「じゃあ砂糖を入れたのはどうして?」

「彼女が喜ぶので……」



 リタは生粋の甘党だ。

 既に死んでいるゆえに健康を全く気にする必要がないこともあって、リタは甘いものだけを味わう。

 紅茶を楽しんだ後は、砂糖壺にご執心らしく、顔を突っ込んでいる。



「そうなら、あの子が味わった後の分は私が飲みましょうか?」

「いえ、あの子が口をつけたものは一滴残らず、一つ残さず僕が取り込みたいので……」

「…………」



 ◇


 

 お茶会が終わり、シルキーが、口を開いた。

 


「軽く、テストするわ」

「テスト、とは?」

「貴方が|弟子にふさわしいかどうか《・・・・・・・・・・・・・》の試験よ。ダメだったら弟子入りの話はなし。オーバーカレッジへの入学も諦めてもらう」

「……え?」



 あんまりにもあんまりな言い分に唖然とする。

 


「ハンデはつける。私は、一人だけで戦う。アンタは好きにすればいいわ」



 〈精霊姫〉と彼女は自身のことを名乗っていた。

 その名前には、聞き覚えがある。

 精霊術師系統超級職にして、高位の精霊を従えるもの。

 迷宮都市アルティオス冒険者ギルドマスター、〈魔王〉アラン・ホルダーと並ぶ、現行の魔物使いの頂点。

 それが、単身で戦うというのは、おそらくは実力の一割も出せないだろう。

 そして、彼女はそれでもピーターに勝てると思っているのだ。

 その予測は誤りではないだろう。

 アランを見ているから知っている。

 一般的に、上級職は下級職六人分の戦闘能力があるといわれている。

 無論、レベルをどれだけ挙げたか、それに加えて相性や連携の有無によって大きく変わるが、純粋な戦力としての認識はそれで間違っていない。

 そして、上級職と超級職の格差もまた同じ。

 ピーターは上級職へ転職こそしたがレベルはほとんど上がっておらず、下級職と大差はない。

 新たに獲得したスキルもあるが、シルキー相手にはおそらく使っても意味がない。

 というより、人に使っても効果がない。

 単純計算して、自分の三十六倍の戦闘能力。

そんな相手に、ハンデありとはいえ挑む。

普通に考えれば、否、考えずとも無謀と分かる。



「……わかりました」



 とにもかくにも、今は勝つしかない。選択肢がない。

 どの業界においても弟子にするかしないかなど、そんなものは師匠の裁量で決まってしまうことだ。

 基本的には、弟子に選ぶ権利はあっても弟子あるいは弟子志望者にはない。

 ピーターは今まで誰かの弟子になったことも増して師匠の成ったこともないが、それくらいはわかっている。

 今、自分にできることは、実力を師匠に示すこと。

 そして、そのために全力を尽くすこと。準備を済ませることだ。



「あの、試験は具体的にいつから始めるのですか?」



 ピーターの問いに、シルキーは可愛らしく小首をかしげて。



「そうね、いつでもいいわよ、期限は今日中ね」

「なるほど、わかりました。ありがとうございます」



 ピーターは、納得し、完了した(・・・・)

 ようやく、先ほどからしていたチャージが完了した。



「――【降霊憑依】!」



 既に必要なチャージが終わり、発動を宣言するのはピーターにとって最大最強のスキル。

 【霊安室】から呼び出したハルと融合し、竜骨の怪人となって、正面から突撃する。

 いつでもいいと、シルキー自身が言った。

なら、今襲い掛かっても問題はない。

 むしろそうしないのが不自然なほどだ。

 手の内が知れず何をしてくるのかわからない、格上のシルキーに対して、長期戦は悪手。

 ましてピーター自身は持久戦が苦手なのだから。



(〈精霊姫〉は、確か〈精霊術師〉系統の超級職。〈精霊術師〉は〈降霊術師〉と同じで仲間であるモンスターとの連携が前提のジョブのはずだけど一人で戦えるのか?僕の知らない攻撃スキルでもあるのか)



 そう思いつつも、脚は止めない。眼も彼女からそらさない。

 相手は超級職。

 その恐ろしさはアルティオスのギルドマスターでよく実感しているし、伝え聞いてもいる。

 自身が相対した中でも最強の存在は最低最悪の〈暗黒騎士〉グレゴリー・ゴーレムだったが、それより格上の存在だ。

 そんな相手に対して手は抜けない。

 せめて殺すつもりで戦わなくては勝負にさえならない。

 だから、手段は問わない。



「リタ!」

「はーい!」



 同時に、ピーターが【霊安室】からリタの本体、ゴーストハウスを展開する。

 そして相手を幻惑する【トリック・ルーム】と魔法職にとって最も需要なMPを奪いとる【トリート・ルーム】を同時に発動。

 その隙に、ピーターは全力に一撃を叩き込まんとする。

 狙いは、がら空きの胴体。

 そこにピーター達にとって最大威力の攻撃である【ハルバード・ブレイク】をぶつける。

 そこまでが、彼等の考えうる最強の戦術。

 格上の相手を幾度も打ち破ってきた、彼等の切り札。



「【ハルバード・ブレイク】!」



 彼らの全力を込めた最大威力の一撃が彼女の胴に命中してーー。


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