プロローグ とある聖職者の事情
「そもそもさ、首謀者は君の部下で、被害を拡大したのは君の娘でしょ?君の失態でしょ?」
ハイエスト聖王国王都、ハイエンド。
白亜の城が中心に位置する、白を基調とした街である。
ハイエンドの中心にある、王族が住まう城、そこには無数の部屋がある。
会議室にて、子供のような高い声が響く。
事実、声を発しているものの容貌は明らかに子供だった。
外見年齢は、十歳になるかならないかといったところである。
足を椅子に座った状態でぶらぶらさせながら話しているので、子供にしか見えない。
「彼を任命したのは私の責です。申し訳ありません。しかしながら、ユリア・カシドラルはゴーレムを討ち、被害の拡大を防いでいます。彼女の失態ではありません」
そんな人物が向かい合うのは、白銀色の鎧をまとった壮年の騎士。
〈天騎士〉レグルス・ヴァン・カシドラル。
このハイエスト聖王国最強戦力を呼ばれる人物であり、聖騎士団をまとめる人物でもある。
権力的な意味合いでも国王を除けば、基本的には彼は最上位に位置している。
そんな人物が幼児のごとき見た目の人物に敬語で話しているさまは、奇妙にも映る。
だが、それはごく自然な、ありふれた光景だ。
それもそのはずだ、彼は子供ではないのだから。
「いやいやいや、そういう話がしたかったんじゃなくてさあ、僕が悪くないわけでしょ?だったらこんな会議なんて開かず君たちで勝手に反省してくれないかな?年寄りは忙しいんだよ」
彼は、幼児特有の舌足らずな口調で、足をぶらぶらと動かしながら言う。
それは、普通この国でトップクラスの戦力に対する態度ではないが、さもありなん。
「そうも言ってらいられないのです。どうか、ご承知を、教皇猊下」
頭を下げるレグルスに、彼――〈教皇〉の座に就くものは面倒くさそうにかぶりを振った。
「わかったわかった。ていうか、かしこまらないでよ、フランシスコでいいってば」
〈教皇〉、フランシスコ・チャイルドプレイ。
この国をまとめる教会のトップであり――同時にハイエスト聖王国最強格の人間である。
それこそ、一対一で勝てるのはレグルスくらいのものだ。
それ故にレグルスさえ、彼に対しては強く出られない。
それは保身のためではなく、彼がかんしゃくを起こした際、その余波でどれほどの被害が出るか予想できなかったからだ。
彼がその気になれば、この王都を滅ぼすことさえたやすいのだから。
「ハッ、孤児院に顔出すだけだろうが、ペドじじい」
足を組み、黒い鎧で身を包んだ男。
紫の髪をオールバックにしている。
〈夜天騎士〉ダニエル・ブラックハイド。
もともと冒険者であったところを、取り立てられ騎士団を任されているまでになった男だ。
「ひどいなあ、僕はただ彼らの初々しさを丹念に味わってるだけだよ。そもそも僕が作って今でも運営してる孤児院だから、僕がいついこうが自由でしょ?」
「あの孤児院よ、俺がガキの頃からある気がするんだが?」
顔をしかめながら訊く。
ちなみにだが……〈夜天騎士〉は三十路である。
「今年で創立百十周年さ、長さなんて祝うことでもないと思うけどね。何年生きた、なんて祝福にするに値しない、呪いだよ呪い」
子供の姿をした〈教皇〉は、何でもないように言う。
そこには、驚愕すべき事実が含まれる。
なにせ、その孤児院は彼が造ったものだ。
つまり、彼は最低でも百十を超えているといったのだ。
そして、それが事実なのだ。
この〈教皇〉には、寿命の概念というものがないのだから。
「とりあえず、アルティオス責任者の件についてだけど、後任の選定は僕がやるよ。君がやるとまた同じことの繰り返しになるかもだから。それでいいよね、陛下?うん、オッケーオッケー」
玉座に座る平凡な顔立ちをした、白い服の男の返事を待たずに、〈教皇〉は決定した。
それが、この国の実態だ。
形式上、国王が教会と騎士団を統括していることになっている。
が、実際には彼には実権がなく、政治的な決定は教会と騎士団にゆだねられている。
王が、力を持った形式上の部下の操り人形にされる。
歴史上、幾度となくあった話ではある。
『これで終わりだと思うけど、まだ何か話すことはある?』
「…………」
〈夜天騎士〉は呆れたのか、何も言わない。
「猊下、〈女教皇〉どのが帰還されました。そろそろ出立のご準備を」
とはいえ、この場にいる全員が、特に気にしていない。
「ああ、彼女が返ってきたってことは、今度は僕の番だよね、しょうがないなあ」
「仕事はきっちり果たしてくれよ……」
『わかってるって。ちゃんとするよ、マギウヌスの魔法魔術学院の特別講師として、何より〈教皇〉としての勤めはちゃんと果たさないとね』
子供の皮をかぶった、怪人が笑う。
いつのまにか総合評価300になってました。
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