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エピローグ  優しくない世界で生きるには

 冒険者ギルドを出て、ピーターは城壁の近く、門の手前まで来ていた。

 既に出立の手続きはすんでいる。

 ピーター・ハンバートは弱い。

 それゆえに、乗合馬車に乗って移動することになる。

 そこには、護衛の馬車が乗り込む。

 莫大な金銭と、ギルドマスターなどの一部のものの承認。

 国外への脱出は、流石にギルドマスターであるアランの一存で規定を捻じ曲げることは出来ず、そもそもできたとしてもピーターがそれを望まなかったがために、条件である一定以上のレベルなどをクリアして出国できることになった。

 都市間の移動とは比較的にならないほどに、国家間の移動はモンスターなどの危険が多く、政治的な意味合いから複雑でもある。


「ピーターさん」

「ルークさん、今日は非番ですか?」

「そうっすね、今は懐がそこそこ暖かいっすから」

「それは良かった。後、見送りに来てくださってありがとうございます、ルークさん」 

「いえいえ、ピーターさんのためならこれくらいしますよ。あ、これ餞別っす」



 そういって、ルークが渡してきたのは食料品と菓子類。

 実用的な、ピーター・ハンバートの好みである。

 菓子類は、ピーターではなく、リタのためのものか。

 彼の気遣いが嬉しかった。

 リタの分まで含んでいることも含めて、ピーターとしては本当にうれしいものだった。

 もちろんピーター自身も食料は持っているが、あって困るものではない。



「ありがとうございます、ルークさん」

「いえいえいえ、それほどでもないっすよ」

「センスがいいですね、ルークさんは」

「いや、そんなそんな」

「……一応、四人での割り勘だ」

「何にするか決めたのは俺だしナ」

「まあ、まあ、ルーク君も、一生懸命考えてたから、ね?」



 いつのまにか、ミーナ、イスラ、フレンも集まっていた。

 〈猟犬の牙〉が来てくれた。

 今日は仕事が忙しくて来れないという友人知人にも、あらかた挨拶は済ませてある。

 いや、一人だけ、できていない。

 体を休めることに専念していたピーターとは異なり、今まで、今もなお誘拐事件の事後処理に責任者として追われているはずだから。

 ピーターがしたことなど、共同墓地に花を供えるくらいのものだ。

 ちなみに、〈猟犬の牙〉たちにもすでに挨拶は済ませてあった。



「そういえばもう一人呼んでるんすよ」



 白銀の鎧が似合う少女。

 〈聖騎士〉ユリア・ヴァン・カシドラルがそこにいた。

 ただし、今日は白銀の鎧ではなく軽装に身を包んでいる。

 どうやら今日は完全に非番ということらしい。


「大丈夫なんですか?仕事は」

「まあ正直、まだ忙しいけど、何とかするわ。めちゃくちゃ人員が減ったせいで、私が暫定的にここのトップになってしまっているのだけれど」

「ああ……」

「それでも、そういったことの合間を縫って今日は来たわ。あなたの見送りに」



 グレゴリー一派があらかた粛清されたことで、騎士団は目下のところ人材不足であった。

 そして、残った数少ない者達が、騎士としての務めを果たさんと遺族への説明や上への報告といった後始末に回っている。

 なお、ここにはアランたちも関与しているらしいと、ピーターは聞いた。

 

 

「良いのですか?〈聖騎士〉が、私たちの見送りなんて」

「貴方、変なこと言うのね」



 ユリアは、呆れたように、いや呆れてため息を吐いた。

 真剣な顔をして、ピーターの方に向き直り。



「私は単に、友人の見送りに来ただけよ」

「……友人、ですか?僕とあなたが?」

「少なくとも、私はそう思っているわよ?」

「…………」



 固まるピーターを見て、何を思ったのか、ユリアは気まずそうに眼をそらす。



「ま、まあもし嫌なら、別に……。そもそも、出会って間もないし、私のしたことは許されることではないし、でも今まで人とこんな風に接することなんてなかったから、友人って言ってもいいと思ったん、だけど」

「いえ」



 彼女の否定を否定して、ピーターは言葉を探す。

 彼にとって、最初、騎士である彼女はこの国そのもののように思えていた。

 最初殺されかけて、正直あまりいい印象はなくて。

 二度目にあったとき、彼女を許したのは興味がなかったからだった。

 人に嫌われるのは当たり前。まして、それが教会関係者ならばなおのこと。だから、特にユリアを恨むこともなかったし関心もなかった。

 そうでなくても自分は家族以外と進んで関わるような性格でもなく。

 それでも、はじまりは良くなかったとしても、和解して、お互いのことを知って。

 彼女も友人でいたいと、なりたいと、思ってくれるのなら。

 悪くはないと思えるから。



「ありがとうございます」

「そ、それで友達になってくれるの?」

「もう、友達ですよ」



 むくれるユリアを見ながら、本心から、ピーターはそういった。

 だってもう、心は決まっていたから。

 グレゴリーと戦うことになったあの日、彼女を見捨てないと決めていた。

 それを友人でないと言えるほど、ピーターはひねくれていない。



「わたしも、ゆりあとともだちだよ!」

「リタ!ありがとう」

「リタが楽しそうでうれしいよ」

 


 この国には、無数の聖職者がいる。

 その中の多くは、アンデッドや〈降霊術師〉を毛嫌いしている。

 そして、聖職者に限らず、多くの人が、社会が、ピーターを傷つけ、虐げる。

 けれど、そうでない人もいる。

 恩人が、いて、支えになってくれる。

 友人がいて、できて、力になってくれる。

 家族がいるから、力が湧いてくる。

 


 ピーターは思う。

 差別と苦しみにまみれたこの優しくない世界で生きていくのに必要なのは。

 レベルやステータス、スキルのような力だけではなく。

 冷徹で正確な頭脳だけでもなくて。

 心が折れそうなとき、倒れてしまいそうなときに。

 相談できる人。

 心の支えになってくれる人。

 守りたいって、死んでほしくないって思えるもの。

 そんな優しい人が、優しくしたい人たちが、こんな優しくない世界には必要なのではないかと。

 


「では、行ってきます」

「いってきます!」

「行ってらっしゃい」



 挨拶をして、ユリアたちと別れた。

 そして、竜車に乗り込んだ。



『良かったですね、主様』



 そのハルの言葉には、一体どのような意味が含まれているのか。

 友達になれてよかったということか。

 ピーターが死ななくてよかったという意味か、あるいは彼女が死ななくてよかったという意味か。

 いずれも含んでのことか。



「……そうだね、それじゃ行こうか。新しい旅へ向かって」

「うん!」

『仰せのままに』



 かくして、少年とその家族は新たな旅へと向かう。

 その旅路の先に何があるのか。

 彼らの旅はいつ終わるのか。

 今はまだ、誰も知らない。

 けれども、彼等の心は明るかった。

 きっと、これからもそれは変わらない。

 ピーターが、この優しくない世界で生きるすべを、失わないために。

一章完結です。

ここまで応援してくださった全ての方、ありがとうございます。


良ければ、これからも応援よろしくお願いします。

少し、ペースが落ちるかもしれませんがよろしくお願いします。

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