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<暗黒騎士>の栄光

 ――この世で最も重要なもの、それが栄光だ。


 そんな風に考えていた、とある騎士について、説明しよう。

 彼は、一人の〈騎士〉として没落貴族の家系に生まれた。

 彼は修業を積み、レベルを上げ、気づけば十五歳にして〈騎士〉をカンストしていた。

 それは比較的早い部類である。

 それこそごく一部の特権階級を覗けばトップクラスだといってもいい。

 しかし自分は本当の実力を発揮できない、と彼は感じていた。



彼が欲しいもの、それは栄光だった。

 英雄になりたい。

 圧倒的な力と、名声が欲しい。

 その一心で、彼は鍛錬に励み、騎士として国に尽くしてきた。

 しかし、その夢は叶わない。

 英雄になるには、レベルが足りない(・・・・・・・)からだ。



 騎士系統超級職、〈天騎士〉を代々受け継ぐカシドラル公爵家。

 〈教皇〉、〈女教皇〉、〈大司教〉の転職条件を完全に秘匿し独占する教会。

 いくら努力しようが、生まれによって、成長に限界が設けられてしまう。

 それが、没落貴族の生まれから成り上がろうとする彼には許容できなかった。

 彼は、栄光を欲した。

 幼少期、聞いた騎士の物語が忘れられない。

 青年になって、初めて〈天騎士〉を見て、その思いはより強くなっていった。

 輝ける存在、誰からも称賛される英雄。

 そんなあり方を、それを体現させる力を、超級職の座を欲した。



 だから、彼は〈暗黒騎士〉へと転職した。

 当時、暗黒騎士系統の超級職である〈夜天騎士〉はどの国にも独占されていなかった。

 それどころか、未発見の超級職といわれ、転職条件も不明だった。

 〈暗黒騎士〉に就くものがほとんどいなかったせいもあるのだろうが。

 ハイエストでは、〈拝魔師〉や〈暗黒騎士〉のような〈降霊術師〉以外にも邪属性などに関するジョブは差別の対象となりえる。迫害を避けるため、【化けの皮】で正体を隠しながら、彼はレベルを上げ技を磨き、研鑽を積んだ。

 そして、十年の月日をかけて〈夜天騎士〉になるための条件をすべて達成して。



 彼は〈夜天騎士〉にはなれなかった。

 なぜなら――彼より早く〈夜天騎士〉の座に就いたものがいたから。

 超級職は、その系統の王者。

 玉座に座れるのは、ただ一人であり、今代の超級職が死ぬまで、その座は空かない。

 その男は、元冒険者であったが今はその実力を見込まれ、一つの部隊を任されている。

 邪属性の騎士ということで白眼視するものもいたが、聖騎士団の大半は戦力の参入を喜んでいた。

 冒険者が騎士団に引き抜かれること自体は珍しくもない。それこそついている職業が騎士系統か否かに関わらず。

 ましてや件の〈夜天騎士〉はわずか十五歳で騎士系統の超級職へ至った天才といわれている。

 引き抜かれない道理がない。

 誰もが、そう思っていたし、グレゴリーも理解していた。

 しかし、グレゴリーにとって、それは理解していても許容できるはずもなかった。

 自分の苦労はどうなるのか。

 これまで積み重ねた日々は何のためにあったのか。

 家柄のせいで到達できず、今度は魔の悪さなどという意味不明なもののせいで、またも挫折を味わわなくてはならないのか。

 家柄や才能に任せただけの愚者に、なぜ自分が頭をたれなくてはならないのか。

 なぜ、私がこんな目に合わなくてはならないのか、本気でゴーレムは苦悩した

 そして三年前、こんな辺境に左遷されることが決まってしまった。

 



 半ば自棄になり、酒場にて酒をあおっていた時だった。

 陽が沈み、空が闇に染まり切った瞬間になって、それ(・・)は音もなく表れた。



「何を嘆いているのかな?」



 その声音はどうしようもなく気楽で、楽観的だった。

 それがどうしようもなく、癇に障った。



「……失せろ」

「いやいや、せっかくだし話してみなよ。少しは気分が軽くなるかもしれないよ?」



 そこでようやく、声からしてその人物が女性なのだと気づく。

 カウンターの隣を見ると、フードを目深にかぶっているため顔はわからなかったが、長い銀髪がのぞいていた。



「お前に話すことなどない」

「いやいやあ、言ってみなって、ね?」



 彼女の声音は軽薄で、事情を話す気にはなれない。あるいは、彼女はまともに話を聞く手合いではないのだろうと、酔った頭で結論付けた。

 あまりに不快だったので、酒場から立ち去ろうとして。



「――超級職」



 ひどく、冷たい声を聞いた。

そう、一人、酒場で嘆いていた時、唐突にそれは現れた。

 

 それが左隣の銀髪女から発せられたと悟るまでに数秒の時間を要した。

 だがそれ以上に、発せられた言葉の内容が衝撃だった。



「なぜ、それを」

「知っているとも。君のことはね。あと少しというところでとられてしまったんだろう。さぞ無念だったろうね。その無念は、よく知っているとも」



 声音は冷淡だったが、内容が彼の心に響いた。

 知らないはずのことを知っているということを気にする余裕もなく、気づけば、彼は席に座ったまま自分の心情を吐露していた。

 あるいは、自分の真実を知っているならば誰でもよかったのかもしれない。

 〈暗黒騎士〉であることさえ、誰にも教えていなかったのだから、本来いるはずもなかったが。

 一人で抱え込んで、そういったことを疑問に思えない程度には、追い込まれていた。



「なるほど。あとわずかというところで、栄光を得られなかった、か」

「ああ、そうだとも、もう少しだったのに、あんな冒険者崩れ風情に!」



 かなり大声で叫んだがはずだが、どういうわけか彼と彼女以外に聞かれた様子はなかった。

 もしかすると、彼女が何かしら細工したのかもしれない。



「その栄光とやらを、もう一度つかめるチャンスがある言ったらどうかな?」

「――は?」



 彼女の言葉に、驚いて顔を初めて彼女の方に向けた。

 彼は、初めて彼女の目を見た。

 奈落を連想させる、深い深い絶望を湛えた紅の瞳。

 それが、彼を見ていた。



「君に就ける超級職がある。目指してみるかい?」



 彼は、無我夢中で彼女の手を取った。

 もはやそれ以外に選択肢などなかった。



 ◇◆◇



 聖と暗黒の両方を極めたものだけが得られる超級職――〈黎明騎士〉の条件を、協力者に教えてもらった。

 呪具を作るために、大勢の子供の命を犠牲にした。

 聖属性攻撃による一定ダメージが必要だったから、そのためのサンドバッグとしてアンデッドを増殖させた。

 結果的に全てを処理する前に条件を達成したため、いくつかは死体が残ったが、どうでもいいので旧墓地に放置した。



 ーー全ては、私が私の玉座に到達するために、そのためだけに。

 ーーそのための手段は選ばない、選んではいけないのだ。

 ーーもう条件は九割がた達成したのだ。

 ーーあともう少しで、超級職に、栄光の座ににたどり着けるのだ。

 ーーだから、私は。


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