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いまだ見えぬ黒幕

 ビンセントたちを倒し、メーアを救出してから、一週間後。

 あの件で、ピーターはそれなりの報酬を得られた。

 本来は、上のランクの冒険者たちに割り振られる仕事だったから無理もない。

 それだけではなく、ヴァッサーとメーアから大量のポーションを譲り受けた。

 さらには、ピーターの

 おかげで金銭には余裕があったのだ。

 そんなわけでイチゴ味の棒つきキャンディをピーターは舐めている。

 リタがねだってきたので味わった後の処理をしていたのだ。

 顔を、リタの股のあたりに突っ込みながら。ペロペロと舐めている。

 リタの方は、特に何も感じていないし、気づいていない。

 恍惚した表情を浮かべているピーターが何を想像して飴をなめているかにも気づいていない。

 幸せな時間を過ごしているピーターだったが。



「何してるのよ」

「すうーーーーーーー」



 後の声を感じて、慌てて、声の主の方をピーターは向く。

 ユリア・ヴァン・カシドラルが奇妙そうな顔でこちらを見ていた。

 一応、一般的に考えてやってはいけないことをしているという自覚があったので、冷や汗を流す。

 が、特にユリアの方は気づかずに話をした。

 これがルークたちなら気づいただろうが、彼女はそういう知識に疎いため、気づけないのだ。

 彼らに気づかれた場合、社会的に死んでいた可能性もあったので幸運である。



「ちょっと、どうしたものかと思っているのよ。んで、聞き込みをやってるの」

「……結局、人さらいは全滅したんですよね?」

「ええ、そうね」



 もう、人さらいは全滅させたはずだし、メーアたちも救出された。

 だというのに、どうにもユリアの口調は歯切れが悪い。



「何かあったんですか?」

「……それは」



 ユリアは言おうか、言うまいか迷っているようだった。



「――数が合わないの」

「え?」

「行方不明になった人物と、今回救出された人物の数の比率がおかしいのよ」

「…………あ」



 ユリアに指摘され、ようやくピーターも気づく。把握する。



 ――行方不明者はこの二か月で急増していて。

 ――ここ二か月だけでも、おそらく五十を超えるかと。



 ピーター達は、確かにメーアなど数名を救出することに成功した。

 他にも、冒険者たちによって、救出された人はいるらしい。

 しかし、それでも大元の雇い主を特定できていない。

 ビンセントも、あくまで雇い主相手に誘拐した子供やほかの人間を引き渡していただけである。



「それに、誰に売ったのかもまだわかっていないわ」

「……すみません」



 ピーターは咄嗟に謝った。

 感情と、敵を抹殺しなくてならないという判断のもとに、ピーター達はビンセント達を殺したが、それにしたってやりすぎだったかもしれない。



「謝ることはないわ。あなたの仕事は犯人の特定ではなく被害者の救出だったもの。生け捕りにできなかったとして、あなたに非があるわけじゃない」



 彼女の言うことは正論だ。

 実際、ピーターの功績はたたえられこそすれ、貶されるようなことではない。

 手がかりとなりうるはずだった盗賊を殺したことについては、特にお咎めはなかった。

 それは間違ってはいないが、どこか彼女の言葉には壁があった。

 まるで、どこか距離を取ろうとしているような。



「あとは、騎士団で……いえ、私が何とかするわ」

「……お任せします」



 とはいえ、ピーターが何ができるわけでもなし。

 それは、どうしようもない事実である。



「がんばって!」

「ありがとう」



 最初、関係がよくなかったはずのリタとユリアも、いつの間にか仲良くなっていたらしい。

 


 ◇◆◇



「いっちゃったね」

「まあ、彼女の仕事は忙しいからね」



 その後、ユリアは「この後用事があるから」と冒険者ギルドを出ていった。

 そんな後姿を見送ってから、リタは、自分の足元にいるピーターを見て、問う。



「ぴーたーはどうするの?」

「そうだね、どうしようかな。もう仕事は終わっているし」



 盗賊が、一体どこの誰に売りつけるつもりだったのかはわからない。

 だが、ピーターにはもう首を突っ込まなくてはならない理由はない。

 冒険者としての義務はもう果たしている。



「リタは、どうしたい?」

「……たすけたい。ちからになりたい」

「そうだね」



 彼女が、ピーター達を実のところどう思っているのかはわからない。

 アンデッド使いだと認識しているのかもしれない。

 それでもいい。

 リタが、助けたいといったのだ。

 リタの表情をわずかでも曇らせてはいけない。

 彼女の心を一部だって傷つけたくない。

 彼女が幸せだと感じられない瞬間なんて、一秒でも存在してはいけない。

 彼女の望みは、願いはすべてかなえたい。

 だから、止まらない。止まることなどありえない。

 不滅の狂愛によって動いているピーターが止まるはずがない。

 結局のところ、心のよりどころをただ一つ、リタに置いているピーターの心理は彼自身以外には理解できない彼の自由意思だ。



「冒険者としての義務はすべて果たした。だから」



 彼は、ちらりとリタの方を見て。



「あとはもう、僕達個人の自由とわがままだよ」



 ピーターはそういってほほ笑んだ。

 そして、ギルドである用事を済ませてから、彼女の後を追うことにした。

 


「ピーターさん、大丈夫ですか!」



 冒険者ギルドを出た直後、ルークにからまれた。

 がっちりと肩を掴まれ、ぐわんぐわんと揺すられる。

 最低限の下限はされているのだろうが、それにしても苦しい。

 脳震盪で気絶してしまいそうだ。



「落ち着けヨ、ルーク」

「あの、【鑑定】によると、特に問題はないので、むしろ、ルーク君が揺するとかえって危ない」

「……単純に、首が捥げて死ぬぞ」

「あ、申し訳ないっすピーターさん」



 【鑑定】はルークも持っているはずなので、心配することなど何もないはずだが。



「何でそんなに、ごほっ、動転してるんです?」

「何って、この前のクエストで大怪我したって……」

「ああ……」



 なるほど、ビンセント達との戦いを経て、ピーターは重傷を負った。

 治癒限界に達したのは、ピーターにとっても久々であったし、それによって先ほどまでベッドに入っていたのも事実であった。

 そういう情報を聞けば、なるほど、心配されるのも無理はない。

 



「いえ、大丈夫ですよ。なんとか回復しきってますから」



「みんな、あの、ゆりあがどこにいったかしらない?」

「ああ、ユリアさんならさっき見たっすよ」

「本当ですか?」

「ああ……なんか旧墓地に、向かっていったような。騎士さんたちも、何人か一緒でしたよ」



「すみません、ちょっと行ってきますね」



 大丈夫だと思うが、一応不安だ。

 今から追えば間に合うだろう。




 

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