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児童誘拐は法律で禁止されています

遅れて申し訳ありません。

 リタの、別の意味で怖い話を聞いたこともあり、そういう雰囲気でもなくなったため、怖い話はやめておこうということになり、話題は冒険者ギルドのことへと移った。

リタは不服そうだったが、ピーターが何とか追加でパンケーキを注文してなだめた。

今はご機嫌な顔で、リタがパンケーキを味わって。

 味わったそれを、ピーターが恍惚とした顔で食しているところだ。

 全員の目が冷たかったが、ピーターは気にしたら負けと思うことにした。



「なるほどね、冒険者って思ったよりいろいろやってるのね」

「まあ、冒険者というのは何でも屋のようなものですからね」



 普段敬語を使わないルーク等も、聖騎士にたいしては敬語である。

 まあ、護衛対象だったというのもあるが。



「そういえば、最近は俺らが受けたのも含めてパトロールの依頼がギルドから結構出てるゾ。いやな事件が起きてるらしいナ」

「いやなじけん?」



 この中で、然程荒事にかかわっていないリタが疑問を呈する。

 ピーターは、パトロールの依頼は受けられないものの、その事件というのは聞いたことがあった。

 というより、冒険者なら大体のものは知っているだろう。



「確か、誘拐事件でしたっけ」

「ああ、そうだな」



 誘拐事件、人さらい。

 そういう奴らはこの世界においてはどこにでも、いつの時代にも存在する。

 なぜなら、そこには常に、他では満たせない需要があるからだ。



 職業(・・)である。

 レベルを上げることで、ジョブに対応してステータスが上がり、何らかの条件を満たすことによってスキルを獲得する。

 職業で得られるスキルの中には、他の生物やアイテムでは代用不可能なものも多くある。

 また、人の中にはギフトというオンリーワンのスキルを秘めたものもいる。

 ピーターのような甚大なデメリットをもたらすものもあるが、大きなメリットを産むものもある。

 そういった事情から、すべての人間は、何かしらの可能性を秘めている。

 あるものは鍛冶の、あるものは魔法の、あるものは剣の技術を持ったエキスパートだ。

 他にはない、文字通り人的資源であり、他では代用できない需要がある以上、人さらいはなくならない。

 それこそ、世界各国全てで誘拐は極刑が適用されるにもかかわらず、だ。

 それだけのうまみがあるのだが、今回の誘拐は特殊だった。



「ただの誘拐じゃない、です、よ。それも、子供ばかり誘拐されている、らしい、です」

「……そう、子供ばかリ(・・・・・・)が」

「あの、皆さん、どうして一斉に僕を見るんですか?」



 周囲の冒険者たちから、何やら疑惑のこもった目を向けられるピーター。

 事実婚発言に加え、先ほどのリタによる無意識の、ピーターの異常性についての暴露も加わって、ピーターの信用は地に落ちてしまったらしい。




 遠巻きに見ていたカフェの店員は、騎士団や冒険者ギルドに通報すべきか迷っていた。



「まあまあ落ち着こうぜ、みんな。ピーターさんがロリコンだとしても、手段も動機もピーターさんにはねえだろ。男女問わずさらわれてるって話だし」



 ルークが仲裁に入る。



「そうだナ。ロリコンが男子までさらったりはしないカ」

「……そうだな。それに誘拐する手段も、ピーターさんにはなさそうだしね」



 さすがに本気で疑っているわけでもない。

 本気で、ロリコンだとは思っているが、そこまで評価は低くない。

 まあ、酒場での冗談ぐらいの感覚だ。

 先日の死闘で、冗談を言えるくらいには打ち解けていた。



「少し訂正がありますね。私はロリコンではなく、リタを愛しているだけです」

「それはそれでダメだロ」

「気持ちわる、い、です」

「……むしろ、そちらのほうが問題なのでは?」

「まあ、愛の形はそれぞれってやつかしら……?」



 周囲が何か行って来るが、ピーターはこれと言って動じていなかった。

 この程度の暴言で彼の心は痛まない。

 暴言というのは、彼にしてみればもはや慣れ親しんだもので、むしろまだ暴力を振るわれていないだけましと考えている。

 まして、アンデッド使いではなく、ピーター個人への非難では心は痛まない。

 いっそ心地よいくらいだ。



「何で鼻歌を歌っているん、です、か?」

「ああ、すいません」



 気分の良さが態度に出てしまったらしい。

 ユリアが、話の方向性を変えるべく口を開く。

 


「その誘拐事件に関しては、我々騎士団も調査を進めています。特に支部長が張り切っていらして……」

「どうかしたんですか?」



 説明をしている途中で、げんなりした顔になっているユリアを見てピーターは口をはさむ。

 言われてユリアは少しうつむいた顔を上げて。



「ああ、すいません。騎士団長が随分張り切っておられて、いえ、事件解決のために張り切っていること自体は騎士として正しい行為なのだけれど……」



 いささか歯切れの悪い口調で、何か説明をしようとして。



「……何か、来る。【索敵】に反応があった」

「道場破りかな?少なくとも、敵意は感じるね」



 ルークとニーナが顔を上げ、入口を向く。

 感知能力に優れた彼らが、真っ先に音と気配を感知したのだ。

 斥候職が感知するような剣呑な雰囲気を発する危険な何かをだ。



「ああ、噂をすれば、ね」


 ユリアがつぶやくと同時、ピーター達も遅れて察知する。

 入口から、一つの影が入ってくる。

 それは、一人の大男だった。

 たくましい筋肉で覆われているのが鎧の上からでもわかる。



「たのもう!む、カシドラル卿!一体ここで何をしているのか!」



 兜からは顔だけが見えており、それ以外の肌は隠れている。

 額にある大きな傷。



 よく見ると、顔には無数の傷があり、おまけに打撲でも受けたのか、わずかに変形している。

 顔以外の皮膚がどうなっているのか、想像したくない。

 それほどに、鍛え上げられた騎士がそこにいた。



「今日は非番です、ゴレイム団長。そして休日を使って先日の件の謝罪に来ただけです」

「そうか、非番の日だったか。じゃあ、私もしかるべき対応をしようかな」

「まことに、申し訳ない!」



 くの字におって、謝罪をしてきた。

 些か、ピーターは混乱した。



「あの?」

「部下の不始末は私の責任だ、この通り申し訳ない!」

「いえ、あのもう気にしてないので……」

「そうか!ありがとう!では、私は聞きこみとギルドマスターとの話し合いに行って来るよ!」

「わかりました、団長」

「うむ、冒険者などと戯れすぎず、栄光ある騎士としての自覚を持ってくれたまえ」



 そういって、快活な声を響かせたまま、歩いて行った。

 ピーターは、「この人もしかして、あんまり反省してないのかな?」と思った。



「へんなかんじのひとー」



 リタが出て行った後にいったが、周りの感想も似たようなものである。



「ごめんなさい、皆さん。あれでも悪い人ではないんだけど」

「いや、私は別に構いませんよ」

「ま、騎士さんに嫌われんのは慣れてますよ」

 

 ユリアは謝った。

 しかし、ピーターも、ルークたちも特に気にした様子はなかった。

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