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とどのつまり、一番怖いのは人間である

「そこで俺は思ったんだよな。――あれ、これおいしいけど……なんの肉だろう?って」

「ひえっ」

「……そんな話初めて聞いたぞ」

「まだ、私たちと出会う前の、話です、かね」

「そうだね。というか、俺が王都に行く前の話だからさ」



 ルークの話を聞いていた。

 話としては、昔滞在先で、正体不明の肉を食べさせられた、というものだ。

 断固として、何を食べさせてくれたのかは教えてくれなかったらしい。

 当時はルークに微塵も余裕がなく、食うにも困っていたため、余裕がなかったのだろうか、とピーターは察した。



「人肉の可能性もあったんすよね」



 ぽつり、と漏らしたルークの言葉で空気が重くなる。



「うっ」

「怖すぎるんだが……」

「人の肉ではないと思いますよ」

「そうなのか?」

「ええ、人肉がおいしいわけないので」

「……食べたことあるの?」

「色々あって、アンデッドの肉を食べたことがあります……」



 本当に、いろいろあった末の話である。

 具体的には、一度限りのパーティを組んだ時、そのメンバーにダンジョンにて囮として置き去りにされてしまったという事件があった。

 さらに、脱出するまでに食料が尽きたので仕方がなかったのである。

 なお、味は劣悪であり、なおかつダンジョンから出た直後に腹を下した。

 ダンジョンから出る前でなくて良かったな、と今になっては思う。



「だから、ゴブリン肉とか、単純に希少な肉だったんじゃないんですかね?」

「あーなるほど。……あの、ゴブリン肉食べたことがあるんすか?」

「ぴーたー、むかしはおかねなかったもんね!」

「あっ」

「そうだったの?ピーター」

「まあ、色々あってね……昔は本当に食うに困っていたからね」



 ピーターの悲しい話が出てきてしまったことで、あわてて話を切り替えた。



「そういえば、皆さんは、いつからパーティーを組まれてるんですか?」



 ピーターが、ルークたちに質問する。



「比較的最近っすよ」

「ルークと王都で同時に出会って、それでパーティを組んで、今に至るって感じだよナ」

「……そういえば、まだ三ヶ月と経っていないのか」

「随分と、濃い気が、しますね」

「それだけ楽しかったってことだろうなア」

「そうだな、みんなと過ごすのは俺も楽しいよ」

「「「…………」」」



 三人が顔を真っ赤にして、固まる。

 ユリアが、席から身を乗り出して、顔をピーターの耳元に寄せる。



「ピーター、これはもしかしてそういうこと(・・・・・・)?四角関係?」

「まあ、そうですね。とりあえず、ここは穏便にしておいた方が無難なので、触れないであげてください」



 聞こえないように、声を潜めて二人は言葉を交わす。

 なるべくそっとしておくべきであり、他人がどうこう言うべきではない。

 人として、当然の話である。


 

「みんなるーくがだいすきなんだね!」

「「「…………っ」」」



 そんな様子を見ていたリタの指摘に、三人は顔を赤くして固まった。

 リタに、人の常識や通用しない。



「リタ、そういうのは恥ずかしがる人もいるから」



 ピーターが、あわててリタを止めに入る。

 こういう色恋沙汰は、止めておかないとよくないことになる。

 まして、仲間内で一人の男性を取り合っている状況だ。

 彼自身、恋愛に対してほとんど知識がないなりに、彼も何とかリタをセーブしようとしていた。



「え―でも、ぴーたーはまいにちりたにいってくれるよね?」

「もちろんそれはそうだし、いつも愛してるんだけどね……」

「わーい、ありがとー」



 照れも誇張もなく、素直な言葉。

 冒険者ギルドのカフェの中、すなわち公衆の面前においては、些か過剰に思える表現ではあっても、彼等にとっては、あくまで日常の延長線上である。

 そんなピーターとリタの、日常的に行われているなストレートな愛情表現に対して。



「気持ち悪いナ」

「……うっわあ」

「変、態」

「言ってることは何も間違ってないはずなんだけどね」

「な、仲がいいことはいいことだわ、ね」



 各々の反応は、変質者を見る目だった。

 ピーターは、若干戸惑った。

 どうして、自分達だけ気持ち悪いといわれるのか。

 ピーターにとっては、謎である。

 ピーターにしてみれば、別に彼自身の性質をとやかく言われるのは、悪い気はしない。

 わけのわからない職業差別で襲われるよりは、彼自身の趣味で気持ち悪がられる方がよっぽどいい。

 なので実のところ嬉しさが半分、戸惑い半分といったところである。



「いやいや、待ってくださいよ。それは見た目に惑わされているだけですって」

「まあまあ、ピーターさん落ち着くっすよ」

 ルークは、なぜか特に何とも思わないようだった。

 そんなこんなで、怪談と会談は続く。


「わたしも、こわいはなしする!」



 次の語り手として、彼女が名乗りを上げた。

 まあ不満があるから次は自分が語る、というのは健全な発想ではある。

 とはいえ、正論がすべて受け入れられるわけでもないように、ピーターも含めた、全員が驚きなおかつ心配した。



「リタちゃん、ちゃんと話せるの?」

「だいじょうぶだよ!」

「じゃあ、せっかくだし話してもらおうかな」

「そうだ、な」



 とりあえず、話を聞いてみようという雰囲気になった。

 全員が黙ったのを待って、リタが語りだす。



「あのね、わたしはぴーたーもはるも、かぞくがだいすき!だけどね……ときどきわたしたちのみのまわりでへんなことがおこるの」



 急に押し黙るリタを前に、一同はかたずをのむ。その中には、ピーターも含まれていた。

 ピーターも、怖い話というのに心当たりがないからだ。

 万が一リタを泣かせてしまうことを恐れたがゆえに、そんな絵本を読み聞かせた覚えが無いため、好奇心半分、緊張半分であった。

 実体験ゆえの怖い話……というのも心当たりがない。

 もちろんモンスターやらと戦闘になったりするのはある意味恐怖かもしれないが、彼女はさほどなんとも思っていないはずだ。

 ピーターが寝ている間に、ハルとともにモンスターを始末していた……などということは両手の指で数え足りないほど起こっていることなのだから。



「のじゅくしているときにね、ぴーたーはといれのためにくさむらにいくの。わたしはひとりだから、ちょっとこわいの」



 ほっと、一同が安堵と落胆のため息をつく。

 いわゆる他人を怖がらせる話、怪談ではなかったのだ、と理解する。

 まあそれも当然、彼女にはまともな怪談のストックがない。

 その認識は、間違っていない。



「あのね、あるよる、とてもしずかなよるだったの。ぴーたーのこえがきこえたの」



 しかし、完全な正解でもなかった。

 ピーターとリタ以外の面々はどういうことだ、と思い。

 ピーターは、まさか、と思い、冷や汗が一筋、頬を伝った。



「といれしてるはずなのに、りた、りた、りた、りたってなんどもわたしのなまえをよぶぴーたーのこえがきこえるの。ほしがるような、せつないようなこえなの」



 リーファはまさかと思い。

 ユリアは何のことかわからず、どうしてと思い。

 〈狩人の牙〉のメンバーは全てを察してピーターを白い目で見て。

 ピーターは、顔を青くして、冷や汗を二筋たらした。



「それでね、といれからもどってきたぴーたーにきいても、しらない、きおくにない、そんなこといってないっていうの!なんだったんだろうねって、ふしぎだなって、ちょっとこわいなっておもったの!おしまい!」

「スウ――――――――――ッ」



 ピーターは、冷や汗が三筋、流して、大きく息を吐いた。



「「「「…………」」」」



 「猟犬の牙」の四人をはじめとする大多数の人間は、うわあ、という顔をしたまま無言でピーターを見つめ。



「まあ、ピーターさん、その俺は否定とかしないので……」

「やめてください、今ものすごく反省してますから。ごめんなさい」



 顔を青くして、冷や汗を大量に流したピーターが謝った。

 シンプルに恥ずかしかったのである。

 完璧に隠し通したと思っていただけに、羞恥に耐えられなかった。



 まだ、罵倒してくれた方が気が楽だった。

 絶句されたり、気を使われる方が、ダメージが大きいのだ。



「……どういうこと?」



 いまだに意味を理解できていないユリアだけが不思議そうな顔をしたまま、首をかしげていた。

 そういった知識を得る機会が今までの人生においてなかったのである。

 箱入り娘、ではないが、騎士として生きる上でそういったことはまるで学んでこなかったのである。



「うーん、あんまりこわくなかった?」

『いえいえ、奥様、素晴らしい話しぶりでございました』

「ほんと?やったー!」

 なお、ハルとリタは、いつも通りだったとだけ付け加えておく。





3000PVいってました。

あと、評価二百超えてました!

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