予期せぬ再開をしたら取るべき選択肢は逃走
「それで、最後はルークさんがとどめを刺してくれました」
近況報告を、色々と説明していた。
ピーターが、先日のクエストについて説明していた。
フレッシュゴーレムが出たこと。
それが、元凶であるのではないかということ。
一度引いた後、ルークたちとともに、ゴーレムメーカーを討伐したこと。
しかし、倒したところで、フレッシュゴーレムが怨念に汚染され、自立したまま暴走を開始したこと。
結果的に、何とか討伐できたこと。
「それで……本当に、そのフレッシュゴーレムが旧墓地アンデッド騒動の原因だったのかい?」
「そうみたいです」
急激に発生した、複数のゾンビたち。
それらは、フレッシュゴーレムの分体だった、という報告が上がっているらしい。
分体を作るスキルは、アンデッドとしては決して珍しいものではない。
有名なところでは、スケルトンやゾンビの兵を出して指揮するロストシップや、元々中に住んでいた人を再現したゴーストを生み出すゴーストハウスなどがある。
フレッシュゴーレムが討伐されてから、アンデッドの目撃情報がなくなったこと。
また、あちこちで討伐されたスケルトンやゾンビと、フレッシュゴーレムの状態が一致していたことから、同時期に死亡した死体からできていることも判明したらしい。
と、いう情報をピーターはアランから聞いた。
彼なりに、情報提供してくれたピーターに対して、何か対価を払うべきだと思ったのか、あるいは彼の面倒見の良さゆえか。
いずれにしても、アンデッド事件については、一応の解決を見たといってもいいだろう。
「そう言えば、騎士団詰め所に何の用事があったんですか?」
たまたまいたのだろうか。
それにしては、タイミングが良すぎる気がするが。
「ああ、最近の誘拐事件のことでちょっとね」
「まさか……ラーシンさんまで疑われているんですか?」
ピーターは眉を顰める。
迷宮都市アルティオスにおいて、遺憾なる呪いの武具をも確実に処分できる彼の存在は大きい。
それこそ陰の立役者といってもいい存在の彼まで疑われているのだとしたら、あまりに理不尽だ。
「いやいや、そうじゃないよ。ちょっと彼らに協力していただけさ」
「あ、そうなんですね」
騎士団は、内部の治安維持がメインである。
当然、今回のような誘拐事件は、それこそ騎士団の管轄だ。
「僕としても、子供がさらわれる例の事件は、他人事とは思えないんだよね」
「一応、冒険者ギルドも動いてはいるみたいです」
ピーターはルークから聞いた話ではあるが、どうやら斥候職が駆り出されているらしい。
ルークやニーナのジョブも、斥候寄りで探索向きなので最近捜索に関する依頼が回ってきたそうだ。
例のクエストをこなしたことで、下級職をカンストしたピーターとは異なり、大幅にレベルが上がったことも関係しているのかもしれない。
ルークがレベルが一番上がったのだが、ミーナたちのレベルも上がっているらしい。
職業に関する行動をとると、経験値を獲得できる。
生産職であれば、生産を。
戦闘職であれば、戦闘を。
聖職者であれば、回復魔法や浄化魔法を。
各々がおのおのの役目を果たし、試練を乗り越えるという経験を積むことで、経験値を得る。
そしてその試練が大きければ大きいほど経験値は増える。
そんな試練を乗り越えた彼らは、一段と成長し、そういったクエストも割り振られるようになったというわけだ。
珍しい聖職者のフレンがいることもあって、今や期待の新人パーティとまで言われている。
敵意を感知する【索敵】は意味をなさないが、ゴーレムメーカーを見つけるのに使った感覚を強化するスキルなど、人探しや失せもの探しにも用いることができるスキルも彼らは有している。
そんな探索向きのスキルを有したものたちが、何人も捜索をしているが、未だに見つけられていない。
「まあ、ともかくありがとう。これでまた墓参りに行けるようになるからね」
「そうですね。良かったです」
「これでめでたしめでたしだね!」
「そうだね、めでたしだね、リタ」
「きょうはね、わたし、いちごはにーとーすとがたべたい!」
「じゃあそうしよう。とりあえず冒険者ギルドのカフェに行けばいいかな?ラーシンさん、今日はこれで失礼します」
「そうか、うん。またいつでも来てね。私も、墓参りに今から行って来るよ」
ラーシンとピーター達はそこで分かれて、別々の目的地に向かった。
「ぴーたー、よかったね」
「……うん」
大事な人が、ピーターのやったことで、少し救われる。
それが、ただ嬉しいのだ。
いまだ、ピーターは不当な扱いを受けていて。
味方は少なく、敵は多くて。
それでも。
社会の中で、貢献できているのなら、少しでも力になれるなら、ピーターが動く意味はそこにある。
◇◆◇
「今日はあんまり人いないねー」
「あちこち動いている人が多いからね」
冒険者ギルドは、先日よりもいくらか閑散としていた。
斥候職が捜索に出回っているのはもちろん、パトロールのクエストを受けて見回りをしている冒険者もいる。
街中で、ピリピリした空気が発生していた。
「まあ、僕たちはいつも通りだね。パトロールに参加したら、かえってパニックを呼ぶし」
「はるはこわがられるもんねー」
できることもないので、とりあえず食事にする。
先日の依頼で、討伐に応じて追加で報酬が出たこともあり、ピーターの懐はそれなりに温かい。ポーションなどをまとめ買いしたことを含めても、未だ余裕がある。
ハニートーストのような砂糖や果物をふんだんに使った料理は割高だが、今は別に気にならない。
もっとも、ピーターは、余裕がなくてもリタのために奮発して買ってしまうのだけれど。
定期的に買わないと、彼女が気を損ねるし甘いものを食べているときが一、二を争うレベルで幸せそうにしているので、致し方なしである。
ちなみに一番は、リタ、ないしはピーターが寝る前に絵本の読み聞かせをして貰っている時であり、二人どちらにとっても至福の時間である。
ピーターはともかく、リタはたまに、かつ寝たいときに寝るのでいつもできるわけではないが。
「ぴーたーは何を食べるの?」
「リタと同じものかな」
基本的に、リタが甘いものを楽しむとき、ピーターもそれと同じものを食べる。
というのは、彼女には味わうことやにおいを楽しむことは出来ても、咀嚼や嚥下、消化吸収といった行為まではできないからだ。
冒険者になってから決して生活に余裕がないことも手伝って、彼は比較的小食な方である。
そして彼女の頼んだ食事を処理しなければならないのだ、必然的に彼女の頼んだものしか食べないことになる。
甘いものがない時、リタは何も食べたがらないので、自分で頼めるが、そうでなければ彼に選択の自由はない。
しかしそれを彼は不便とも不幸だとも思っていない。
と、楽しい話をしていて注意力が落ちていたらしく。
「「あ」」
前を歩いていた人にぶつかってしまった。
誰かもわからぬうちから、ピーターはとっさに謝る。
「おっと、すいません、え?」
「いえ、こちらこそごめんなさ、え?」
ぶつかったのは、一人の少女だった。
十文字の装飾が施された、白銀の鎧をきていて、紫色の髪を兜で覆っている。
腰には、十字剣を佩いている。
どう考えても、聖職者である。
それだけならば、まだよかったかもしれない。
この迷宮都市に戻ってきた日に出会った少女だった。
あの日ピーターに、襲い掛かった聖職者だった。
「失礼しましたあ!」
ピーターは、脱兎のごとく走って冒険者ギルドを飛び出した。
・経験値
職業ごとに、何をすればより膨大な経験値を得られるかが異なる。
〈剣士〉ならば、剣を振るって戦えば。
〈降霊術師〉ならば、アンデッドを支えて戦うことが。
経験値効率が最もいい。
ただモンスターを倒したらレベルが上がる、というものではない。
経験値は、他者から奪うものではない。
自分の中で内在的に積み上げる者である。
最後の少女は、三話くらいを参照してください。




