作戦立案
火力と言えば、とピーターは思い出す。
相手のモンスターに関して、重要なことがあったからだ。
「ひとつわかったことがあります。あのフレッシュゴーレム、火力はそこまでありません」
ポーションを飲みながら、ルークたちに、腕の傷跡を見せる。
ポーションで回復しているそれは、重症ではあっても、回復不可能な傷ではない。
現に、今この瞬間にも治癒を続けている。
かすっただけとはいえ、この程度で済んでいる。
それこそ、ハルの攻撃ならば、ピーターの防御力を考えれば、かすっただけでも腕が取れていたはず。
腕がしっかりと治療可能な程度に残っていたことが、相手の攻撃力の低さを示している。
機動力とHPはハルより上だろうが、火力と防御力はハルの方が上と思われる。
「体は大きいですが、おそらくはハルなら正面から打ち合えれば勝てます」
「主様のバフも加味すれば、間違いなく勝てるでしょう。奇襲されなければ、の話ですが」
「……フレン、聖属性魔法で何とかできる?」
ルークたちはフレンの方に顔を向ける。
ピーターも、刺激しないように気を使いながら、横目でフレンの方を見る。
全員に見られたことで、フレンは、びっくりした様子で、おろおろしだした。
「私は無理か、も。あ、あんな大きいアンデッド初めて見る。多分足に一本を消すのがせいぜいだと思う、よ」
フレンは、ピーターが怖いのか目を合わせようとしない。
人見知りなのか、あるいはアンデッドを使うピーターが恐ろしいのか、あるいはその両方なのか。
多分三番目だろう、とピーターは思った。
服装からしても元々教会関係者であると思われる。
そういうことを考えると、無理もない。
さらには、ルークなど他のメンバーに対してもどこかおろおろしている。
「それは、あの口から出ていた脚のことですか?それとも」
「あ、四本のうちの一本です。その、ごめんなさ、い」
「いえ、それなら。なんで謝るんです?」
「っ。すいません、さっきも怖がってしまって」
「ああ、」
そういえば、先ほどもハルに乗るのを躊躇していた。
と、いうよりもピーターの手を掴むことを咄嗟に躊躇っていたようだった。
それが遠因で、ピーターが怪我をしてしまったことを気にしているのかもしれない。
「今更ですから、気にしてません」
もう傷が概ね治っていることだし、問題はない。
取り返しがつかない傷でもないし、傷にも痛みにもすでに慣れ切っている。
「でも、あの、怒っているのではないのですか?」
「怒る?どうして、そう思うんです?」
「さっき、回復魔法はいらない、と」
「ああ……」
なるほど、とピーターは思う。
彼は回復魔法を必要としていない。
というよりも意味がない。ギフトによって弾かれる。
しかし、それを知らないフレンからすれば、悪感情による拒絶に映るだろう。
実際のところ、ピーターは全く怒ってなどいない。
彼らを助けよう、助けるというのは、あくまで彼自身の判断だ。
いざとなれば、見捨てるとハルにも言っていたはずなのに、だ。
それで怪我をするというリスクがあるのは、当然だ。
そして、手を取るのを躊躇されたのも仕方がない。
ピーターはルークたちに、ギフトを含めた手の内を明かしていない。
信用していないからだ。
それでは、逆に向こうからも信用されなくて当たり前。
もとより、友好的なルークが異端であり、本来はピーターという男は、普通に考えればアンデッドを使う最悪の職業だ。
ちゃんと説明し、信頼を築けなくても、築く努力をすべきだった。
「それは私のギフトがあらゆる聖属性魔法を無効化するからですよ。デメリットとして、回復魔法と補助魔法まで無効化してしまうのであまり無意味だから、いらないといったんです」
それは、事実で、なおかつ答えだ。
ピーターのギフトである、【邪神の衣】は、パッシブスキル。
自身と自身のパーティメンバーであるハルやリタをあらゆる聖属性魔法の影響から守る。
先日、聖職者からの攻撃を防いだ種であり、彼にとっての最大の艱難辛苦。
回復魔法を完全に無効化してしまうから、傷も簡単にはふさがらない。
聖水や回復魔法で直せることを考えれば、骨折や切り傷も、冒険者にとって本来大した傷ではない。
だがピーターにとってはそうではなく、致命傷になりかねない。
「そ、そうだったんですか」
フレンは、納得したらしい。
どこかほっとした様子だった。
「……そんなギフトもあるんですか。ギフトも、色々ありますよね」
「色々不便そうだナ」
「ええ、そうなんです。傷もポーションと自然治癒だよりなんですよね」
ピーターは改めて、フレンの方を改めて向き直り。
「ですから、気にしないでください。もう治りましたし」
腕をひらひらと振る。
ポーションの治癒力は回復魔法に劣るが、肉がえぐれる程度であればピーターが買える程度の額のポーションでも簡単に治せるものだ。
「しっかし、大変そうだナ」
「そうですね。まあやわらかいゴーレムみたいなものですよ」
「……それは、自虐がすぎないっすか?」
ゴーレムは魔力によって動くモンスターだ。
土や金属で作られるのが大半で、回復魔法で回復できない。
因みに、治癒力を強化する治癒魔法やポーションもきかないので、そこはピーターと違う部分だ。
フレッシュゴーレムの場合は、死体を素材としているためアンデッドでもあり、アンデッド専用の回復魔法は効く。
「ーー」
ふと、在る考えがピーターによぎった。
どうして、感知されなかったのか。
どうして追ってこなかったのか。その理由。
そして、それがもたらす、可能性。
「リタ、訊きたいことがあるんだ」
「なあに?」
「さっきなんだけど……■■■が辺りになかったかい?」
リタは、頭を押さえて、考え込む動作を取って。
「あ、あったよ!たしかにあった!」
「やっぱり。……そういうことか」
ピーターは思考をまとめる。
「索敵が通じなかった理由ですが心当たりが一つだけありますよ」
「「「え?」」」
「何か知っているんですか?」
「推測、状況証拠ですが。索敵が通じなかったことについては、問題ないと思います」
ピーターは、それから少しの時間をかけて概要を説明した。
ルークは、それを全て聞き終えて。
少しだけ、考えてから、口を開く。
「わかりました、みんな。可能性に賭けてみよう。倒しましょう、あの化け物」
撃破という結論を出した。
反対の声はなかった。
次回は22時に更新します。
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