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百面死相

「これは……」

「ルーク、どうしますか?」

「……ピーターさん。あれ、どうにかできたりしませんか?あのドラゴンスケルトンとか出して」

「無理ですね。あれ、下手すると、ハルより強いかもです」



 単純な大きさだけでおそらくは彼女の倍か、それ以上。

 重量などを考えれば、

 おまけにどのようなスキルを持っているかもわからない。

 ピーターのバフによる支援を加味しても確実性は低い。



「あまり時間をかけていると、別のアンデッドが寄ってくるかもしれません。距離を取ったほうがいいでしょう」



 スケルトンはともかくああいうフレッシュゴーレムやゾンビのような肉付きのアンデッドは足が遅いことが多い。

 逃げるのは容易なはずだ。

 しかしそれは。



「「「「「「おおおおおおおおおおおおあああああああああ!」」」」」



 こちらの想定通りに事が運べば、の話だ。



「え?」

「あれ、どうなって?」



 百面のフレッシュゴーレム――その形が変化する。

 まず、地面に倒れこみ、その巨体を横たえた。

 そして全身にある数多の貌の口が開く。開いていく。

 全ての口を引き裂いて、手足が飛び出す。

 その数は間違いなく、百を超えている。



「ちょっとなんだあれ?」

「いや、あれは僕も見たことはないタイプですね」



 ミーナの発言に、ピーターがのんきに返すが、そんなことを言っている場合ではもちろんない。



「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

 


 四つん這いになったまま、這ってこちらに向かってくる。

 あるいは、百つん這いとでもいうべきだろうか。

 少なくとも、ピーターやフレンといった鈍足の後衛職よりははるかに速い。



「ハル!」

「承知」



 とっさに【霊安室】からハルを呼び出して、自分は肋骨の上に飛び乗った。



「主様、彼女たちは」

「乗ってください!」



 ピーターはハルではなく、ルークたちに向かっていった。

 そしてそれで十分。



「承知しました」

「ありがとうございます!」



 ハルが、ピーターの意図を理解して、足を溜め。

 ルークは躊躇なく飛び乗り、他のメンバーも少し遅れてよじ登る。

 最後は、フレンだった。

 今すぐにも飛び乗れる、という状況で。



「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおあああああ!」」」」」」」」」」



 怪物が迫っていた。



「危ない!」



 ピーターは、とっさに手を引く。

 間に合った。

 フレンは無事だった。

 そして、少し遅かった(・・・・)



「あ、ぐ」

「ピーターさん!」

「ぴーたー!」



 怪物の爪が、ピーターの左腕をかすめる。

 わずかにかすった。

 ただそれだけなのに。

 皮と肉が裂けて、出血する。



「は、る」



 痛みをこらえながら、どうにかしてピーターはフレンを掴んで引っ張り上げた。



「承知!」



 全員が乗ったのを確認したハルは走り出す。

 全速力でその場から離脱するためだ。

 やがて五分も走ったころ、ピーター達は、どうにかフレッシュゴーレムを引き離し、離脱することができた。



「さて、どうしましょうか」



 ある程度距離を離して、HP回復ポーションを飲みながら、ピーターは問う。



「あ、あの、回復魔法を」

「いりません。ルークさん、ミーナさん、例のアンデッドの気配はありますか?」

「特にないと思うが……。突然だったからな。見落としがないとは言い切れない」

「おなじくですね。正直、どうやって現れたのかがまるで分からない以上、【索敵】スキルを信用しすぎるのは危険です」

「そうですね……【気配操作】のような強力な隠蔽スキルを持っている可能性もあります」



 【気配操作】は、〈盗賊〉や〈暗殺者〉のようなジョブが有しているスキルだ。

 気配を消し、索敵からその身を隠したり、その逆もできる便利なスキルだが、接触することで解除されるという欠点がある。

 一撃でターゲットを仕留めなくてはならない〈暗殺者〉やそもそも直接戦闘を避けて忍び込みかすめ取る〈盗賊〉にはマッチしたスキルと言える。



「アンデッドって、そういうスキル持ってないことが多いんですよねえ」

「そうなんですか?」


 モンスターのスキルには、主に種族によって左右される。

 アンデッドは、自己修復などのスキルに加え、呪術への耐性、そして聖属性魔法の弱点化などがある。

 幻覚を見せるアンデッドもいるが、その逆で存在を隠そうというものはほとんどいない。

 もとより強い意志と遺志を持っていたがゆえに、怨念を発してできたのがアンデッド。

 隠蔽のような消極的なスキルは獲得しにくい。

 どちらかと言えば、そういう迷彩型のスキルは生存に長けた生物系のモンスターが、所有している傾向にある。

 因みにそういう迷彩系のスキルも、アンデッド化するとうしなうことが多い。

 厳密には、身を守るスキル全般だ。

 アンデッドには、生き残りたいという生存欲求がない。

 ただ、望みを果たすまでには死ねないという遺志があって、それ故にあり続けているだけだ。

 それ故に、身を守るためのスキルはたいてい持っていないし、耐久力も生前より劣化しがちだ。

 ハルにしても、VITは生前の半分程度しかないし、魔法耐性を持った鱗を失っているので魔法攻撃全般に弱い。

 データとしても、フレッシュゴーレムの特性は、自己修復、分体生成、変形などがあるが、隠蔽などは聞いたことがない。





「そういうわけで、例外はあるんですが迷彩があるということは基本的にないと思うんですが……」

「じゃあ、転移とか?」

「そ、そんなの無理だ、よ。転移魔法なんて国中に使える人のいないレアスキルだ、よ」

「いずれにせよ、イレギュラーな相手ってことでいいカ?」

「どうします?ルークさん」



 このパーティのリーダーは彼だ。

 撤退か、あるいは調査の続行か。

 最終的な選択と決定は彼が行う。



「正直、でかいアンデッドがいたから逃げました、だけだとちょっと依頼達成とは言えないっすよねえ」

「アンデッドが、とりあえずあのゴーレムから、分裂しているのでは、ないか、と思えますね」

「分体生成は、フレッシュゴーレムの十八番ですからね」

「あ、そうなのカ」


 

 いずれにせよ、詳細がわからないままではならない。

 このクエストは、調査依頼。

 何事か問題があるのであれば、その実態調査と原因究明までやるべきだ。

 現状、原因究明の方ができていないので、片手落ちもいいところだ。



「……そうだナ」

「さっきのところに、戻る、か?」

「やめときましょう。別の方から迂回したほうが安全です」

「何処からくるかわからないなら、倒せれば一番いいんですがね」



 それはそうだ。

 周辺にいまだいるであろう、フレッシュゴーレム。障害を撃破できるのであれば、それに越したことはない。

 だが、そもそもこのメンバーは討伐にさほど秀でていない。

 斥候職のルークとミーナ、回復職のフレン。

 純粋戦闘職は四人中一人、〈剣士〉のイスナしかいない。

 純粋に火力が足りない。

 ピーターにしても同じ。

 リタとピーターに直接的な攻撃力がなく、ハルの火力でも削り切れるかどうか怪しい。



レビューをいただきました。

冒頭に対して、そういう解釈もできるんだなと感心しました。

文章も喜んでいただけたようで、良かったです。


感想、評価、ブックマーク、レビューなど気軽にいただけるとありがたいです。

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