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邪神の味方は、薬と悪魔


 しばらくぶりに話すぴーたとリタ、そしてメーア。

 話題は、互いの近況が中心だった。

 メーアは、最近来た顧客の話を。

 ピーターは、習慣ともいえる菓子巡りについて。



「ええ!あそこのキャンディ屋さん、また新作出たの!」

「ええ、確かスイカ味と、メロン味と……クルミ味だったような気がしますね。最後のは怖くて購入してませんけど」

「すいかあじもめろんあじもおいしかった!」



「よければ、食べますか?」



 ピーターは、アイテムボックスから包み紙に入った飴玉をいくつか取り出す。

 


「あ、ありがとうございます!ええと、じゃあメロン味をもらおうかな」

「じゃあわたしはすいかあじだね!」

「はいはい」

  


 ピーターは、メロン味をメーアに渡して、スイカ味の包み紙を開き、自身の手のひらの上に飴玉を乗せた。



「おいしいー!」

「あまひでふね」



 二人とも、飴をなめながら、幸せに浸っていた。

 菓子類は、女性陣に人気であり、それはメーアやリタも例外ではない。



「癒されるねえ」


 ピーターも、自分の手のひらを間接的に舐めるリタを見ながら、幸せに浸っていた。

 それを見ていたメーアが、きょとんとした表情を浮かべる。

 


「どうして、それで癒されるんですか?」

「メーアさんも、いずれ好きな人ができれば分かりますよ。……リタは人じゃないかもしれませんが」


「癒される、ですか。……そういえば、ポーションを買っていかれたということは、またクエストを受けるということですか?」

「そうだよめーあ!あしたもくえすとなんだよ!」



 リタが、メーアに頭上から話しかける。

 ちなみに、彼女はまだ飴玉をなめている途中である。

 

「そうなんですか……。気を付けてくださいね?ピーターさん危なっかしいですから」

「あはは、大丈夫ですよ。すみません、心配おかけしまして」



 ピーターは、ヴァッサーとメーアにとっては上客ではあるが、同時に、心配な相手でもある。

 なにしろ、個人で彼よりポーションを購入している人間は存在しない。

 冒険者は、怪我が多い。

 モンスターなどと戦う職業だからといいのもあるし、そもそも人間同士のトラブルというのもある。

 それこそ、即傷に使わなければ効果のないうえに、以上に高価な聖水を多用しているのが冒険者の間では普通とされている時点で、お察しである。

 冒険者にとって、傷も、命の危険も日常なのだ。

 というか、ピーターの場合は対人トラブルが多い。

 先日も、聖職者に襲われたり、村人に石を投げられたりと、枚挙にいとまがない。

 そして、ピーターは生まれつきの体質で、聖属性の回復魔法や聖水で傷を治すことは出来ない。

 多くの冒険者が聖水や回復魔法などで、どうにかしているのを、全てポーションを使って補う。。

 それこそ、治癒限界ギリギリまで使うことも決して珍しくはない。

 

 そんな実情を知っていればこそ、彼女の心配は強い。

 ましてや、ピーターは上級職――強者でもない。

 ピーターが心配されるのも無理はないだろう。



「その、冒険者を辞めるわけにはいかないんですか?ラーシンさんのところで働く、とか」

 


 メーアは、すぐ近くにある雑貨屋の、彼がかつて働いていた店のことを話す。

 メーアに、悪気はない。

 むしろ、数少ない、ピーターを心配している人物だからこそ、そういうことがいえる。

 彼は、そんな彼女を友人だと思っているし、彼女も同じだ。



「ありがとうございます。でも、辞めるつもりはありませんので」

 


 とはいえ、心配してくれるのはありがたいことでもあってもなお、ピーターには止まるつもりはなかった。

 どれだけ時間がかかっても、強くなること。

 それを達成しなければ、ならないのだから。



「そうですか……そうだよね、ピーターさんも、そういう人だよね。



「そうだ、この後ラーシンさんのところに行くので、これで」


「あの!飴のお礼と言いますか、これを」


 腰から下げているアイテムボックスからメーアが取り出したのは、一本の瓶だった。

 中には、HP回復ポーションとは違うものが入っている。



「これは?」

「MP回復ポーションです」

「そんなものいただいちゃってもいいんですか?」


 MP回復ポーションは高価である。

 すくなくとも、HP回復ポーションの比ではない。

 ピーターとて、購入をためらう程度には高いのだ。

 それこそ、普通ならば自然回復に任せることも多い。

 自然回復がほぼ見込めないHPと違い、MPは時間経過で回復するので、金銭的に余裕がなければ買わない。

 とはいえ、魔法職はMPが尽きれば死んだも同然なので、所持していた方がいいアイテムには違いない。



「えっと、それは、お祖母ちゃんじゃなくて、私が作った失敗作なんです。危険はないんですけど、効果がちょっと弱いから、商品としては売れなくて……」

「でも……いいんですか?」



 いくら失敗作でも、飴の対価には大きすぎる代物だと思ったが。



「私も、なりたい目標のために頑張ってるので!今は成功できなくても、いずれ成功したいと思っているので!」

「……ありがとうございます」



 数少なくとも、ピーターには味方がいる。

 彼の願いや異常性を理解できずとも、心配して、与えようとしてくれる人たちが。

 それを少しだけ嬉しく思いながら、ピーターは歩き出した。

 スイカ味の飴をかみ砕きながら歩くその足取りは、先程までより少しだけ軽かった。


 

 ◇◆◇



 「お仕事頑張ってくださいねー!」、という声を聞きながら、ピーター達はメーアたちの家を辞去した後、別の店に向かった。

 ポーション屋と同じ、二番街にあるその店は、歩いてほんのすぐのところにあった。



 「「イラッシャイマセ」」



 ピーターが入ると同時に、出迎えるのは二体の悪魔(・・)

 騎士のような鎧と県、盾を装備しているが、鎧の隙間からは一つの目玉がのぞいており、隙間から蝙蝠の翼が出ている。

 よく見れば、剣もどこかフォークのように見える。

 デモン・ファイターという名のモンスターであり、店主のラーシンが使役している悪魔である。

『ラーシン雑貨店』。

 それは二つの側面を併せ持った店だ。

 一つは、文字通りの雑貨店としての顔。

 武器や防具、聖水などの回復アイテム、さらにはマジックアイテムや食料品、何のためにあるのかわからない骨董品まで手広く販売している。

 どの商品も、専門にしている店には品ぞろえで一段劣るため、二番街に店を構えている。

 最も、この店の真骨頂はそこにはないのだが。




「おや、久しぶりだな、ピーター君」

「お久しぶりです!ラーシンさん」



 店の奥から、一人の男性が現れた。

 男性は、悪魔ではなく、人間。

 モノクルをかけて、シルクハットとコートを着こなした四十代と思しき男性。

 


 彼の名前は、ラーシン・ヘルブレイズ。



 悪魔召喚に秀でた、〈高位拝魔師〉であり、この「ラーシン雑貨店」の店主である。

 そして、ピーターにとっては、数少ない理解者でもある。

 


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