エピローグ 2 事後
ピーターが、リタとともに泣いていたころ。
シルキーは、会議に参加していた。
事後対応がメインであり、〈天騎士〉も参加している。
「そもそも、今回の一件は、〈神界師〉とやらのせいでこういう事態になってるんでしょ。アンタたちの方こそ、どうにかしたらどう?」
シルキーの言は、もっともである。
内通者を見抜けなかった、王国側の責任は大きい。
とはいえ、それはもはや売り言葉に買い言葉になってしまっている。
「実際のところ、封印は大丈夫なの?」
「それは、あなたのほうもだろう」
彼女は、レヴィに封印を施していた。
そして、〈天騎士〉はその封印を強化していた。
問題は、そちらではない。
「問題は【邪神の衣】について、だな」
「そんな馬鹿な、奴は殺したはずではないのか!」
「時代の邪神が生まれる可能性もある……」
「殺すべきだねえ、ピーター・ハンバート」
誰かがそういった瞬間、空気が凍る。
比喩ではなく、文字通り凍結する。
窓ガラスが、温度の変化に耐えきれずに、罅が入り、割れてしまった。
「いまのは聞かなかったことにしてあげる。首がつながってよかったわね」
「改めて、今回護衛を果たした条件について、問うわ」
「いいだろう」
「ピーター・ハンバートを殺そうとするのはやめなさい」
「……いいだろう」
「良いのですか?」
「仕方あるまい、救国の戦士を殺すわけにもいくまいよ」
「当然ね」
その言葉を聞いて、彼女は席を立った。
シルキーは、出ていった。
◇
それは、テロが終結してから丸一日たった時のこと。
動けない人々は、治療を受けており、動ける人は治療に奔走していた。
その街の外に、一人の男がたたずんでいた。
男は、一つのアイテムボックスを抱えていた。
シルクハットをかぶり、モノクルをかけた壮年の男性。
名を、ラーシン・デモンストレイトという。
なぜ、死んだはずの人間がここにいるのか。
それは、至極単純な話だ。
ラーシンは、死んでいなかったということ。
ピーターとの戦いの際、彼は一度たりとも鬼の能力を使用していなかった。
〈大火消〉などが半ばひけらかすように使っていたのとは、対照的だ。
それもそのはず、彼の能力は決してバレてはいけない類のものだった。
(危なかった、私の【悪魔の証明】が壊されるなんて)
眷属となることで得たスキル、【悪魔の証明】。
その効果は、自分そっくりの分身体を一体だけ生成するというもの。
月に一度しか生成できないが、それゆえにその精度は高く、最高クラスの【鑑定】でも本人と見分けをつけることは出来ない。
つまり、ピーターが倒したのも会話したのも、あくまで分身体。
それが、彼の有する切り札である。
「ふいーっ。良かった、脱出できたよ」
「そのようだな」
「おいおいテンション低いねえ、どうかしたのかい?」
「死んでいなくて残念だと思っただけだ」
〈吸血鬼〉系統超級職〈神祖〉の最終奥義、【夜ノ王】によるものだ。
〈吸血鬼〉系統は生命力に優れ、【鬼血創操】によって接近戦では強力無比であるが、弱点もある。
それは、夜になるとそういったスキルが使えなくなることだ。
加えて、ステータスも下がる。
夜間戦闘に特化した職業、それが〈吸血鬼〉なのだ。
それゆえに、【夜ノ王】もまた、その特性に準ずる。
【夜ノ王】の効果は、「日が出ているあいだ、〈神祖〉の存在をこの世から消す」というもの。
朝が来た時点で、彼女の存在はこの世界から消える。
そして夜になれば、予め設定したセーブポイントから出現する。
テロ当日は、あの木箱がそうであったし、今回はあらかじめハイエンドの外に仕掛けていた。
封印されても、すぐに脱出できるように。
ゆえに、レグルスの空間封印もすんでのところで免れることができていた。
さらにいえば、陽が沈むのと同時に、ピーターや王族貴族の目の前に突然現れたタネも、これである。
夜は、無尽蔵の再生力で殺しきれず、昼間は存在しないので干渉できない。
それが、彼女の不死性の秘密である。
何十年も前、封印された時もこれを使って切り抜けている。
「さて、これからどうする?」
「一度身を隠すのが最善だ」
「それもそうか」
ラーシンは、じっと遠くを見つめる。
自分がかつて暮らしていたこともある都市を。
昨日、攻撃した際には結局防がれてしまった。
だが、最低限度の目標は達成できた。
国の宝物庫には、あっさりと侵入できたうえに、中にあったマジックアイテムなどを盗み出すこともできた。
(次は、必ず滅ぼす)
そう心に誓って、彼はレヴィとともに悪魔に乗って去っていった。
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