エピローグ2 新たな家族
本日二話目です。
まだの方は前話から。
「あ、それロンです」
「はあ?はあ?はあ?」
「お、落ち着いてマリー」
「うわ、高い。すごいねミク」
マギウヌス本島にあるただ一つの雀荘。
その卓の一つには、四人が麻雀を打っていた。
三人の学生と、一人の東方の服を着こんだ少女。
〈黄魔法師〉マルグリット・ランドウォーカー。
〈青魔法師〉ジーク・パルマフロスト。
〈冥導師〉ピーター・ハンバート。
〈僵尸〉ミク。
「何で勝てないのよお!」
「さっき勝ってたじゃないですか……」
「な、なんだかすみません」
「いえいえ、こっちこそマリーが申し訳ない」
なぜ彼ら四人が、雀荘にいるのか。
これには、理由がある。
ピーターは、麻雀を時々楽しんでいた。
そして、この国唯一の雀荘が経営難にあえいでいることも知っていた。
ゆえに、友人に麻雀を布教しようと考えたのである。
そして、ピーターとミクが二人のルールを教えたところ……二人とも順調にはまり、今に至る。
経験の差もあって、ミクが一番強かったりする。
その後はジーク、ピーター、マルグリットの順番だった。
「それにしても、元気になってよかったわよ、ピーター」
「そうだね、一か月も学院休んでいたんだもん」
「その節はご心配をおかけしました……」
シュエマイ・チャンシーに対して、ミクとピーターが決着をつけた直後、ピーター・ハンバートは倒れた。
そして二週間ほど意識不明のまま生死の境をさまよった。
なぜかと言えば、最後に使った【降霊憑依】の反動が原因である。
もとより、肉体が限界すれすれで凍結されていたような状態。
それなのに、無理やり反動のあるスキルを使った。
【霊安室】への収納でもよかったが、あれは一瞬のラグがある。(そのために、リタの霊体が間に合わず何度か破壊されている)
ノータイムでミクを守れる【降霊憑依】が彼にとっては最善だった。
そしてその結果として、彼の肉体は破綻した。
二週間の昏睡状態、そして目覚めた後のリハビリ。
それでもなお、ガタガタになった肉体は完全には戻っていない。
シルキーからも、最悪もう一生元には戻らないかも、と言われてしまった。
しかし、そのことに後悔はない。
ピーターは、家族とともに生き続けることを願っているが、時に世界や他者がそれを許してくれないことも理解している。
長く行きたいからと保身に走り、家族を危険に晒すような真似はできない。
家族を守るために、必要ならば己の命だって削る。
そういう覚悟が彼にはあった。
「ちょっと、飲み物取ってきますね」
◇
「改めて、すごい景色ですね」
「まあ張りぼてにすぎませんけどね」
シルキー個人で所有する浮遊島。
その上に立っているツリーハウス。
その中に、ピーター達はいた。
彼女が見ているのは、窓の外の景色。
といっても、それはあくまで現実ではない壁紙のようなものらしい。
正直、詳細はよくわからないが。
「君は、私の配下として登録されることになった。だから、もうこれで法的な問題は解決してる」
「そうなんですね」
「改めて、君に訊きたいことがあるんだ」
「なんですか?」
彼女の二色の目には、二つの色が宿っている。
まるで何を聞かれるのかわからない、という不安。
そして、何を聞かれても答えようという意思。
「ミク、私の……私たちの家族になってくれないかな?」
「あなたが、私を救ってくれた」
「君も救ったのは、君自身の選択だよ。僕も僕で、やりたいようにやっただけだし」
謙遜ではなく、ピーターは本心から告げた。
「私は、人であることを、あなたが教えてくれた。いいえ、思い出させてくれたんです」
彼女の心は人形でも怪物でもなく人なのだと、間違いなく彼が示してくれた。
「私は、あなたを守りたい。あなたは私を救ってくれた、ボロボロのあなたを」
「ボロボロ……」
ミクは、ピーターをまっすぐ見て、口元を緩めた。
「だからよろしくお願いします、お兄様!」
ミクは、肯定の意思を、新たな呼び方に変えて告げた。
初めて見せた、満面の笑みで。
「ありがとう……。これからもよろしくね」
「お礼を言いたいのはこちらですよ」
「じゃあ、毎日お互い言いあっていこう。時間はたっぷりある」
「ふふっ、そうですね」
彼女は笑っていた。
静かな、少しだけ口元を曲げた笑み。
けれどそれはあの時の笑みとはまるっきり違っていて。
自然なほほえみだった。
「十分すぎるね」
「え?」
この笑顔を見られるなら、その持ち主を守れたというのなら、彼にとっては十分すぎる対価だった。
「ぴーたー!このけーきおいしいよ!いっしょにたべよう!」
「はいはいはーい!リタ、一緒に食べようね!」
タワー上の、ウエディングケーキのようなケーキだった。
「これは……?」
「あんばーにおねがいしたの!おいわいにおおきいけーきをたべたいって!」
「なるほど」
「食べれるんですか?」
「僕に、考えがある」
ピーターは、今までになく、真剣な顔でそう告げた。
◇
「何これ?」
「シルキー様、私にもわかりません」
「なるほどねえ」
会議から戻ってきたシルキーは一度見て、感想がこれである。
アンバーの運んできた巨大ケーキ。
そこでは、リタがなぜか首から上をケーキの上から出して、胴体をケーキに埋めており、その状態でケーキを味わっていた。
そして、恍惚として表情で、ピーターはケーキを切り崩して食べていた。
「リタなにしてるの?」
「ぴーたーが、こうやってほしいって!」
「ピーター、何してるの?」
「リタを味わっています!」
「きっも」
「ええ……」
それを、信じられない化け物を見るような目で見ているミク。
そして、そんなミクを「そのうち慣れますよ」と、憐れみながら諭すハル。
「まあでも悪くはないわね。部屋に戻るわ。しばらくはあの子も休んだ方がいいでしょうし」
甘いものを見て喜ぶリタ。
それを見てほおを緩め、興奮するピーター。
それをなだめるハルと。
にこにことそれを眺めるミク。
ピーター達家族に、新たに、家族が生まれた瞬間だった。
「これが、アンタの戦う理由なのね……」
シルキーは、その光景を見て、少し嬉しそうに笑った。
頑張ってよかった、と思った。
これにて、二章本当に完結しました。
とりあえず、二章登場人物紹介を挙げて、そこから三章に行きたいと思います。
追記
章タイトルは、ミクのことであり、リタのことであり、アンデッドとつながるピーターのことであり……最後まで一族に縛られたままの誰かのことでもあります。




