エピローグ1 十賢会議
いつのまにか100話&30万字超えてました。
また、ブックマーク80人突破してました。
これからもよろしくお願いします。
「会議を始めよう」
会議室でそう切り出したのは、〈魔術師〉フリューゲル・マギウヌス。
このマギウヌスの学院長であり、王といっても差し支えない存在だ。
「君が参加しているのは、珍しいなナタリア」
紫色の髪をした、一枚の布を、エプロンのようにして体の前面を覆った女性。
逆に言えば、布一枚を除いて何も身に着けていない。
豊満な肢体が露になっている。
が、この場にいる誰も彼女に欲情するそぶりはない。
なぜなら彼女の実態は誰よりも、何よりも、キョンシーより、悪魔より、悍ましいものだと知っているからだ。
〈禁呪王〉ナタリア・カースドプリズン。
呪術を極めたもの。
数多の呪いの習得者にして、所有者。
このマギウヌスで最強の戦力はシルキー・ロードウェルだが、それを言えば彼女は最凶の戦力。
全力をだしてしまえば、余波でこの国が丸ごと滅びかねない。
そのため、先日のような防衛戦では参加できなかった。
より、被害が拡大するだけだからだ。
「それで、今日の議題は何?」
赤い髪をした少女。
白いローブを纏っており、白い眼帯で両目を覆っている。
十賢の一人、〈炎姫〉フレア・ブレイズライト。
火属性魔法名家の生まれであり、純粋戦闘力では、マギウヌスでもトップ三に入ると言われている。
「〈神霊道士〉シュエマイ・チャンシーが死んだ」
「……それで?」
同僚の死には特に感慨を示さず、フレアは問う。
それがどうしたのか、とでも言いたげである。
薄情ともいえるが、それは彼らの共通認識である。
もとより、魔術師は個人主義の集まりだ。
十賢のうち、この会議に出席しているのが主催者の〈魔術師〉も含めた四人のみであるということ自体が、彼等が一枚岩ではないことを、彼等の関係性がよくはないことを示している。
「そこから先は、私が説明するわ」
四体のぬいぐるみに覆われた〈精霊姫〉シルキー・ロードウェルが説明を始める。
彼が、巨大なフレッシュゴーレムのようなキョンシーを作っていたこと。
その際、事故で彼自身が取り込まれてしまったこと。
そして直後、ネームドモンスターとして顕現し、たまたまその場に居合わせた〈教皇〉フランシスコ・チャイルドプレイとシルキーが討伐したこと。
そして討伐特典であるギフトは、フランシスコが獲得したこと。
ギフトには、二種類の入手方法がある。
一つは、生まれながらにして得る方法。
生まれた時からギフトを世界に与えられるものが、一定数いる。
ピーターやユリア・ヴァン・カシドラルはそのパターンだ。
”邪神”もそのタイプだったといわれている。
また、先天的なギフトの中には、持ち主が死んだ後、別の人間が生まれるときに宿ることがあるらしい。
そしてもう一つが、後天的に得る方法である。
ネームドモンスターを討伐すると、最も討伐に貢献した人間に、そのネームドモンスターに由来するギフトが与えられる。
今回は、それがフランシスコ・チャイルドプレイだったということだ。
「いやー、〈精霊姫〉だとばかり思ってたんだけどね、ギフトゲットしたの」
「そうね……継続ダメージが思った以上に大きかったみたい」
フランシスコの銀炎は、〈継炎肉像〉が誕生した瞬間から、その身をむしばみ続けていた。
結果として、その損害ゆえに、貢献度でコアであるシュエマイを下したミクや木っ端微塵に切り裂いたシルキーよりも貢献度が高かったと判定されたようだ。
「ハイエストがポンポンギフト取っていくわね。一つくらいくれてもよかったのに」
「いやいや、レグルスが独占してるだけだから……」
王国最強の騎士の名前を出して、彼はへらへらと笑う。
実際、かの騎士はギフトを三つ所有しているため、間違いでもない。
「ちなみに、そのギフトの内容を教えていただくわけには?」
「あ、いいよー。【毒呑皿喰】って言って、自分が喰らった攻撃スキルを一時的にコピーできる能力だよ」
「それをばらしていいのか?」
「どうせ死に物狂いで特定しようとするでしょー?あと、そもそももとになったネームドモンスターのことがバレてるんだからだいたいわかるでしょ」
相変わらずへらへらとしている彼を見て、フリューゲルは嘆息した。
実際、〈継炎肉像〉の特色は、攻撃であるはずの聖炎を取り込んで自分のものにすることにあったので特定はたやすかっただろうが。
「私からも、報告はある。〈神霊道士〉の研究所を調査した。特に、彼女の述べるところとの矛盾点はなかった。ついでに、研究所からは、資料などを回収した。」
ナタリアが付け加える。
「……カースドプリズン、資料から原因の分析はできるか?」
「できている。どうやら、コアに特殊なジョブの人間を入れるはずが、奴を入れたことで暴走状態に入ったらしい」
「わからないのは、君だよロードウェル」
フリューゲルは、じろりとシルキーの方を見やる。
「君に一体何の得がある?カースドプリズンを巻き込んでまで、隠したいものとはなんだ?」
「あんたには関係ないことよ」
「君が何かを隠しているとして、隠しているものが仮にシュエマイに無理やりアンデッドの暴走を強制させたのだとしたら……君に責任を問わなくてならない」
「はっきり言っとく、そんな事実はないわ」
シルキーの言は真実だ。
件の事件は、正気を失ったシュエマイ・チャンシーが勝手に術を起動、不完全な術式が怨念の影響を受けて暴走した結果ネームドモンスターになっただけ。
ただし、その正気を失った原因が何かまではわかっていなかった。
あくまで、公的には。
「私はもう帰るわ。議題がほかにあるなら、あとで資料を送ってちょうだい」
「好きにしなよ。今日の会議は参加自由だ」
「じゃあ僕も出るよ、今回は証人として参加してただけだし」
シルキーが隠そうとしているのは、ピーター・ハンバートのことである。
【邪神の衣】のことを知ったとき、十賢がどのように考え、どう行動するか、彼女も想像がつかない。
ゆえに、フランシスコとナタリアに話をつけて隠蔽工作を図った形である。
ナタリアは研究資料さえ手にはいればどうでもいいと考える性質であり、
「アンタが、何を考えているのかはわかってるわ。どうせ、アイツらに知らせない方が処分しやすいと思ってるんでしょう?」
「そうだね、彼は世界の脅威だ。取り除かないという選択肢はないだろう」
「そうはならないわ。すぐにわかるわよ」
「そうだといいねえ」
にらみ合っていたのは、ほんのわずかな間。
二人は、別方向へ向かって歩き出した。
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