楽園
「なんだ・・・ここは?」
僕は天国に行ったのではないのかと思った。
そこに広がるのは、地平線まで広がる桃色の花畑
そしてそこには家が一軒ポツンと建っていた。
するとそこから白い髪が目立つ一人の男の人が出てきた。
「やぁ、待ってたよ。」
その人はそうつぶやいた後、こちらに一歩ずつ歩いてきた。花々の中を歩いてくるその姿は、まるで神様のようであった。
「あなたは・・・いったい?」
「おっとすまない、まずは傷の治療だね。」
するとその人は、持っている杖をこちらに向けて詠唱を行った。
「幸福の花、楽園の大地、彼らの道を照らす光よ、その傷を癒したまえ」
彼が詠唱をし終えると、自分の体がとても暖かく、気持ちの良い感覚になった。
そして先ほど火傷で死にそうなほど痛かった体は嘘のように治っていった。
「ありがとうございます!
その・・・できればあなたのお名前を教えていただけませんか?」
「私の名前かい?
私の名前はマリエル。
ここに来た者をもとの場所に送り届けるのが役目のしがない魔術師さ。」
その男の人はマリエルというらしい、とても美しい容姿をしているのにしがない魔術師だなんてとも思ったが、そこは置いといて・・・
「私は死んだのでしょうか?」
「いや君はまだ生きているよ。
正しい言い方をするならば、ここに迷い込んだとでもいうべきかな。」
「迷い込んだ・・・ですか?」
「そう、君の魂がここまでたどり着いたということさ。
だけどここはあの世では無いので、肉体も死んではいない。
いわば仮死状態といったところだろうか。」
「では、元の場所に戻ることはできるのですか!」
「もちろん、そのために私がいるんだからね。」
自分が死んではいないということに喜びを覚えたが、一つ気になったことがあるのでマリエルさんに聞いてみた。
「あの一緒に来ていた僕の仲間は・・・」
「んっ・・・」
マリエルさんが言いづらそうな顔を浮かべたので、察しがついた。
「残念だが、彼らは亡くなってしまった。」
「そうですか・・・」
みんな、あの時僕が引き返そうと言ったら死なずに済んだのだろうか・・・
僕がそんな顔をしていると、マリエルさんは言った。
「君が罪悪感を抱くことはない。
ひどいことを言うようだが、彼らの死は己が決め、己が招いたことなんだよ。
それなのに君は生き残った。つまり君は彼らの分まで生きなければならない。
彼らが死んでしまったことに後悔は持たず、生き続けなければならない。」
マリエルさんのいうことは最もだった。
今まで仲良くしてくれた仲間の分まで僕は何としても生き残る。
そう決めたのに、マリエルさんは先ほどとは打って変わって絶望をたたきつけてきた。
「でもこのまま戻っても、また邪龍ボーレガスに焼き尽くされるのが落ちだろうけどね!」
「うっ・・・はい。」
「でも大丈夫、私が君を鍛えてあげよう。せいぜいボーレガスを倒せるぐらいにはね。」
「えぇ、それってSランク冒険者以上の実力ですよ!
そんな力・・・僕なんかに」
今まで、荷物持ちだった僕にそんな力を得ている姿を想像することができない。するとマリエルさんが僕の考えていることを見透かしたように言った。
「大丈夫、こう見えて私は生まれてから何度も君みたいな子を育ててきたんだからね。」
どうやら僕のような人が何人もいるらしい。
「とりあえず、僕の家においで。お茶でも出してあげよう。」
そう言ってくださっているので、僕はマリエルさんについて行った。
家の中は見たことないものばかりで、違う世界に来たのではと思うほどであった。
黒い板がテーブルの上に置いてあったり、真ん中が空いているイス、火が使われていない明かりなど不思議な物ばかりであった。
「珍しいだろう?これはね、100年ほど前だったろうか、こちらとは違う世界から来たという少年
の夢を覗いたときに、便利そうな物がたくさんあったから魔法で作ったのさ。」
「こんな精巧な物を魔法で!?」
「私は何かを作ったりしている方が好きなのさ、戦闘は面倒なのでやりたくなくてね。」
ん?この人本当に僕があの龍に勝てるぐらいにしてくれるのかな?
「ん?大丈夫、大丈夫。ちゃんとレッスンをつけてあげるよ。だけどまずはここで体を休めるといい。」
そう言って僕を部屋へと案内した。そこは王室よりも充実した設備が整い、普通よりもふかふかなベッドがあった。
「ではまた明日、今日はゆっくりと休むといいさ。」
「はい!明日からよろしくお願いします。」
マリエルさんに出会った私は、この瞬間から人生が180度変わったのである。