その人
掲載日:2020/11/02
どうしようもなく、ただひたすらに、ただ目で追ってしまう。
顔も名前も、時代も世界も、役割も関係性も全てが違うのに、それでもわかる。
「ああ、あの人は間違いなく彼だ。」
わたしを惹きつけるあの声が、あなたがあなたなのだとわたしに知らしめる。
私に向けられるその瞳の引力が、君である事を判らしめる。
「見間違うはずもない彼女だ。」
関わり合わない端役のときも、主人公夫婦であったときも、いつだってそうだ。互いに細かい描写のない者であっても、それは変わらない。
この作者が新たに紡ぐ幾多の物語の中で、全く別の者として描かれる互いをいつも見つけ合う。
作者でさえ私達である事に気付けない。私達である事を意図せず紡がれる物語の中で、互いに見つけ合ったところで、その世界の進行に影響を及ぼすことは全く無い。
それでもただひたすらに、引き寄せられる。
きっと顔も名前も、時代も世界も、役割も関係性も登場人物として形作る全てが、私達であって私達でないのだろう。
設定を全く変えたはずの登場人物たちが、意図せずオムニバス方式かのような状態であるとしたら?との思い付きから。
文字で書かれている以外は、全て受取手の自由な発想で解釈できる「読みもの」というジャンルの不思議さを逆手に、著者をも凌駕する何かがあるかもしれない。




