第三十五話 胎動
髪の長い女性を先頭に、三人が薄暗い通路を靴の音を響かせながら歩いている。
先頭の若い女性は紫色のロングウェーブヘアでメガネをかけており、白衣を着ている。彼女の一歩後ろに黒いプレートアーマーを装着した者がいる。そして、先頭の女性に話しかけている書類を持った三十代の男がいる。その男はブレイン誘拐の依頼主だった。
「以上がテルミナ共和国の現状報告です。続いて、フェルサ帝国の光の遺跡の追加情報です。プロノアを倒した者が判明しました。七名いまして、フェルサ帝国関係者が三名、騎士のエイダンとアメリア、バウンティハンターのモーリスです。そして精霊学校に通う子供四名、サザーラン公国の孤児のフィルス、精霊騎士グレディルの孫のキアラ、ルシクス王国の王位継承順位四位で三つの精霊に愛されたブレイン……」
「あら、ソレって貴方が誘拐に失敗した監視対象よね」
「申し訳ございません。お母様のおっしゃる通り誘拐に失敗し……」
「いいのよ、何度も言ったけど貴方が無事であればいいの」
「……ありがとうございます。報告の続きですが、最後の一人は精霊騎士ライリーとソフィアの娘のステファニーです。この娘がプロノアにとどめを刺したと報告があがっています。そして、こいつがブレイン誘拐の邪魔者です」
「そう……確かソレって体から黒い靄みたいのが出ていたって報告があったわね。興味深いわ……ソレも監視対象にしておいて。出来れば研究材料として解体してみたいわ」
「はい、ステファニーを監視対象に致します」
しばらくすると白衣の女たちが扉の前で止まった。黒いプレートアーマーを装着した者が扉の横にあるガラス板に手をかざすと、扉が自動に開いた。
三人は通路よりさらに薄暗い部屋の中に入っていく。そこは巨大な施設で、百を超える培養槽がある。培養槽の中に岩のような物体が入っている。
「シェルドン、進捗状況を報告してくれないかしら」
培養槽の前にいるシェルドンと呼ばれた老人は白衣の女に頭を下げた。
「お母様、申し訳ございません。手は尽くしておりますが、ほとんど反応がなく……おそらく……」
「そう……」
白衣の女は哀愁を帯びた顔つきになる。シェルドンは慌てて報告を続けた。
「ただ、唯一反応があった個体があります!」
「本当に!? それはどれなの! どこまで反応があったの?」
白衣の女の眼つきが変わり、シェルドンに言い寄る。
「はっ、はい。封印の一部を解除でき、魔力の反応が検知されました。ご案内致します」
シェルドンが白衣の女たちをとある培養槽に連れて行った。その培養槽の中に、三メートル五十センチを超える岩のような物体が入っている。岩の表面の一部が欠けて、岩の中にある金色の金属が見えている。
「フフフフッ、アハ、アハハハハハハハ」
それを見た白衣の女は狂ったかのように笑い始めた。笑い終わると培養槽の中の岩のような物体を熱のこもった瞳で見つめて語り出した。
「精霊王に封印されし十二の種の起源の一つ……レガリエルよ!」
白衣の女の声に呼応するかのように培養槽に入っている岩の表面が欠けていく。
「さぁ……目覚めなさい」
【第一章〜完〜】
第一章完結致しました。
第二章はストックが無くなったため、週一、ニ程度になると思います。
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