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第ニ十八話 遺跡

 遺跡はアーシム渓谷の中心にあり、光の遺跡と呼ばれている。魔王がいた時代に作られているが、保存状態は良く、フェルサ帝国の城よりも城っぽいから帝都をここにすれば良いのにと他国から揶揄されている。


「こんな所に立派な遺跡があるなんて」

「遺跡っていうより城だね」

「うん、それにしても大きいね」

「この遺跡は四階建てで地下室もあるんだぜ。これを調べるんだから、かなりの重労働になるぞ。でもな、もしかしたらまだ見つかってない隠し部屋があるかもしれない。そこには宝物があるかもな。さぁ、徹底的に調べるぞ!」

「おおおぉぉ」


 クライヴの声がけにステファニーたちは声を上げる。

 エイダン、アメリア、兵士四人は先行して遺跡に入り、魔獣がいないか確認している。今回は遺跡の探索に必要な技術を教えるため、出来るだけ戦闘にならないようにしている。


「ここが遺跡の入口なんだけど、入る前に役割を決めないとね。そうね、先頭はフィルス君かな。一番重要で危ないポジションだけど、フィルス君は危険を察知する力があるから任せるわね。ステファニーちゃんはマッピングをしてもらうわ」

「えぇ、何で私なの?」

「それはエルフ族だからよ。遺跡に入ったら詳細を教えてあげるわ」


 ローラはステファニーに向けてウィンクをする。ローラのウィンクにステファニーも魅了され、何も言えなかった。


「ブレイン君は一番後ろで後方から襲ってくる敵に対処しましょうか。あと、味方全体を見渡せるのは最後方のブレイン君だけだから色々指示を出してあげて」

「うぅ、意外と重要な役なんですね」

「あとキアラちゃん、フィルス君やブレイン君が襲われたら直ぐにフォローしてあげて。助けられるのはキアラちゃんだけよ。あとステファニーちゃんがマッピングしている時に手元を照らしてあげて」

「はい、頑張ります」

「よし、それじゃ行きましょう」


 遺跡の入口近くは日の光が入って明るいが、少し奥に行くと暗くて松明で照らす必要があった。


「ここらへんで松明に火をつけるか、フィルス」

「はぁ? まだ見えるぞ」

「それはお前が獣人族だからだよ。他の種族はもう何も見えないぐらい暗いぞ」

「チッ、わかったよ」


 クライヴの指示でフィルスが松明を背嚢から取り出しているとき、ステファニーとキアラをサポートしているローラがすごく小さな小石を指で弾いた。小石が床にあたって転がる。その音に反応したのはステファニーだけだった。


「ステファニーちゃん、あなたがマッピングする理由がこれよ」

「ああ、何となく分かったわ」

「ん、ステフちゃん? 何が分かったの」

「キアラはさっき小石が落ちた音聞こえた?」

「え、ううん。何も聞こえなかったよ」

「やっぱりね。私のエルフ耳が音を拾えるかローラがわざと小石を落としたのよ」

「へぇ、でもそれがマッピングとどう関係するの?」

「エルフ耳は、音の反響で周囲に何があるか何となく分かるの」


 エルフ耳をキアラに見せてるステファニーの頭をローラは撫でた。


「ええ、そうよ。反響定位と言ってね、音の反響で空間認識が出来るのよ。まぁ、すっごく集中しないと出来ないけどね」

「わぁ、エルフ耳って耳が良いだけじゃないんだね」

「ええ、そうなの。遺跡探索はエルフ族がいると楽ちんなのよ」

「エルフ族がいなかったら精霊に聞けばいいのかな」

「キアラちゃん、精霊は森で水辺とか歩道を探してもらう程度の単純なことぐらいしか頼めないわ。直接話せるわけではないから、遺跡のような複雑な場所だと微妙よ。エルフがいないときは地道にやらないと駄目なの」

「そっか〜、私もエルフ耳欲しいなぁ」

「聞こえすぎるのも辛いものよ。さぁ、ステファニーちゃん。マッピング出来る?」

「あ〜、石投げていい? 集中して聴けばマッピングできると思うわ」

「いいわよ。皆、ちょっと静かにして」


 ステファニーは小石を拾ってから目を閉じて、耳に全神経を集中させた。全員が音を立てずに固唾を呑んで見守っている。ステファニーがそっと小石を投げ、床に落ちた小石は悲しげな音を響かせた。

 ステファニーの耳は音を拾っていき、頭の中で遺跡の構造が浮かび上がる。


 ステファニーは木の板を左手に持ち、右手で羽ペンを持った。板の窪みにはめ込まれて金具で留められたインク瓶の蓋を開け、羽ペンにインクを付ける。耳で聴いた遺跡の構造を金属の留め具で押さえられた紙に書いていく。皆が紙に描かれていく地図を見ようと覗き込んでいた。


「凄いですね、フィルスも耳がいいから出来そうな」

「出来ねぇよ、音は拾えるが空間認識は無理だな」

「わぁ、ステフちゃん凄い。絵も上手だね」


 ブレインがフィルスに近づいて耳元で囁いた。

 

「空間認識が出来るなんて、何かエルフというよりコウモリっぽいですね」

「ブッ、テメェ笑わすんじゃねぇよ」


 ブレインとフィルスは周りに分からないように笑っていた。

 

「よし、出来た! 分かる範囲でマッピングしてみたわ」

「おっ、どれどれ」


 インテグリダーの面々が描かれた地図を見て、色々意見を述べたあと、ローラが地図をステファニーに返した。


「ステファニーちゃん、初めてマッピングしたんでしょ。上出来よ! 大体五十メートル位は把握出来てるわね。でも、こことここがちょっと違ってるわ。後で実際どうなってるか確認しましょうね」

「はい。あっ、ローラはどの位把握出来るの?」

「ステファニーちゃんの倍はいけるわね」

「うわぁ、そんだけ耳いいならローラも……大変なんじゃない?」

「ええ、聴きたくない音もかなり聴こえちゃうわ」

「やっぱりそうだよね。幼い頃、お父様とお母様のイチャついてる音が聴こえてしまってイライラしたわ」

「分かるわ、お互い辛いわね。私の場合、精霊の障壁を使う度に絶壁って小声で言う仲間がいるのよね。完全に私の身体的特徴をバカにするクズがいるのよ」

 

 ローラはクライヴをまるで親の敵かのように睨みつけた。ステファニーも同じようにブレインとフィルスを睨みつける。


「そう言えば、誰かさんが私のことコウモリって言って笑ってたなぁ。ねぇ、ブレイン、フィルス。怪我したときはす〜ごく丁寧に時間かけて治してあげるからね」


 ブレイン、フィルス、クライヴはしどろもどろになって気まずい雰囲気になっていた。


「何かクライヴさんがあんなこと言うなんて幻滅だなぁ」

「そう? 男の子が好きな女の子にちょっかい出してる感じでしょ。多分聞こえてるの分かってて、構って欲しいから絶壁って言っただけだよ」

「えっ、クライヴさんてローラさんのことが好きなの!?」

「う〜ん、好きっていうか二人付き合ってるよ。よくイチャついてる声や音が聞こえてたもん」


 キアラは手を口に当てて顔を真っ赤にした。しかし、キアラ以上に真っ赤な顔をしているのがローラだった。


「ステファニーちゃん! 何言ってるの。もう、おませさんなんだから」

「でもぉ、付き合っているんでしょ」


 女性陣がガールズトークで盛り上がっていると、モーリスが大きなカイトシールドの先端部を床に叩きつけ、けたたましい音が遺跡中に響いた。


「お前らいい加減にしろ! ここは魔獣や盗賊がいる可能性があるんだぞ。真面目にやれ」


 普段温厚なモーリスが声をあらげたため、全員が萎縮して謝罪した。気を引き締め直して、ステファニーたちは遺跡探索を開始した。

 探索は不慣れなため、フィルスを先頭にゆっくりと慎重に進んでいる。しかし、通路に仕掛けられた細い糸に気がつかずにフィルスは足で糸を引っ張り、危険な罠が作動した。頭上からフィルスめがけて何かが落ちてくる。


「やべっ!」


 フィルスは避けきれずに落ちてきたモノを浴びてしまう。


「はい、これでフィルスは大怪我、もしくは死んだぞ」


 フィルスをサポートしているクライヴが少し厳しめの口調で言った。


「っなんだよ、これ! 何で泥が落ちてくるんだぁ、ざけんなよ」


 全身泥まみれのフィルスが怒鳴りつけた。


「エイダンさんたちが仕掛けたんだよ。お前たちを試してんだ。殺傷力はないが、地味に嫌な罠仕掛けてるな」

「チッ、くそっ。ステファニーお前気づかなかったのか、空間認識出来んだろ」

「ちょっと八つ当たりしないでよ。まぁ、何となく天井が変な感じがしたけど……ぎゃあっ、泥投げないでよ。やめろ、汚い」

「はぁ」

「あっ、フィルスもステファニーもやめたまえ。モーリスさんがまた怒りそうです」


 モーリスのため息を聞いたブレインが二人の子供じみた行為を注意して、より慎重に遺跡の奥に進んでいった。

 虫が大量に入ってる落とし穴や矢尻のない矢が飛んでくる罠などに嵌っていたが、段々慣れてきて罠に掛からなくなってきた。

 一階のマッピングがほぼ終わり、ステファニーたちは地下に繋がる階段を降りていく。

 地下には巨大な部屋が一つだけあり、階段のある壁以外の三面と天井に壁画がある。壁画に使われている塗料は光を反射する特性があり、事前に壁に設置されていたランタンにエイダンたちが油を注ぎ火をつけていたおかげで部屋全体が明るい。

 壁画には精霊物語に語られている魔王との戦いの様子が描かれていると言われているが、所々崩れ落ちていて、何が描かれているのか分からない箇所もある。光の柱が描かれている箇所だけが無傷で残っているため、この遺跡の名前が光の遺跡と呼ばれるようになった。


 ステファニーたちは部屋につくと壁画よりも部屋の中央にいるエイダンたちに注目した。彼らは食事の用意をしていて、いい匂いが漂っていた。


「あなたたち、良いタイミングで来たわね。食事の準備が出来たわよ」


 ステファニーたちは地味に嫌な罠を仕掛けたことに文句の一言でも言おうと話し合っていた。しかし、探索で疲れきってお腹が空いていたステファニーたちはそれを忘れて食事に飛びついた。


「ん〜美味しい、おかわり〜」

「アメリア先生、食事作っていただきありがとうございます」

「私じゃないわ、作ったのはエイダンよ」

「え、エイダン先生は料理上手なんですね」

「おう。うまい飯食うのが好きでな、そしたらいつの間にか料理を自分で作るようになったんだ。ほれ、香辛料もこんなたくさん持ち歩いてんだ」

「おお、趣味の域を超えていますね」

「ふっ、そうだろ」

「聞いて聞いて、ブレイン君。エイダンは皆に美味しい飯食わしてやるんだって言って楽しそうに作ってたのよ」

「お前、言うんじゃねえよ」

「ありがとうございます。美味しい料理作っていただいて」

「いや、まぁ、オレが作りたかっただけだ。あとさ、こんな安全な場所じゃなければ手の凝った料理なんてできないからな」


 ブレインは部屋を見渡す。一階に繋がる階段以外に出入口はなく、階段の場所さえ注意しておけば安全であることが分かる。

 

「確かにここは安全ですね。ですが、この壁画は歴史的価値があるはずなのにボロボロなのは気になります。管理すべき遺産だと思うのですが」

「確かにそうだな、ここは……」

「お、ブレインはこの壁画が気になるのか。ならオレが面白い話をしてやるよ」


 クライヴは手に持った食いかけの骨つき肉をブレインに向けて会話に割り込んできた。


「何度もオレがこの遺跡には金銀財宝が眠ってるって言ったよな。その場所がここなんだよ。隠し部屋を探すために、色々調べられて壁画がボロくなったんだってさ。で、どこに隠されてると思う?」


 ブレインだけでなくステファニーたちも首を動かして部屋中を観察した。皆の視線が一点に集中する。


「そう、光の柱だよ」


 黄色と白を使って壁に描かれた光の柱は横幅が五メートルほどあり、高さは二十メートルほどある。光の柱の左右の壁はかなりえぐられているが、光の柱だけ塗装が剥げていなく、まるでさっき描いたばかりかのような鮮やかな色をしている。

 

「あそこだけは何故か綺麗なまんまなんだ。オレもやった事あるんだが、剣でも精霊術でも傷つける事ができないんだぞ。あの壁画の後ろに財宝があるって噂されんのもあながち嘘じゃないと思うぜ」

「キアラ、あの壁ぶち壊しに行こう」

「えっ、待ってステフちゃん」

「オレらも行くぞ。ブレイン」

「ああ」


 ステファニーたちは興奮した様子で光の柱の壁画に走っていった。


「あ〜あ、クライヴ。あんたが責任持って子どもたちの面倒みなさいよ」

「そうだな、飯を呑気に食べてないでさっさと追いかけるべきだ」


 ローラとモーリスは食事を食べながら呆れた感じで言った。


「あ〜、行かないとだめかな」

「私も行くからあなたも行きましょう」

「……はい」


 アメリアは真顔でクライヴの肩に手を置いた。クライヴは肩を落とし返事をしてステファニーたちを追いかける。


 ステファニーは壁画の前に立ち、気功術を最大限に練って構えた。

 

「はああぁ!」


 壁に向かって正拳突きを打ち込むと鈍い音が周囲に響く。


「痛っああああい」

「ステフちゃん、大丈夫!?」


 拳から少し血が流れ、ステファニーは傷口を舐めた。


「うぅ、殴んない方がいいよ。硬すぎる。あっ、不完全骨折しちゃってるわ。治さないと」

「えっ、本当に大丈夫?」

「おい、ブレイン。戦闘狂のゴリラがケガするんだ。オレらは精霊術で試してみようぜ」

「ええ、そうしますか。キアラ、君も精霊術を使って下さい」

「え、でもステフちゃんが」

「あんなバカほっといてさっさとやるぞ」

「おい、待てフィルス。誰がゴリラでバカだって」

「よし、お前ら。やるぞ、せーの」

「ちょっと」


 フィルスたちは精霊を呼び出した。フィルスは一つの銀の精霊、ブレインは土と水と風の精霊をそれぞれ四つ、キアラは五つの火の精霊と三つの風の精霊の力を借りて精霊術を使った。

 それぞれの精霊術が光の柱にあたると、光の柱が輝き始めた。その光が部屋中を照らし、あまりの眩しさに全員が目を覆った。


 光の柱の輝きが収まると、その場にいた全員の姿が消えていた。荷物や食べかけの食事すら消えてしまっていた。

次話から残酷な描写が続きます。

ご了承お願い致します。

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