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第ニ十七話 バウンティハンター

「ほら、立てるか」

「ああ、ありがとな」


 フィルスは倒れているブレインの手を取り、立ち上がらせた。早朝の訓練場で実戦形式の練習をしていた二人は互いに讃え合い、暑い握手を交わしていた。


「ねぇ、あの二人最近仲良いよね?」

「うん、二人の仲良くしてる姿を見てると何かドキドキしちゃう」

「キアラ、ちょ〜と特殊なロマンス小説読み過ぎじゃないかな」

「だって、面白いんだよ。ステフちゃんももっと読んでよ」

「はぁ、わかったわ。おすすめの本を後で持ってきて」

「うん!」

「いい笑顔で返事するね。あのね、私が言いたかったのは、何かあの二人に私避けられてる感じがして」

「あぁ……」

「フィルスを最初見たとき、性格がひねくれ曲がってる感じがしたから何とかしてあげようと思ってたんだけど、最近私が近づくと露骨に嫌そうな顔するの。ひどくない?」

「えっ、もしかしてステフちゃん彼のことが気になるの、好きなの!?」


 キアラが頬を染めながら嬉しそうに聞いた。


「ちっがうわ! 変なこと言う口はこうだ」

「いひゃい〜、やぁえふぇ」


 ステファニーはキアラの頬を引っ張った。


「お前ら、じゃれ合ってないで教室に戻るぞ。そろそろインテグリダーが来るからな」


 インテグリダーは、人族のクライヴ、獣人族のモーリス、エルフ族のローラ、三人からなるバウンティハンターのチーム名である。

 バウンティハンターとは、犯罪者等の賞金首や魔獣を捕まえたり殺すことで生計を立てている人々である。バウンティハンターから精霊騎士になった人が多く、ステファニーの両親やフェルサ帝国の皇帝グレンも最初はバウンティハンターとして活躍していた。そのため、英雄物語に憧れた貧民や庶民がバウンティハンターになることが多い。精霊学校を卒業したあとにバウンティハンターになる者もいる為、信頼の置けるバウンティハンターに獲物の狩り方や賞金首の探し方などの指導を依頼している。


 獣人族のモーリスはフェルサ帝国の元兵士だったが、クライヴに誘われてバウンティハンターになった。途中、精霊術が得意なローラがパーティーに加わって劇的に戦闘スタイルが変わった。

 鎧など着ていなかったモーリスはプレートアーマーを装備するようになり、ローラがモーリスとクライヴの装備に強化の精霊術を使ってサポートすることでパーティーとして格段に強くなった。実力とその経験を加味して、ステファニーたちの指導を任された。



 教室にステファニーたちが戻ると、インテグリダーの三人が待っていた。


「お、ようやく来たな。詰所から最新のレートブック手に入れたか?」


 ラメラーアーマーを身に着けたクライヴが手に持ったレートブックを振っている。

 レートブックは賞金首や魔獣の詳細や報酬が書かれている冊子で、基本的には兵士の詰所に置かれている。兵士の数に限りがあるため、魔獣退治等をバウンティハンターに依頼している形だ。報酬は国や領主が負担しており、バウンティハンターは荒くれ者が多いため、トラブルを対処できるよう詰所で兵士が報酬を渡す。レートブックは一週間から二週間ほどで更新され、新しいレートブックを貰ってないと既に倒された魔獣や逮捕された賞金首を探し続けることになりかねない。


「はい、新しいレートブックを皆貰いに行きました」

「今日は聞き込みから始めるの?」


 ステファニーの問いにクライヴが大げさな身振りを交えて話した。


「いいや、今日はレートブック使わないぞ」

「え、なら何で取りに行かせたの!」

「あはは、すまんすまん。そのかわりな、今回はな、何と遺跡の探索をするぞ! しかも泊り込みで! その遺跡はな、あの精霊物語に書かれてる魔王や魔族がいた時代に作られていて、たくさんの金銀財宝が眠っているって言われているんだ。そこを探索しに行くんだぞ」

「おおおおおお、金銀財宝うはうは」


 金銀財宝を手に入れた姿を想像しているステファニーは蕩けそうな顔をしている。


「あはははは。よだれ垂らしていい顔してんな、ステファ……痛ってぇ!」

「ウソ言ってんじゃないわよ」


 クライヴの頭をエルフ族のローラが叩いた。ローラは気功術が苦手なため、肌の露出がない服を着ている。


「ステファニーちゃん、こいつが言った金銀財宝のことはウソだからね」

「ええぇ」

「ごめんね、このバカのせいでガッカリさせちゃって。でも、遺跡のことは本当よ。魔獣が巣を作ったり、盗賊が根城にしたりするから、遺跡調査は数カ月に一回行われるの。二週間前に調査は終わってるんだけど、エイダンさんと話して遺跡の探索方法を教えようって話になったの。盗賊が罠を仕掛ける場所とか、マッピングのやり方とか色々教えられるからね」


 ローラがウィンクをするとブレインとフィルスが赤面した。ローラは怖そうな顔をしているが愛嬌が良く、直ぐにブレインとフィルスはローラの手に落ちていた。昔ブレインがフィルスをちょろいと言っていたが、ブレインもちょろいだろとステファニーは思っていた。

 

「エイダン様が来られたら、帝都で遺跡探索と野営に必要な品を買いに行くぞ。経費は国持ちだから良い品を買い漁ろうな」

「おい、モーリス! 聞こえてるぞ」


 廊下からエイダンの大きな声が聞こえた。


「いや、エ、エイダン様、もう来られたのですか」

「来たらまずかったか? お前は兵士の頃から変わってないな。根性入れ直してやろうか」

「遠慮します! さっ、早く行かないと先に行ってるアメリア殿と兵士たちを待たせてしまいますよ」


 モーリスが兵士だった頃に騎士のエイダンから厳しい訓練を受けていたため、未だに苦手意識を持っている。


「うむ、それもそうだな。よしお前ら、行くぞ」


 エイダンの指示で全員が帝都に移動して必要なものを購入していく。何が必要なのかステファニーたちに考えさせて買い物をさせている。買い物が終わりそうになった時、クライヴが話しかけてきた。


「まだ必要な物が残ってるぞ。ほら、遺跡探索には松明かランタンが必要だ。ランタンを買うなら油も買う必要があるな」

「は? 精霊術使って照らせばいいじゃねぇか」

「短時間だったらいいが、一日中探索するんだぞ。その間ずっと火の精霊術使えるか? ぶっ倒れて死んじまうぞ」

「あぁ、チッ。荷物になるが持ってくしかねぇのか」


 フィルスは渋々松明を買って背嚢に詰めていく。全員の準備が終わり、帝都の外に出る門に向かった。門にはアメリアと兵士たちがエイダンたちを待ってた。

 兵士はジャンス、アダル、ユナ、チュオンの四人で、全員がモーリスの知人だった。モーリスは四人と抱き合ったり握手をしたあと、全員が自己紹介をして遺跡に向かい始めた。


 十三人は談笑しながら帝都を離れていく。このうち半数近くは二度と帝都に戻ってくることはなかった……

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