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第二十五話 授業

「ん〜ここの料理美味しい。特にこのハーブがいい感じの鶏肉! 皮がパリッとして中から肉汁が溢れ出して、あぁうまい! キアラも食べな」

「うぅ……朝からそんなに食べれないよ」

「しっかり食べないと大きく成長しないよ。私たち育ち盛りなんだから。フィルスを見なよ、すっごい食べてるでしょ」


 フィルスは黙々と肉を掴んでは口に放り込み、喉がつまれば野菜がふんだんに入ったシチューを飲み、また肉を口に放り込んでいく。キアラの視線に気付いたフィルスが手を止めて睨みつけた。


「やらんぞ」

「あぁ……うん、大丈夫」

「ダメだよ、ちゃんと食べなきゃ。ほらキアラ、あ~ん」


 キアラの口元にステファニーが手に持った鶏肉を持っていく。キアラが顔を真っ赤にしながら鶏肉を一口かじる。


「あん……ん、美味しい」

「でしょ〜。はい、もう一口」


 その様子を見てたアメリアが誇らしげに語り始めた。


「どう帝国の自慢の料理は。美味しいでしょ。獣人族の畜産は他種族の国よりも多く行われているのよ。だから、おかわりも大量にあるからまだまだ食べて平気よ。ステファニーちゃんの言うとおり、食べないと成長できないわ。ねぇ、ブレイン君は何で一口も食べてないの。お肉食べれないのかしら」


 ブレインは罰の悪そうな表情を浮かべながら言った。


「とても美味しそうなのですが、その……手で直接肉を掴んで食べるのがどうしても……」

「ああ、ブレイン君は人族の王族でしたね。普段はナイフやフォークを使っているのかしら。ただ、ここは獣人族の国だから、ここの流儀に慣れてもらわないと。キアラちゃんもまだ手掴みが恥ずかしいのかな」

「ちょっと恥ずかしいですが、お祖父様と二人っきりで狩りに行った時は手づかみで食べてたから、なんか懐かしい感じがします」

「うむむ、私もここの風習に慣れないといけないのですか」

「ええそうよ。今は辛いかもしれないけど、他国のことを学んであなたが自国に帰った時、ここでの経験が活かされるわ。だから、はい、食べなさい」


 ブレインは恐る恐る肉を触って食べ始めると、ステファニーが手についた肉汁を取るために指を舐めているのが目に入った。


「なっ!? ステファニー、君は何をしているんだ。そんな指を舐めるなんて。同じ国の生まれとして恥ずかしい。淑女のマナーを学んで来なかったですか?」

「はぃ? マナーを学んでないのはどちらなんですかね。周りを見れば一目瞭然なんじゃない」

「なに?」


 手づかみの食べ方のことばかり考えていたブレインは食堂にいる獣人族のことをあまり見ていなかった。見渡すと老若男女が手を舐めていた。


「そ……そんな」

「ふん」


 実際のところ、この国での食べ方は前世の食べ方とほとんど同じだったため、ステファニーはマナーとか気にせず食べていただけだった。

 

「ブレインくん、食事でのマナーは手を舐めるか拭くかのどっちかよ」

「舐めるのは無理です! ハンカチで手を拭きます!」

「何に言ってるの? ハンカチじゃなくて腰に巻いてる布で拭くのよ」

「「「えっ!?」」」


 アメリアの発言に肉を食べ続けているフィルス以外の三人が反応した。


「こんないい生地の布を手を拭くためだけに使うなんて……」

「もったいない……」

「…………」


 ステファニーは何も言わず腰に巻いた長い布で手を拭き、口元を拭いた。


「この布で汗を拭いたり手を拭いたりするのよ。何のために腰に巻いてると思ったの?」

「かわいいファッションだと思ってたのに……」


 長い布でリボンを作ってたキアラは落ち込んだ様子でリボンを見つめていた。


「そんなに顔しないで。私はキアラちゃんの巻き方可愛いと思うわよ。さぁ、朝食を食べ終えたら精霊術の授業よ。皆がどれほど精霊術使えるのか楽しみね」


 

 その後、ブレインが朝食を食べ終わってから皆で外にある訓練場に移動した。城から少し離れており、誰もいない閑静な場所だ。


「誰もいませんが貸切なんですか?」

「実は、この国では精霊術を使う人が少なくてこんな場所に追いやられてるの」

「そんなんで精霊術ちゃんと教えられんのかよ」

「フィフス君、大丈夫よ。なんて言ったって精霊学校は何千年も続けているのよ。精霊術に関して受け継がれた知識や情報が大量にあるの。どんなに特殊な精霊であろうが最適な教育を提供できるわ」


 アメリアは胸を張って自慢げに言った。


「まずは精霊術がどのくらい扱えるか確認するわね。フィルス君、銀の精霊術使ってみせて。とても気になってたの」

「めんどくせえなぁ、ほらよ」


 フィルスの肩に銀色に輝く球体が一つ現れ、銀色の液体が宙に浮いている。

「これが銀の精霊術なのね。液体状の銀を作れるわけね。すごいわ、フィルス君。この銀を何かの形に変えることできる?」

「ちっ」

 

 フィルスは悪態つきながら銀色の液体をナイフの形にしてアメリアに向けて放った。

 アメリアは飛んできたナイフを二本の指でつかんでじっくり銀のナイフを観察している。


「フィ、フィ……ねぇ、アメリア

先生に向かってナイフ投げちゃだめだよ」

「うるせえな」


 クズという意味のフィルスの名前をキアラは呼ぶことができずにいた。


「心配してくれてありがとうキアラちゃん。でもね、この程度で怪我する先生じゃないわよ」


 アメリアはキアラに向かってウィンクをする。


「フィルス君も経験上分かっているんでしょ。銀の精霊術で作った武器は脆いってことを」

「チッ、そうだよ。ったく、何でこんな弱くて使えない精霊に好かれたんだか」

「え〜、でも銀を作って売れば大金持ちになれるんじゃないの」


 ステファニーがあくどい表情を浮かべながら言った。

 

「んなこたぁオレだって考えたよ。規制されて売れねえんだよ、クソ」

「そう、銀の精霊に愛された子供が現れたことは各国の鉱物を取り扱っている組合に伝わって、出所不明の純銀は買い取らない方針になったのよ」

「本当に使えねぇ精霊だよな」

「んふふふ、ねぇフィルス君。銀の武器の強度を上げる方法があるんだよ。フィルス君のために歴代の銀の精霊に愛された人について書かれた書物をちゃんと調べてきたの。知りたい?」


 フィルスは耳と尻尾をピクッと反応させてそっぽを向いた。


「別に……」


 口ではそう言っているが尻尾がブンブン振って嬉しがっているような様子が見て取れる。


「ねえ、ステフちゃん。最近読んだロマンス小説で知ったんだけど、ああいうのってツンデレって言うんでしょ。なんか可愛いね」

「ツンデレっていうのかな? そんな可愛いと思わないし、なんだかなぁ」

「ちょろいって言うんじゃないんですかね」

「それだ! ツンデレっていうよりはちょろいだね」


 ブレインの意見にステファニーは同意した。

 

「フィルス君の教育方針は決まったから、次はキアラちゃん精霊術使ってみようか」

「は、はい」


 キアラは火と風の精霊術をそれぞれ使った。

 キアラが放った火球は、誘拐事件の際にステファニーが左腕を吹き飛ばされて顔に重度の火傷を負った炎よりも大きく、熱量も大きい。

 そして、空気を圧縮して放った風の精霊術大地をえぐるほどの威力があった。


「素晴らしいわ! 威力は言うまでもないし、無駄なく精霊の力を結集させているなんて!」

「えへへ、ソフィア様に教わっていましたので」

「なるほど、それならキアラちゃんは精霊の力の複合方法を教えましょう」

「はい、お願い致します」


 精霊の力の複合はかなり難しく、複数の精霊に愛されていないと数年間はかかってしまう。ステファニーも精霊の力の複合を試してみたが難しく、いったん断念している。もう少し精霊術が上手くなってから再度挑戦するつもりであった。

 

「次はブレイン君に精霊術を使ってもらおうかしら」

「はい、それでは行きます」


 ブレインの周りに百を超える土の精霊が現れた。手をかざすと訓練所を覆うように高さ三十メートルほどの土壁がそびえ立った。

 精霊術の凄まじさにブレインを除く全員が驚愕した。


「桁違いだわ、これが三つの精霊に愛された人の力なのね……」

「てめぇ、こんだけ強え力持ってんならグレンと戦った時に使えよ」

「うわぁ」

「え、ブレインってこんな強いの? だからか……」


 ステファニーは思い出した。ブレインが誘拐された時、精霊術を使えなくさせるガントレットを誘拐犯がずっとブレインに向けてたことを。

 もしガントレットがなかったら、ブレインは一人で誘拐犯全員を倒していただろう。ブレインのことは気に食わないが精霊術に関しては尊敬に値するとステファニーは思った。


 賞賛されたブレインは少し困ったような顔をしている。


「おいてめえ、なんてツラしてんだよ。こんだけすごいんだってから自信持てよ」

「あれ? ブレイン君、ちょっと試してほしいことがあるんだけどいいかしら。そうね、少し離れたあそこらへんに五センチでいいから精霊術で土を隆起させてみて」

「うぅ、はい……」


 頼りない返事をしてブレインは土の精霊術を使う。三十を超える土の精霊が現れ、地面が十メートル ほど盛り上がった。


「う〜ん、精霊に振りまわされて制御できてないのね。力も分散してるみたいだし」

 

 ブレインが作り出した巨大な土壁をよく見ると、至る所がボロボロで崩れ落ちている場所もある。ブレインが自信のない理由は、精霊が力を貸しすぎて思い通りに精霊術が使えないことだった。


「うん、ブレイン君は精霊の力の制御を軸に訓練しましょうか」

「はい……」

「最後はステファニーちゃんだけど、すでに光の精霊術で人の怪我を治すことができるんだよね」

「ええ、出来ます」

「それならステファニーちゃんには皆の怪我を治してもらいましょう」


 その言葉にキアラとフィルスが反応する。グレンとの戦闘で負った傷を光の精霊術で治した時の激痛を二人は思い出していた。


「ええ、三人が怪我した時に治せばいいのね。任せて」

「いいえ、その三人だけではないわ。この城で怪我した人全員よ」

「えっ」


 一瞬ステファニーは戸惑ったが、光の精霊術で治療すれば治療するほど精霊術が強くなることを知っているので、喜んでその提案を受けた。


 こうして四人それぞれの指導方法が決まった。


 フィルスは基本的な土の精霊術を学んでいる。銀の精霊術で作り出される銀は純銀であるため強度が弱かった。土の精霊術で他金属を混ぜ込むことにより強度を増すことが出来る。

 精霊術の複合は難しく、歴代の銀の精霊に愛された人たちは三年から五年かけて使えるようになっていた。精霊学校を卒業した後は、国お抱えの銀細工職人になったり、何十本もの銀武器を自由自在に操り敵を倒す有名な騎士もいた。国に飼い殺しになる可能性もあるが将来安定した職業に就くことができる。


 ブレインも同じく基本的な土の精霊術を学んでいる。フィルスと一緒に切磋琢磨して学んでいて、身分の違いはあれど良い関係性を築き上げていった。


 キアラは複合の精霊術を学んでいる。精霊の力を混ぜる方法はかなりの集中力を使い、気を抜くと暴発することもあった。そのため、生傷が絶えず、その都度ステファニーに治してもらっている。


 ステファニーは怪我した兵士や騎士を光の精霊術で治している。兵士や騎士たちの間でステファニーの治療は一種のイベントになっていた。光の精霊術での治療は激痛が走るため、いかに痛がらずにいられるか我慢大会をしていた。時には賭け事の対象にもなったりしてステファニーの治療は大いに盛り上がっていた。

 そのおかげか、ステファニーの光の精霊術がめきめきと成長していく。

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