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第ニ十三話 仲間

 獣人族が治めている国は五種族の中で一番数が多い。そしてほとんどが短命の国である。国をまとめる長は強くなければならないという獣人族の理念があり、長の座を狙った争いが頻繁に起こる。大規模な争いではなく、一対一の勝負を行う。

 そのため、短いと一ヶ月も経たずに国の長が変わってしまう。中には国の重役を親族で固めてしまい、内政が腐敗して滅んでしまう事もあった。また、国とは到底言えない村程度の規模の国もある。有象無象の国が乱立している中、フェルサ帝国だけが三十七年間も国の長が変わっていない。


 フェルサ帝国の皇帝は十四歳の時に国を治めてから多くの国を支配していった。その武勇伝は世界中で語り継がれているほど人気がある。なぜなら、フェルサ帝国の皇帝は七人の精霊騎士の一人グレンだからだ。

 捨て子の獣人族であるグレンが一国の長となり、多くの国々を支配し、大帝国を築き上げて精霊騎士に成り上がる英雄譚は庶民の憧れの的である。毎年、獣人族代表の国として選ばれるのは当然であった。


 精霊学校はフェルサ帝国の城に特別に用意された教室で行われる。城は全て干しレンガで作られており、広大な敷地に平屋から二階建て程度の建物が継ぎ足しで建造されていったため、城というより異様な雰囲気を醸し出しているちぐはぐな集合住宅街であった。

 授業に参加する子供たちはそれぞれ個別の部屋を与えられている。精霊騎士では各種族の文化等を学ぶ意味合いもあり、その国の風習に従うことになっている。


 ステファニーは用意された服に着替えていた。ステファニーが着ている服は、股上がゆったりとして股下が垂れ下がりスリットが入っているズボンと胸を隠す程度の布である。気温が高いこの国では一般的な服装であるが、今まで着たことがない服装のため、着替えるのに時間がかかっていた。着替え終えたとき、ドアを叩く音が聞こえた。


「ステファニー様、ご用意は出来ましたか? 他の方々はもう教室に集まっていますよ」

「ごめんなさい、今用意出来ました。すぐに向かいます」


 外に出るとベールで顔を覆っている大人の侍女が立っていた。フェルサ帝国ではベールで顔を覆っている人は使用人の証である。その女性に連れられてステファニーは他の生徒がいる教室に向かった。

 教室の扉を開くと、三人の子供が視線をステファニーに向けた。一人は満面の笑みを浮かべて近寄ってくるキアラだ。二人は互いに手を取り合い再開を喜んだ。

 キアラの衣装はステファニーと少し違っている。ズボンは同じだが、腰に長い布を巻いて左側にリボンの形で結んでいる。両手には二の腕から手首までゆったりと覆うアームカバーを付けている。服の色々なところにイミテーションではあるが装飾品を付けていた。


「キアラ、それって腰に巻くやつなんだね。マフラーかと思って首に巻いたんだけど暑苦しくて置いてきちゃった」

「ステフちゃんらしいね、アームカバーも暑いと思って付けてないの? 思いの外暑くないよ、生地もスベスベで気持ちいいし」

「ああ、それは足に付けるかと思って無理矢理に足を入れたら破れちゃった」

「ステフちゃん……」

「はは、教養がないヤツだな」


 ステファニーに嫌味を言ったのはルシクス王国の王位継承順位四位のブレインだ。彼の服装は股上がゆったりとして股下が垂れ下がってるズボンに長い布を巻いて前に垂らしている。ヘソが出るほど短いノースリーブとベストを着て、ネックレス等の装飾品で着飾っている。


「ふっ、助けられたお礼すら言えないガキが何言ってるんだか」

「なっ!?」

「ステフちゃん! 王族の方にその口の聞き方はどうかと」

「そ、そうです」

「ふん、精霊学校では王族だろうが平民であろうが身分は関係なく生徒は平等であるって決まり知らないの? まったく、教養がないのかしら」

「ううう……」


 何も言い返せないブレインを横目にステファニーは三十人ぐらいは授業を受けられる教室の真ん中辺りにある椅子に座った。キアラが後を追っかけて隣に座る。


「どうしたの、ステフちゃん。普段はあんな態度や話し方しないのに。何かあったの?」

「何かあったというより何もなかったから怒っているの。誘拐事件の後、ブレインはお礼の手紙ひとつもよこさないのよ。お礼を言ってもらいたいとは思わないけど、なんか癪に触って。だって、彼の兄弟姉妹は彼を助けたことのお礼をわざわざ言いに来たのよ」

「ええ!? ブレイン様は私の家に来てお礼を言ったよ。ステフちゃんの家に来ていないの?」

「え、それ本当? なおさら気に食わないわ。謝るまで絶対に許さない」

「あぁ、余計な事言っちゃったかなぁ」


 キアラが手を頭において困った顔をしている時、二人を見つめる視線をステファニーは感じ取った。視線のする方に顔を向けると、残り一人の生徒である獣人族の男が睨んでいた。下から睨め上げるように見つめてくる姿はまるで前世の父親に似ているとステファニーが思った。

 戦場で裏切り行為を行い、仲間たちから二度と戦いに連れて行かれなくなって生き恥を晒した父親は全てを恨み、そしてすべての人に嫉妬していた。その頃の父親の目つきにそっくりな獣人族の男の子はまだ七歳だ。どれだけ辛い人生を歩んできたか考えるとステファニーは胸が締め付けられ、手を差し伸べようと決心した。その時、教室のドアを力強く開く音が聞こえた。


「おはよう、お前たち! 今日から一年間お前たちを指導する帝国騎士のエイダンだ。よろしく!」


 大柄の男性の獣人族が教室に入るなり大きな声で話しながら教壇に近づいた。エイダンと名乗った男はズボンと長い布を腰に巻いているだけで上半身裸だった。ボサボサの長い髪の中から垂れ下がった耳の可愛らしさが男らしい引き締まった体と合っていないため、ステファニーは笑い出しそうになり口を両手で塞いだ。隣にいるキアラは露出した体を見慣れていないため、顔を真っ赤にして下を向いている。


「大きな声出さないでよ、子供達がびっくりしちゃっているじゃないの。皆さん、初めまして。私はアメリアです。あなた達の精霊術と礼儀作法と歴史の先生です。よろしくお願いいたします。隣にいる筋肉ダルマは気功術だけを教える先生です」


 アメリアと名乗った獣人族の女性はスラッとした体格で、長い白髪の中からウサギ耳が出ている。彼女の服装も他の人と同じで露出が多い。ズボンにはスリットが入っており、上半身は生地面積が少ない水着のような服とベールで作られたボレロを着ている。キアラと同じくブレインも肌を露出した姿を見慣れていなく、顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。


「よし、仲良くなるためにお前たちに自己紹介してもらおう。誰からやってもらおうかな? よし、そこの金髪の人族の少年! 立ち上がって名前と出身国と愛された精霊を発表してもらおうか」


 指定されたブレインは顔を真っ赤にしながら自己紹介を始めた。


「はい、私はブレインと申します。ルシクス王国の王都出身で、父親はルシクス王国の王キーラン・ヴェルドーネです。私は王位継承順位四位ですが、気軽にブレインと呼んで頂ければと思っています。愛された精霊は土と水と風の三つです。皆様、これから五年間よろしくお願い申し上げます」

「はいはい、自慢ですか?」

「なっ!?」


 ステファニーが嫌がらせのようにヤジを飛ばし、動揺したブレインがステファニーに睨みを利かせた。二人のやりとりを見てエイダンが口をはさんだ。


「三つの精霊に愛された人は六百四十年ぶりだから自慢して当たり前だろ。他人を傷つける発言は良くないぞ、エルフの少女よ。次はお前が自己紹介したまえ」


 プラチナブロンドの長髪をなびかせながらステファニーは立ち上がる。


「はい、私はハーフエルフのステファニーです。出身地はルシクス王国のリオノルテ領です。両親は精霊騎士のライリー・レヴィンとソフィア・レヴィンで、愛された精霊は光の精霊です。みんなこれからよろしくね」

「ふん、お前も自慢してるじゃないか」

「ふ、それで? あなたは私と同じことしか言えないの? その程度なのね」

「なっ!?」

「こらこら、あなたたち何かあったの? これから五年間も一緒なのよ。仲良くしなさい」

「そうだぞ、いがみ合っていないで仲良くしたまえ! 次は栗毛色の髪の少女よ、自己紹介してもらおう」


 キアラはビクッと体を震わせて立ち上がった。


「あ、あの……、私はキアラと申します。えっと、出身地はオティエノ王国のセントス領です。愛された精霊は……火と風です。その、よろしくお願いします」

「うむ、火と風は相性がいいからキアラは精霊に恵まれているな。最後は獣人族の少年だ」


 だるそうに立ち上がった獣人族の少年は銀狐の獣人で黒髪と白髪が混ざって銀色に見えるボサボサの長い髪と耳としっぽが特徴的だ。上半身はベストだけで、腰の長い布は二重に巻いていないため布の先が地面に付いており、だらしなく服を着ている印象を感じさせる。頭を少し下げて全員を下から睨むようにしている。


「フィルス……オレはフィルス」


 その言葉に教師を除く三人が怪訝な顔をした。フィルスとは汚物やクズを意味する言葉で名前として使われることはない。


「生まれた場所なんて知らねえよ。オレが得意な精霊術は銀の精霊だ」

「銀の精霊に愛された人は千年以上前だと言う。かなり珍しい精霊に愛されたな。これで全員自己紹介が終わった。んじゃ、この城の案内をしてやる。この城はかなり複雑で今でもオレは迷子になるぐらいだからな。はははは! その後はグレン様に会ってもらうからな」


 それを聞いたキアラが目を輝かせステファニーの腕を掴んだ。


「聞いた、ステフちゃん! あの豪傑の野獣グレン様に会えるって、嬉しいね」

「うん、生まれた頃会ったことあるらしいけど覚えていないんだよね。楽しみだね」


 キアラ以外の生徒に一抹の不安を感じながら、ステファニーはみんなと一緒に城の案内を受けに行った。

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