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第十五話 二人の出会い

 のどかな風景を馬車の窓から顔を出して眺めていた。


「ん~、気持ちいい風」


 馬車の中は蒸し暑く、風景を見るふりをしてステファニーは涼しんでいた。


「服がずれちゃってるわよ、こっちに来なさい」


 ソフィアは近づいてきたステファニーを膝の上に乗せて洋服を整える。ステファニーはふんわりと仕立てたピンク色のシンプルなデザインのドレスを着ている。

 

「これでよしっと。あともう少しでサンルトに着くわ、楽しみね」


 サンルトはルシクス王国の東南の国境沿いにある都市で、その国境を越えるとオティエノ王国がある。これといった名産はないが、国境貿易で名を馳せている。


「うん、楽しみ! 最初お父様が舞踏会に行くって言うから焦ったけど」

「ふふ、その時のステフを思い出すと今でも笑いそうになるわ。まさか舞踏会が結婚させられる場所だって思ってるなんて」


 膝の上に座っているステファニーは体勢を少し変えてソフィアに顔を向ける。

 

「だって絵本だと運命の人と出会う場所は舞踏会が多かったし、行き遅れた嫌みな貴族が結婚相手を血眼で探してる場所って書いてるんだもん」

「あっ、ステフ。今言った事は絶対に人前で言っちゃダメよ。まったく……読ませる絵本間違えてたかしら」

「は~い。でもホントに楽しみだなぁ、一緒に精霊学校で過ごす二人に会えるなんて……強いのかな」


 ルシクス王国から二名、オティエノ王国から一名の子供が精霊学校に通うことが決まり、両国の話し合いによって舞踏会が開かれることになった。舞踏会を開催する意図は精霊学校に通う三人の顔合わせである。


「そうね、複数の精霊に愛された子たちだからきっと強いわよ」

「わ~い、楽しみだなぁ」

 

 他愛もない話をしているうちにサンルトに到着した。ステファニーが住んでいる領地よりも人口が遥かに多くて活気がある。馬車の窓に入り込む肉の香ばしい匂いにつられてステファニーのお腹の虫が鳴る。上目遣いで市場に寄りたいと懇願するがソフィアに却下された。


 しばらくすると領主の屋敷が見えてきたが、それを見たステファニーとソフィアは開いた口が塞がらなかった。

 屋敷というより城に近い大きさで、遠くから見ても分かるほど至るところに金が使われている。


「悪趣味だわ……。国境貿易で儲かってるのかしら」

「あんな家には住みたくないなぁ」


 二人は嫌悪感を抱き、屋敷に行くのが億劫になった。それでも馬車は屋敷に進んでいく。

 絢爛豪華な門を通ると屋敷の前で醜くだらしない身体に高価な貴金属と宝石を纏わせている男が立っている。その醜い男が馬車から降りたソフィアに話しかけてきた。

 

「よくぞおいでくださいました。精霊騎士であられるソフィア侯爵が我が屋敷にお越し頂けるとは……まさに光栄の至りに存じます」

「わざわざアトルゥ伯爵がお出迎えしてくださ……」


 ソフィアが話している時、アトルゥは赤いドレスに包まれたソフィアの身体を舐め回すように見ていた。


「ン、ンッ!」


 わざとらしい咳払いが聞こえる。アトルゥはソフィアの美しい身体を見て悦に浸っていたのに、それを邪魔する咳払いを不快に感じた。周りを見渡し咳払いをした者を見つけた瞬間、アトルゥは芯の底から震え上がった。

 ソフィアの横にいるピンク色のドレスを着た可愛らしいエルフの子供に見えるが、アトルゥを見つめる眼に恐ろしいほどの殺気が満ちている。アトルゥは周りに聞こえるほど大きな音をたてながら唾を飲み込んだ。


「お、お、お嬢ちゃんは、あ、あれかな。光の精霊に選ばれた、え~と、ステファニー嬢ですかな。な、長旅でしたから、ご、ご、ご機嫌があまり、よ、よろしくないようで」


 しどろもどろに話してるアトルゥに向かってステファニーは一歩前に踏み出した。アトルゥはおびえきった小さな悲鳴をあげる。


「てめぇが……」


 少女の声とは思えないほどドスのきいた低い声で話始めたとき、場違いの気の抜ける音が鳴り響く。


「ぐぅぅぅ~」


 ステファニーのお腹の音によって静寂が訪れる。


「あ、あははは。お嬢ちゃんはお腹が空いてたのか! すぐに軽食を用意周到させよう。ダグ、ソフィア侯爵をエスコートしろ、私は軽食を頼んでくる」


 捲し立てるように喋り、アトルゥはそそくさと屋敷に入っていった。それを見ていたステファニーが不満そうに頬を膨らませている。


「ステフ、ありがとう。私の代わりに怒ってくれて」

「お母様をいやらしい目つきで見たあのデブの頭をかち割りたいわ、やっていい?」


 前世であれば斧で頭をかち割って殺し、死体から宝石や貴金属や洋服を奪い取ってただろうなとステファニーは思った。


「ダメよ、まだ何もしてきていないじゃない。ただ……手を出そうとしたらヤっていいわよ。いろいろ揉み消せる力は持ってるから」

「わかったわ、お母様!」


 ソフィアは笑顔で話しているが目元が笑っていない。ドレスの裾をたくし上げてレッグシースからダガーナイフを取り出した。


「ヤるならこれを使いなさい」

「お母様!」


 おもちゃを貰って喜ぶ子供のような可愛らしい笑顔を見せているが、受け取っているのはダガーナイフだ。

 二人のやり取りを見て身震いした執事のダグはアトルゥ伯爵に忠告しておいた方が良いと考えた。


 部屋に案内されたステファニーは軽食を食べた後、長旅の疲れがあったのかソファーでうたた寝をしていた。


「ステフお嬢様、起きてください。お嬢様」


 後続の馬車で一緒についてきたエマがステファニーの肩を優しく揺する。ステファニーは目を覚まし、寝惚けまなこを擦りながら可愛らしい声を出した。


「ふぁ~ぁ……あれ? お母様は?」

「奥様は貴族の方々と話し合いがあるため出かけられました。寝起きで申し訳ございませんが、ステフお嬢様にお会いしたいという方が来ておりまして……」

「私に?」


 もし来客がアトルゥならナイフで腹を引き裂いてやろうと考えた。


「はい、ステフお嬢様のように可愛らしいお嬢様で、キアラ様というお名前です」

「キアラ? あっ、精霊学校に行く子だよね! 会いに来てくれたんだぁ」

「ええ、そうですね。ではお部屋にお招きいたしますね」

「うん、お願い。あっ、お茶菓子とかも用意してくれると嬉しいなぁ」

「はい、ご用意致します」


 猫なで声で頼み事をするステファニーを見て、思わずエマの頬がゆるんでしまった。客人を迎える表情ではないと思い、エマは慌てて表情を引き締める。


 エマが扉を開けると、緊張しているのか裾をぎゅっと握りしめている小さな女の子が立っている。髪は栗毛色の緩やかなウェーブがかったショートボブで、リボンで結ったピッグテールが特徴的だ。服はノースリーブワンピースの上にボレロを羽織ってる。

 ステファニーと目が合うと、小さな女の子が駆け足で近づいてきた。


「は、はじめまして、私はキアラです。その……と、友達になってください!」

「うん、お友だちになりましょう。私の名前はステファニーなんだけど、皆からステフって言われてるからステフって呼んで欲しいな」

「うん、ス……ステフちゃん」


 キアラの緊張している様子を見て、ステファニーは思わず「可愛いなぁ」と息を漏らすように呟いた。


「そっ、そんなことないよ。ステフちゃんの方こそ可愛いよ。髪は私と違ってサラサラで、お人形さんみたい!」

「そうかな?」

「そうだよ! 本当に可愛いよ」

「ありがとう。あっ、ねぇねぇ、キアラも来年精霊学校に通うんだよね?」

「うん、そうだよ。ステフちゃんもそうだよね」

「ええ、通うわ。それでね、キアラが二つの精霊に愛されてるって聞いたんだけど、どの属性なのか教えてくれない?」

「うん、いいよ。私はね、火と風の精霊に愛されたの」


 目を輝かせながらステファニーは大きな声で叫んだ。


「すっごーい! い~なぁ、羨ましいなぁ」

「そ、そんなことないよ。ステフちゃんはソフィア様と一緒の光の精霊に愛されたんでしょ? そっちの方が凄いし羨ましいよ」

「え、お母様のこと知ってるの?」


 キアラが茶色の目を輝かせ、興奮しながら喋り始めた。


「誰だって知ってるよ! ソフィア様は女の子の憧れ的だよ! 光の精霊術で傷ついた人々を癒す優しい人で、強くて綺麗でカッコいい人で、あと……」

「あー、それ以上言わないで! 何だか恥ずかしい」

「え~、もっとソフィア様のこと話したいのに。女性の精霊騎士だから本当に憧れてるの。あのね、私のおじいちゃんが精霊騎士なんだけど……」

「本当!? だれだれ!?」

「おじいちゃんはグレディルっていう……」

「うわぁー! 火の大精霊に愛されたドワーフ! 爆砕の怪力グレディル様でしょ! 超すっごい!」

「は、恥ずかしいなぁ」

「大精霊に愛されただけじゃなく腕力も桁違いでって…あれあれ?」


 ステファニーは失礼だと思いながらもキアラを上から下まで見てしまった。その視線の動きに気付いたキアラが恥ずかしそうに言う。


「あ、ドワーフっぽくないでしょ。私ね、ドワーフのクォーターなんだ」

「ごめんなさい!」


 ステファニーは頭を大きく下げて謝罪した。


「え、どうしたの!?」

「キアラの身体をじろじろ見ちゃって……やられたら気分悪くなるって知ってるのにやっちゃって……本当にごめん」

「全然、全然気にしてないよ。よくそんなふうに見られてるから」

「あぅ、ごめんなさい……」

「全然気にしてないって。あっ、そうだ。もし良かったらソフィア様とライリー様のお話聞きたいな」

「うん! 話す話す、何でも話しちゃうよ! だから許して」

「あはは、話してくれたら許します」


 二人は精霊騎士の物語に花を咲かせた。エマが用意した紅茶とお菓子を食べながら、手に汗握る戦いの話や涙が出てしまう話など様々な物語を互いに語り合った。


「うっわぁ~! グレディル様って聞いていた以上に豪傑なんだね。それじゃあさ、キアラも将来グレディル様みたいに精霊騎士目指してるの?」


 キアラは先ほどのはしゃぎっぷりとは打って変わって顔を下に向けて悲しそうな声を出した。


「ううん、あのね、両親が精霊騎士になる夢を許してくれないの。私は精霊騎士に憧れてるんだけど……」

「えええっ! 何で!?」

「女の子は戦場何かに出るもんじゃないとか家の中にいろとか言ってくるの」

「はぁぁ!? ばっかじゃない! 女だからとか言っちゃって本当にばかでしょ!」


 ステファニーは前世の記憶を思い起こす。戦場を勇猛果敢に駆け巡る女戦士たちのことを……。

 戦場において性別は関係がなく、求められるのは力と仲間との信頼関係だ。女だからと侮蔑する奴なんて信用出来ないとステファニーは考えている。


「戦場で雄々しく戦ってる女戦士も多いんだよ、男とか女とか関係ないもん! キアラ、私は精霊騎士になりたいと思ってる。もしキアラもなりたいって思ってるなら一緒に目指そう!」


 そう言うとステファニーはキアラに向けて手を伸ばす。


「……ステフちゃん」


 キアラは涙を浮かべながらステファニーの胸に飛び込んだ。


「ステフちゃん、ステフちゃん! こんなこと言ってくれたのおじいちゃんだけだったよ、グスッ。私ね、私ね……ステフちゃんと一緒に精霊騎士目指す!」

「うん、一緒に頑張ろう」


 キアラはしばらくの間ステファニーの胸の中で泣き続けた。その間、ステファニーはキアラの頭を優しくなでている。


「ねぇ、キアラ。狩りに行ったことある?」

「グスッ……狩り? おじいちゃんと二回だけあるけど」


 ステファニーはニヤリと口元を歪め、あくどい表情になった。


「いいこと思い付いたの、ねぇ耳かして」


 キアラは言われるがままに耳をステファニーの口元に近づける。


「明日……」

キアラの名前は、ドワーフの女の子→ドワーフ→髭、の発想から、とあるミュージカル映画で髭を生やした女性を参考にしました。その映画のキャラクター名がピンと来なくて、役者名を見てドンピシャだと思い『キアラ』と名付けました。


ブレインの名前は海外ドラマ:iゾ○ビの好きな役者を参考にしました。


次回から数話にわたって残酷な描写が続きます。

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