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第十四話 両親の出会い

 修行を始めて四ヶ月が過ぎ、季節は蒸し暑い夏の時期に入っていた。

 ソフィアとステファニーはお揃いの白いワンピースを着ていて麦わら帽子を被っている。

 テーブルにはクッキーがあり、精霊術で作った氷によって冷やされたレモン水を二人で飲んでいる。


「ぷはー、いきかえるぅ~」

「はしたないわよ、ステフ。気持ちはわかるけど……うん、今日は本当に暑すぎるわ」


 汗をハンカチで拭きながら嫌みったらしい目付きで太陽を睨み付けた。今日は一年を通して一番蒸し暑い日で、手で空気を握り締めたら水が絞れるのではないかと思うほど湿気がひどい。


「でも、こんな日だから何にもしないでお母様とゆっくりおしゃべり出来るのよ。私はこの気温にちょっと感謝してます」

「まぁこの子ったら。そうね、最近は修行ばっかりだったわね。ステフとこんなふうに落ち着いてお話するのもあと少ししかできない……のか」


 ソフィアは悲しそうな声を出してうつむいた。その姿を見たステファニーは声を張り上げて言った。


「お母様! 私、精霊学校になんて行きたくないわ! お母様とお父様の元から離れたくないの」

「ステフ」


 ソフィアは嬉しそうに娘の名前を呼んだが、すぐに表情を引き締めて話し出した。


「何度も言ったけど、精霊学校は数千年も続けられていて、そこに通えることは名誉あることなの。大小合わせて百数十の国家から五種族を代表する5つの国でそれぞれの文化や歴史や武術を学べるのよ」

「嫌よ! そんなの行きたい人が行けばいいじゃない! 私はお母様とお父様から学びたいの」

「ステフ……わがまま言わないで。精霊学校は行きたいと思っていても行けないの。ステフみたいに特殊な精霊か複数の精霊に愛された子しか通えなくて、各国が国を挙げて支援してくれるのよ」

「でも、でも……六年間我慢してやっと精霊術が使えるようになって、これからお母様たちに色々教えてもらえると思ってたのに! こんなのないよ!」


 ステファニーは涙ぐみながら感情を爆発させている。ソフィアは胸が苦しくなった。本当はステファニーを精霊学校に行かせずに自分達の元で成長過程を見守りたかった。

 ソフィアは我慢できずに立ち上がってステファニーの元に行って抱き締めた。


「ごめんね、ごめんね。本当に……。ステフ……愛してるわ」

「うぅ、ぐすっ……、ぐす」


 二人は強く抱き締め、しばらくの間そのままでいた。



 

「お母様、ごめんなさい。わがまま言って……」

「いいのよ、私も本当はあなたと離れたくないの。……でもね、精霊学校はそんな悪いところじゃないのよ。私もライリーも精霊学校に通ってたし、精霊学校があったからライリーに出会えたのよ」


 ステファニーはピクッとエルフ耳を動かし驚いた顔をした。

 

「えっ、そうなの? そういえば一度もお母様たちの出逢い話を聞いたことがなかったわ」


 ソフィアは照れくさそうに頬に手を当てている。


「ライリーが恥ずかしがって話せなかったのよ。それにしてもステフが私たちの出会いに興味を持つなんて……おませさんね」


 ステファニーは失敗したと思った。両親の馴れ初めを聞くのは何だか恥ずかしい気持ちが強く、むしろ聞きたくなかった。しかし、ソフィアは恍惚とした表情で語り始めた。


「そう、あの運命の出会いは今でも忘れられない。私が精霊学校に通うために王都に行ったあの日の事を!」


 まるで恋する乙女のような母を見て、ステファニー何も言えなくなってしまった。


「あの日、王都で見たもの全てが新鮮で 美しかった。レンガ造りの重厚な建物、活気のある市場、門の前で微動だにせず佇む衛兵、元気よく遊んでる子供たち、整備された道、店から漂ってくる香ばしいパンの香り、出店の店主が焼いているお肉のスパイシーな匂い、果物屋の新鮮な果実からあふれんばかりの甘い甘い香り、今でも鮮明に覚えているわ」


 話を聞いているとお腹空いてきた為、ステファニーはクッキーを食べ始めた。


「そして、王都に鳴り響くファンファーレ。私が初めて王都に行った日は、なんとライリーの叙勲式だったの! 多くの人が集まっていたわ」


 ソフィアが視線をちらっとステファニーの方に向けた。

 

「私はバウンティーハンターで有名だったライリーを一目見ようと人をかき分けて進んだわ。そして……ライリーが勲章を授かって民衆に見せるために振り返った時……私の目と彼の目が交わった。その瞬間 、恋に落ち……ライリーがプロポーズしてくれたの」

「えええぇぇ!? はぁ、えっ、ええ?」

 

 ステファニーは思わず大きな声を出してしまった。両親が出会った時の年齢を考えてみるとライリーは九十歳ぐらいで、ソフィアは七歳である。約八十歳の年齢差は種族の違いがあるから理解は出来るが、そもそも七歳の幼女に求愛すること事態がステファニーには考えられなかった。

 ステファニーは頭を抱えながら「お父様はロリコン、変態……そんな……いや、でも……私へのスキンシップが……」と小さな声で呟いた。


 尊敬してやまない父親がロリコンだったという事実をステファニーは受け入れることが出来ず、意識が遠のく感じがした。なんとか意識を保とうとして、レモン水を飲もうとグラスに手を伸ばした時、背後から何者かが近寄ってくる足音が聞こえた。

 

「大きな声出してどうしたんだ?」


 恐る恐る振り替えるとライリーが笑みを浮かべてこちらを見ている。


 ステファニーの顔が青ざめ、レモン水を持っている手が震える。氷がグラスの中で何度もぶつかり、不快な音を奏でている。


「お、お、お父様……」

「ん? 大丈夫か、顔色が悪いし震えてるぞ」


 ライリーが手を伸ばしステファニーに触れようとした。


「いやぁ、触らないで!」


 ステファニーは飛び上がり、身体を守るかのように両手で自分を抱き締める。グラスを持っていたため、顔や身体にレモン水がかかってしまった。


「ステフ、どうしたんだ? 本当に大丈夫か? あぁ、こんなに濡れちゃって……ほら」


 ライリーはハンカチを取り出してステファニーの濡れた身体を拭こうとする近づく。

 

「ぎゃー! 近づかないで、この変態! いーやー! お母様助けて」 

「な、何を急に……」


 この世の終わりのような絶望感に打ちのめされ、ライリーは膝から崩れ落ちる。


 二人のやり取りを何も言わず見ていたソフィアが急に笑い始めた。


「お、お母様?」

「あっ、ソフィア! お前ステフに何を吹き込んだんだ?」

「あははは。あ、あなたとの……ふふっ……出会いと……ぷはは……結婚の話……あはははは」

「何でそんな話でステフがオレを汚物を見るかのような目で見てくるんだ? なぁステフ、落ち着いて聞いてくれ。ソフィアに何て言われたんだ?」


 ライリーはステファニーを刺激しないようにゆっくりと話しかけた。


「お父様が七歳のお母様に求婚したって……」

「ちょっと待て! オレがプロポーズしたのはソフィアが二十歳の誕生日だし、そもそも七歳の頃にオレはソフィアに会っていないぞ!」

「えっ、お母様?」


 ステファニーは眉間にしわを寄せてソフィアを見つめた。


「ステフ、私は七歳の頃に求婚されたとは言ってないし、目が合ったときに恋に落ちたのは私だけよ。勘違いしちゃって、もう」

「絶対わざと勘違いさせる言い方だったよね! もうお母様ったら」

「ふふっ、ごめんね。ライリーがこっちに近づいてきたのを見て、ちょっとからかいたくなって……てへっ」


 首をかしげて誤魔化そうとするソフィアを見て、ライリーとステファニーは深いため息をつく。


「お父様、ごめんなさい」

「いや、誤解さえ解ければいいんだ。ただソフィアは……後で説教だな」


 ライリーは少し厳しめの口調で言って睨み付けた。ソフィアは何か思い付いたかのようにニヤリと口元が歪む。


「そっか、どうせ怒られるなら王都のことや出会いから結婚までの話ぜ~んぶステフに教えちゃおっかなぁ」

「なっ!? それは止めてくれ!」


 動揺したライリーに分からないようソフィアはウィンクをステファニーにした。

 ステファニーはそれに気付き、ソフィアと同じようにニヤリと口元を歪ませた。


「えぇ~、お父様。そんなに嫌がるなんて何かやましいことがあったの? まさか本当にロリコ……」

「違う、違うからな! ああ、もう二人して! 分かった分かった。はぁ、話すしかないか……」


 ライリーは肩を落とし、二人は楽しそうにハイタッチをした。


「さて、それじゃあ王都の受勲式のことから話しましょう。ライリーが勲章を貰ったところまでは話したわよね。そのあとパレードがあって、町中を馬車で回って最後に王都の外れにある湖にいったの。湖の中央に小さな岩がせり出ていて、岩には木のツタが何本もからみあって出来た槍みたいのが刺さってるの。それは精霊王が初代ヴェルドーネ王に渡したとも言われてるけど真実は誰も知らない……でも、とても不思議な力があるの」

「そこからはオレが話すよ」


 ライリーが話に割り込み、勝手に話に始めた。


「この国では勲章を貰ったり騎士になった者は湖の槍に攻撃するって決まりがあるんだ。オレも湖の槍に攻撃したが、全く攻撃した感触が無いというか、どんなに攻撃しても傷ひとつ付けられないんだ」

「そんな凄い槍があるの!?」


 ステファニーは北欧神話のグングニルを思い浮かべ、興奮のあまり椅子から立ち上がった。


「ええ、そうよ。私も攻撃したことあるけど本当に傷つけれないの。それでね、ステフ、ライリーが湖の槍を攻撃した姿をどんなふうに想像した?」

「どんなふうにって? こう剣を構えて、えいって感じでやったんじゃないの?」


 ライリーはばつの悪そうな顔をしており、ソフィアはニヤニヤ笑いながら話し始める。


「その頃のライリーはね、『純黒の狂戦士』って二つ名があって……」

「狂戦士! カッコいい!!」


 ステファニーは目を見開いて尊敬した眼差しでライリーを見ると顔を真っ赤にして落ち着きがない様子だった。


「ふふ、カッコいいでしょ、純黒の狂戦士って。ライリーは真っ黒のプレートアーマーを着て、兜には二本の太くてくねった角があって、黒いマントを羽織っていたのよ」

「かぁっこいいいぃぃーー!」


 ライリーはそう言われるとますます顔が赤くなっていく。


「それでね、それでね」

「うん、うん!」

「湖の槍に攻撃するとき、ライリーは黒いロングソードを鞘から抜いてこう言ったの」

「うん!」

「我の身体に封印された暗黒の力を解放する時が来たようだな、ダークネス・ライトニング・スラッシュ! って叫んで湖の槍に攻撃したのよ」

「え? お父様……」


 ステファニーは信じられないという表情をしながらライリーを見る。目が合わないようライリーはそっぽを向いた。


「しかもね、剣を上に向けたときにダークネスって言って、振りかぶった時に雷の精霊術で剣に雷を纏わせながらライトニングって叫んで、スラッシュって言ってから斬りかかるの!」

「う~わぁ……お父様? 今のお話は本当なの?」


 ステファニーは冷めきった視線を向けた。ライリーは両手で顔を隠しているが、エルフ耳の先っちょまで真っ赤になっている。


「そんな目で見ないでくれ、ステフ! 若気の至りなんだ! あの頃はオレも若かったんだよ」

「九十歳で若いって……。はぁ、だから昔のことあまり話してくれなかったのね」

「ふふ、ライリーって可愛いでしょ。でもね、まだ続きがあって」


 可愛いとは全く思っていないが、それを言うと話が脱線すると考え、ステファニーは黙って聞いた。


「通常は湖の槍に一回だけ攻撃する決まりなのに、何と五時間も攻撃し続けたのよ。止めに入った騎士たちを投げ飛ばしながら湖の槍を攻撃したりでもう大変だったわ。後で聞いたんだけど、傷をつけることが出来なかったことがライリーのプライドを傷ついたらしいの」

「何て迷惑な……」

「しかも、攻撃するとき毎回技の名前を叫んでたのよ。ブラック・サンダー・アタック、エターナル・スターダスト・シューター、必殺・紫電一閃、超絶秘奥義・暗黒雷鳴疾風剣とか」

「えぇぇぇ……ダサい」


 ライリーは机に顔を突っ伏して震えている。


「気持ちはわかるわ。でもね、兜や鎧を脱ぎ捨て汗を大量にかきながら一心不乱に攻撃する姿を見ていたら、私は完全にライリーに惚れちゃったの。あとね、その時に思ったの。この人は私が何とかしてあげなきゃいけないって!」

「いやいやお母様、全然お父様に惚れる要素無かったし、その発言はダメな人にハマる人っぽいわ」


 机に顔を突っ伏していたライリーからすすり泣きの声が聞こえてくる。


「お父様って昔はアレだったんですね……もしかして純黒の狂戦士の狂の意味は……」

「それ以上言わないでくれ……」


 か細い声で言うライリーを哀れに思って何も言わなかった。

 珍しく空気を読んだソフィアが手を叩いて話題を変えた。


「以上が王都の出来事でした。でね、次は二人が本当の意味で最初に出会ったのはオティエノ王国なの。そこの酒場で十二歳の私とライリーが出会って、バウンティーハンターとして一緒に冒険したわ。そして18歳の時に精霊騎士に……」

「ちょっと待て、ソフィア! 酒場の出来事言わないとかズルいぞ」

「あ、あら? 何の事かしら?」


 ライリーが立ち上がって詰め寄り、珍しくソフィアが動揺した。


「ステフ、聞いてくれ! あの日は酒場でリアムと飲んでいたときにソフィアが急に現れてこう言ったんだ」


 あわてふためいているソフィアを横目にライリーは話を続ける。


「あなたが純黒の狂戦士ライリーね。感謝しなさい、光の精霊に愛されたこの私、ソフィアがあなたの仲間になってあげるわ! って言ってきてさ」

「ええっ!? お母様……」


 ステファニーが眉間にしわを寄せて見つめると、ソフィアが顔を赤く染めて苦しい言い訳をした。


「そんな目で見ないで、ステフ! その頃は若かったの、若気の至りよ! だって、ライリーのことが好きすぎて何か変な感じの頃だったの」


 涙目になったソフィアを視るのは珍しく、ライリーが畳み掛けるように過去の話を話し始める。


「しばらく変な態度だったよな。何かある度に感謝の気持ちがあるなら私の手の甲にキスしなさいって顔真っ赤にしながら言ってきたり、高飛車な態度のせいでリアムを怒らせたり……」

「もうやめて~!」


 二人の語り合いは数時間続いた。互いの恥ずかしいことや苦労したこと、美しく魅力溢れる昔話に花を咲かせていた。

 

 とても楽しそうに話している二人を見てステファニーは思った。二人の関係は夫婦である前に苦楽を共にしてきた戦友であると……。


 二人の様子を見ていて幸せな気持ちになっていたがライリーの一言でステファニーの感情は微妙なものになった。


「あっ、そうだ。ステフに言い忘れてた。二週間後に舞踏会に行くからな」

「え!?」

裏話:ライリーは若い頃から精霊騎士になれる実力があったが、中二病的な戦い方のせいで評価されていなかった。ソフィアがライリーを調教したおかげで、ライリーは精霊騎士になれました。


次回、新キャラ登場!乞うご期待!

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