8話 酒神終理。
8話 酒神終理。
新入生がチュートリアルに勤しんでいる光景を、
最も近いビルの屋上から観察している三人の姿があった。
「……あれが酒神の妹? 確かに面影はなくもないが……しかし、姉のような変態感はまるでないな。普通の秀才にしか見えない。姉妹とは思えないほどだ。まあ、『あのアホ』と比べてしまうと、そこそこの狂人でも凡夫に見えてしまうのだが」
地下迷宮研究会の部長にして、赤髪ショートのイケメン系超美人――三年女子『銃崎 美砂』が、華日の戦う姿を見ながらそう言うと、
隣に立っている二年女子『怪津 愛』が、
「うふふ。所詮は凡人でしかない華日さんと、究極の超人である『終様』を比べてはいけませんわ」
セットに大量の時間を費やしているであろう桃色髪のハーフアップ、その垂れ下がったサイドの長い部分を、これみよがしに、華奢な右手で優雅に払いながら、
「わたくしの終様は別格。存在の次元が違いますもの」
誇らしげにそう言う彼女に、
――三年女子の羽金が、少し呆れた顔で、
「ああ、うん。確かに、彼女は別格だね……頭のネジの緩み方とか、性根の腐り方とか」
一度溜息をはさんで、
「ところで、あのキチガ……酒神さんは、なんで来ていないの?」
羽金の問いに、銃崎は、ピクリともせずに、
しかし、隠し味として不快感だけはピリリと利かせて、
「勿論、普通に遅刻しているからだ。平常運転というヤツだな」
「……新人のチュートリアルを見守るのは、先輩であるボクたちが後輩に対して果たさなければならない最低限の義務の一つだと、ちゃんと伝えたはずなのになぁ」
苦々しい顔でため息をつく羽金の横で、
怪津が、ほほほ、と優雅に微笑み、
「メインヒロインは遅れてやってくるものですから、仕方ありませんわ」
パイロットの年収以上の値がついている超高級ストールの結び目を粗雑にイジりながら、『むしろそうでなければ恰好がつかない』とでも言わんばかりの口調で妄言を垂れ流す彼女に、銃崎は、抑えきれない『可哀そうな人を見る視線』を一瞬だけ送ってから、
「あのアホの事はどうでもいい。それより」
新人三人を真剣に観察しながら、
「喜べ、どうやら今年も豊作だ。才藤とかいう地味なヤツはなぜ選ばれたのか、とんと謎だが、女子二人の方は、かなり質が高い。あのアホ――『酒神終理』を例外とすれば、スペック的には歴代最高クラスと言っていい」
「妹さんの名前、確か華日さんだっけ? うん。流石、あのキチ……酒神さんの妹だね。酒神終理という化け物ほど狂った性能ではないけど、全体的に超優秀。才能だけでいえば、ボクよりも確実に上だね。嫉妬しちゃうなぁ。あはは」
「その酒神妹とタメをはる、もう一人の新人……聖堂雅だったか? あれも良い。ちょうど欲しかった闇魔法使い、それも火力特化型」
ニッと、力強く笑って、
「今年は、ついに突破できるかもしれない。難攻不落の『地下7階』……」
そこで、彼女らの背後から、ブブブブブっと、妙な音が響いた。
空間が歪み、わずかに電気が走ると、歪みの奥から、
「銃崎たん、オイちゃんを置いて先に行っちゃうなんて、酷いでちゅ。これはもうイジメでちゅ。差別でちゅ。人権侵害でちゅ。外患誘致罪でちゅ」
ボリューム満点の煌く金髪。
キラッキラの鬼メイク。
全身からアホを放出している、非常に頭が悪そうなギャルがニタニタ笑いながら、謎のステップを踏みつつ近づいてくる。
もはや無いのと同じではないかと誰もが呆れる超ミニスカ。
がっつりと開いた胸元では谷間がはしゃいでいる。
制服という概念そのものを冒涜する、名状しがたい、
バカ丸出しの格好をしたギャルJK。
彼女こそが、酒神華日の姉にして、
他の追随を許さぬ最高峰のサイコパス力を持つ、
世紀のスーパーキ〇ガイ、
――『酒神終理』。