7話 セクション0
7話 セクション0
「え……えぇぇ……ええ?」
才藤が困惑していると、女子二人も、置かれている状況に気付き始め、
「……っ……? ……?」
「ぇ、どこよ、ここ? なに? どういうこと? は?」
絶句の表情で固まる聖堂と、うろたえながら眉間にガッツリとシワを寄せる華日。
「ていうか、なに……この服。あんたらも」
華日は、露出の多いライトメイルを装着しており、
聖堂は漆黒のローブに身を包んでいた。
そして、才籐は、汚らしいボロ布を纏っている。
突然の出来事に、三人が困惑していると、
『セクション0! チュートリアルを開始する!!』
背後から響く歪な声。
反射的に振り返った三人の目に、おぞましい化け物の姿が映る。
全長五メートルの土人形。
右手に禍々しいフランベルジュ、左腕に巨大なボーガン。
「ぅ――」
思わずのけぞってしまう才藤。
女子二人は両目を見開いて化け物を凝視している。
感情に身を委ね、悲鳴を上げながら脱兎の如く逃げ出してもおかしくない場面だが、三人とも息をのむだけで済んだ。
//なぜなら、この瞬間、『理解』が、
驚愕を追い越して、
三人の『中』に浸透していったから//
生まれて初めての感覚。
『知識そのもの』が頭の中に流れ込んでくる。
『大量の情報』を一瞬で脳味噌に刷り込まれる、極まった違和感。
(なによ、これ……頭の中に……)
瞬時かつ直接。
『現状を解するための情報』が、『どうあがいても忘れられそうにない記憶』として流れこんでくる。
把握に至るまでに要した時間はコンマ数秒。
『新たなる探究者たちよ。今、お前たちが得た知識、そして力は、主の意思を解するためのカギ。真理を求めよ。主は、新たなる探究者を歓迎している』
化け物は、土人形のくせに、大きく息継ぎをして、
『さあ、はじめよう。探究者たちよ。私を乗り越えて、最初の一歩を踏みしめよ』
その言葉を受けて、女子二人の顔に決意の色が滲む。
聖堂は、憎々し気に舌を打ちながら、
(……探究者。人を超えた力を持つ者。迷宮を進む権利を得た者。ようするに、闘わなければ死ぬ、か。わかりやす過ぎて吐き気がするな、クソが)
スっと杖を構えた。
黙って死ぬ女ではない。
『理不尽な人生』という『敵』と『戦う覚悟』なら、
中学の時から――才藤零児と出会った時から出来ている。
そんな聖堂を横目に見ながら、
華日は、
(ファンタジーって、あたしの趣味じゃないんだけど……好き嫌い言える場合じゃないみたいだし、今だけは我慢してあげるわ)
青白いモヤがかかった細い剣を抜いて、
その切っ先を、土人形に向けた。
そんな、戦う覚悟を決めた二人とは違い、
(おい、おい、おいぃい!! はぁあああああ?! ……おいおいおい……マジか、これ……おいおいおい! ちょっ……えぇえええええええ?!!)
才藤の心は、不可思議と困惑の深部で喘いでいた。
(ぃや、あれ、ファーストゴーレムだよなぁ?! ま、間違いねぇ。だって、『俺が考えたまんま』だもん! てか、この状況も、何もかも『俺が考えた通り』……えぇ? え? えぇえええええ?! 何、これぇえええええ?! どういうことぉおおおおお?!)
現状は理解できた。
自分や彼女たちに『何』ができて、これから『何』をしなければいけないのか。
それだけならば、先ほどの『インストール』で、大体は理解した。
――というか、そもそも『このゲームのルール』なら、
最初から、この世の誰よりも深く知っている――
だが、ゆえに、だからこそ、どうしても困惑せずにはいられない。
(な、なんで……ぉ、俺が、中学時代、ずっと『ノートに書いていたラクガキ』――俺が考えた、キ〇ガイTRPG『真理の迷宮』が現実になってんだよ……はぁあああああ?!)