最終回 終わらない虚無。
最終回 終わらない虚無。
「具体的に言おう。『本物』の『真理の迷宮』を創ってみた。そして、全ての絶望を殺せる可能性を、その最奥においてきた」
言いながら、『彼女』は、
この空間の最奥に、一つの扉を生成した。
「君の設定がベースだが、難易度は劇的に上がっている。私が与える、本当に最後のチャンス。この迷宮をクリアしてみろ。全ての試練を乗り越えて、最後の場所に辿り着いた時、もしかしたら、『本当の真理』を手に入れられる……かもしれない」
「かもしれない……か。俺が設定したこの迷宮のゴールなんかより、よっぽど皮肉な未来が待っていると思ってしまうのは俺だけか?」
「どう思うかは自由だが、これが、本当の最後だ。慎重に行動したまえ」
「……」
そこで、才藤は、終理に目を向けた。
「どうやら、あんたは『ぼくがかんがえたさいきょうのひーろー』だったらしいぜ」
終理は、無表情で才藤を睨みつけている。
「どうりで、いかにもな『厨二臭いスペック』だった訳だ……俺の黒歴史がまだ増えやがった。しかし、まさか、俺という男が、三歳のころから厨二だったとは、ちょっと信じたくねぇ衝撃的な事実だぜ……はぁ。もう、いっそ殺してほしいな」
「貴様は死なないと何度言わせれば気がすむ」
「あ、そうか……ようやくわかったぞ。お前って、『ぼくがかんがえたさいきょうのぱらのいあ』だったんだな。昔から、異常な女だと思っていたが、それなら納得だ。おそらく、七歳くらいの時にも聞かれたんだよ。ほら、あの時の俺ってかなり狂っていたらしいから、訳も分からず、錯乱して『最強の精神異常者』を望んだとしても、さほどおかしく――」
「違う。聖堂雅が君と出会ったのはただの偶然だ」
「え、マジ? ……は、はは、はははっ。ある意味で、終理以上に狂ったこの女が、まさか天然産だったとはなぁ! なぁ、どう思う、終理」
終理は、一度目を閉じて、深く息を吐いてから、
「ほむほむ……ん、なんでちゅか? 聞いていなかったんで、もう一回、最初から言ってくだちゃい。えっと……確か『風見なんとかって人にツバを吐いたのはやりすぎだ』とか何とかって、そんな感じの話をしていたんでちたっけ?」
「どっから聞いてなかったんだよ! てか、ここまでの間、ずっとゴリゴリに会話していただろうが! もしかして、あれ全部一人言?! 急いで病院行ってこい!」
才藤は、全力で怒号を叫んでから、
「……ったく、ほんと、めんどくせぇやつばっか……」
ぶつぶつと、そう言いつつ、
一度目を閉じて、深く息を吐いてから、
「酒神終理、これから、ナイトメアモードの迷宮を探索するから手伝え。チャンスを棒に振りまくって、ついには完全無能の烙印まで押されちまった俺一人じゃ、どう考えても攻略できるとは思えねぇ。だから……頼む」
「コープ(協力プレイ)は苦手なんでちゅよねぇ。なんせ、『性根が歪みまくった変態(才藤)』に創造された、人生ソロプレイのサラブレットでちゅから」
「おい、コレのどこが万能のヒーロー? なんか、すげぇひねくれてんですけど。『世界の醜さに辟易して拗ねちゃった』とかじゃなく、こいつ、おそらく、元からこんなんだろ。いい加減にしろ」
やれやれとため息をついてから、
後ろにいる五人の美少女達に視線を送り、
「聖堂、華日、銃崎、羽金、怪津……お前らも手伝ってくれ。必ず守ると誓うから。俺とこのアホんだらを支えてくれ。頼む」
返事は必要なかった。
全員が、覚悟に燃える瞳で才藤と酒神を見つめている。
「助かる。……ありがとう」
素直にそう言った直後、
聖堂が、
「おい、クズ」
「あ? なんだ、聖堂」
「さっきから、このバカ姉妹の事をなぜ名前で呼んでいる? 特に興味はないが……その理由を答えろ」
「は? ぁ、ああ……ちっ」
聖堂の言いたい事を理解した才藤は、
「当たり前の話として苗字が同じバカが二匹いるから明確にしただけ……それだけの話だろうが、キレてんじゃねぇよ、ウゼぇなぁ。どいつもこいつも、状況見てモノを言えってんだ、ボケが」
ガチギレしている聖堂は、
かつかつと音をたてて近づいてきて、
才藤の胸倉を掴み上げ、
「それが人に頼みごとをする時の態度か? あぁ?」
才藤は、心底めんどうくさそうに、今日一番の深いため息をついて、
「……雅……」
かみしめるように、ゆっくりと、大切な彼女の名前を口にして、
「頼む。これまでと同じように、俺の心を支えてくれ。それは、きっと、お前にしかできないことだから。つーか、お前以外に……任せる気にはなれない事だから」
才藤の言葉に、雅は泣きそうになった。
しかし、涙など流さない。
彼女は聖堂雅。
どうしようもないクズ厨二野郎と共に、
人生という敵と戦い続ける覚悟を決めた、
ちょいとばかし厄介な、唯一無二の特別なヒロイン。
――だから、
「なに、勝手に下の名前で呼んでいる。彼氏気取りか? 殺すぞ」
「もう、ほんとめんどくさい、こいつ!!」
「お似合いのカップルでちゅねぇ」
「黙ってろ、残念ヒーロー」
――こうして、プロローグは終わった。
ようやく始まる本当の戦い。
無能のヒーローと、
万能のヒーローを支える六人の探究者たちが挑む、真理の迷宮。
ネタバレをするなら――その奥には何もない。
同じ皮肉が待っている。
本物の真理なんて、存在しない。
全てが丸ごと解決する夢のような答えなんて、そんな便利なチートは存在しない。
だが、待ちうけている山ほどの困難を乗り越えれば、確実に成長はできる。
なんせ、プロローグを経ただけでも、才藤は確かに成長できたのだから。
いつか、彼と彼女が、本物のヒーローになれる可能性はゼロじゃない。
それを支える者たちがヒーローになれる可能性だって皆無という訳じゃない。
名前を呼ばれたがるくせに呼ばれたら激昂するという、性格に謎の難を抱えている彼女は、すでに英雄としての才覚・その片鱗を見せている。
聖堂雅は、ここまでに経験した困難の中で、ただ一人、ただの一度として諦めなかった。
ヒーローの背中を押し続け、その絶望を支え続ける、完璧なヒロインであり続けた。
つきつめてみれば、どいつもこいつも、結局のところはポンコツだけれど、彼・彼女達なら、いつか辿り着けるかもしれない。
だから、という訳じゃないのは確定的に明らかだけれど、
「さあ、行こう。ヒーローらしく、無様に、全力で、この世に蔓延る全ての絶望を殺しに」
まっすぐに前を向いて、才藤はそう言った。
まぎれもない、英雄として戦うと覚悟した者の決意表明!
――さあ、それでは、プロローグも終わったことだし、第一章を始めようか。
才藤は、右手に巻かれているロザリオを握り、
ぐだぐだと、
特に意味のない、カッコつけただけの詠唱をしたのちに、
唯一意味があると言え無くも無い啖呵を切る!
「ヒーロー見参!」
世界は変わっていく。
そうだ!
この狂った世界を変えようと必死にもがく者が、この時空には確かに存在している!
クソみたいなネタバレをしよう!
とくと、聞くがいい!
――これは、才藤零児という一人のサイコパスが、
この世界における、本物の主人公になるまでを描く物語だ!
★
《 真・第一話 》『おいぃぃ! バカか! この迷宮、セイバーリッチが、そこら中ウロチョロしてんじゃねぇか! こんなもん、クリアなんか出来るか、ふざけんな! の巻』
これにて、『厨二迷宮』は、いったん終幕。
しかし、『才藤の闘い』は終わらない。
この物語の続きは、
正当なる続編である『センエース~舞い散る閃光の無限神生~』で語られます。
才藤の物語は、終わらない。




