6話 修羅場(笑)
6話 修羅場(笑)
「まったく……いいわ。情弱なあんたに、あたしの事を教えてあげる」
そこで、その美少女は、足元に置いてあったパンパンのバッグの中から五冊の雑誌を取り出して、付箋が貼ってあるページを開きながら、
「あたしは、ズバ抜けて成績優秀かつ桁違いに運動神経抜群というスーパースペックを有しながら、中学時代、全国規模の超有名ローティーン雑誌のカリスマモデルでもあった絶対的超絶美少女、酒神華日」
(ねぇ、そこのお嬢さん、あなた、頭にどでかいブーメランが刺さっていますよ?)
才藤は、冷静にツッコんでから、ハァと一度、大きくため息をついて、
(あぁ、この女、痛いなぁ。ここまで肥大化した自意識のパペットマペットは初めて見たぜ。探せばいるもんだなぁ……まあ、全然探してない訳だけれども)
思わず顔を歪ませながらも、
一応、雑誌に目を通してみると、
事実、目の前にいる女のキラキラした写真がバンバン掲載されていた。
同時掲載されている他の連中が可哀そうになるほど、彼女はダントツで輝いていた。
(確かに、カリスマ扱いされている……特集とかも組まれているし、複数人で撮られている時も、大概センター。……だけど、容姿を鼻にかけている時点で、俺視点の総合評価では、顔面ファンタジーな女以下なんだよなぁ。ああ、キモいなぁ。ここに隕石落ちてこねぇかなぁ。俺もろともでいいから、この女をペシャンコにしてほしいなぁ)
「言っておくけれど、サインは書かないわ。一人に書くと、皆に書かないといけないから」
「あ……そう。残念だなぁ」
枚挙にいとまがない突っ込み所をオールスルーする覚悟を決める。
『色々と面倒くさいので、もう関わるのをやめよう』
と固く決意したその直後、
ガララっと、扉が開いた。
ドアの向こうにたたずんでいたのは、
稀代のパラノイア――聖堂雅。
聖堂は、夕陽に染められた多目的室で相対している二人を見た瞬間、いつもの鬼の形相から、血走った般若へと、その顔面凶器レベルを急激にランクアップさせて、ツカツカと、才籐の元まで歩みより、彼の胸倉を大分強めに掴みながら、
「ブチ殺すぞ、色欲魔ぁ!」
「なんで?! ていうか、何がぁ?!」
鋭い顔面で叫ぶ聖堂と、そんな彼女に全力で辟易する才籐。
そんな二人を三秒間だけ観察した華日が、心の中で、
(あの女、とんでもない美人……足、クッソ長いし、胸も大きい……いえ、でも、おっぱいはあたしの方が上。足の質も、単純な長さでは負けているけれど、磨き方ではあたしの方が上。ぅ、うん……総合点では、あたしの方が上だわ。ふぅ……危ない、危ない。こんなカスみたいな高校で、あたし以上の美少女なんて、絶対に存在しちゃいけない。まったく、ヒヤヒヤさせないでほしいわ)
「貴様は、どこまで私を不快にさせれば気がすむんだ、あぁ、ごらぁ。探せばいるものだなぁ! 常軌を逸したドスケベ野郎というものも! 探してなどいないのだがなぁ!」
「と、とりあえず、まず、その行動に至った経緯を教えてくれ。毎度のことだが、お前の言動は、一から十まで、あまねくすべてが、本当に、意味わからん過ぎて、神経がモゲる」
「変な女を使って私を呼びつけたあげく、派手な女とイチャついているシーンを見せつけるという特殊な攻撃に出ておきながら、豪快にしらばっくれるとは……貴様、本当にどういうつもりだ、ハゲ、こらぁ! そんなに、私の困惑している姿が見たいか、このド変態がぁ! ならば、とくと見るがいい! 存分に見るがいい! えぇ、どうだぁ! 満足かぁ、この変態クソブタ野郎ぉお!」
「誰かスタビライザーを! 一刻も早く、こいつの情緒に、高性能のスタビライザーを!」
ぐいぐいと締め上げる聖堂と、意識を失いそうになっている才籐。
そんな、かなり特殊なやりとりをしている二人を横目にしながら、
(なに、あの女、ヤバくない? 重度のサイコパス? それともイカれたパラノイア?)
心の中でそんなことを呟く。
――そんな三人の耳を、
「「「……!!」」」
キィインっと、不快な音が襲った。
三人が、反射的に耳をふさいで眼を閉じた直後。
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肌に触れている空気の質が変わった。
――最初に目を開けたのは才籐。
「……え?」
視界に飛び込んできた風景は真夜中の魔天楼。
お行儀よく並ぶ凸凹で巨大なビルの群れが放つギラギラしたネオンと、
真っ赤な三日月に彩られた幻想的な空間だった。