10話 本物の、聖なる死神セイバーリッチ。
10話 本物の、聖なる死神セイバーリッチ。
終理は、
すぅはぁと一度深呼吸をして、
「……『英雄の剣翼』を構成しているメモリ、発見でちゅ。今までは、そもそもこの迷宮に存在していないものでちたから、手が出せまちぇんでちたけど、現実のデータが目の前にあるのなら、コピーしちゃえばいいだけの話。当然劣化版になっちゃいまちゅけど……まあ、ミスターZに組み込めば、余裕で今のレイたんより強くなりまちゅ。はい、チョチョイっと」
さらに指の動きが高速化していく。
ほんの数秒で、
「ミスターZへの組み込み完了。ついでに無詠唱化できるようにしてやりまちた。あんなクソダサいセリフ、オイちゃん、とても言えまちぇん」
その宣言の直後、
ミスターZの背中に十六本の剣が舞う。
レプリカとは思えない、荘厳な輝き!
「さぁ、困りまちたね、レイたん。どうちまちゅ?」
「ここまでは想定の範囲内だよ。現状のあんたは、眩暈がするほど凶悪な最強状態……けど、Zの積載量やコスト的に、もうそれ以上は積めない。いくら解体して再構築しようが、メモリ容量は変えられねぇ。ハッカーのシステムも理解しているから、当然、コピーされる事は分かっていた。つまり、ここからが本番だ」
「レイたん、もう、アイテムとか何も持っていないじゃないでちゅか。逆転は無理でちゅ」
「全ての前提が俺を祝福している。ここはTRPG。『理』があれば、そこの電波女は通してくれる。英雄の剣翼がそれを証明している。電波女の性質が理解できた今、俺は心の底から信じられる」
覚悟を決めて、
天を仰ぎ、
「――この瞬間だけ、あの時に戻ろう。俺は祈る。魂魄ごと、あの日の俺に戻ることを……ぶっちゃけ、死ぬほど恥ずかしい黒歴史だが……しかし!」
すぅうっと大きく息を吸い、
中学時代によく浮かべていた『気持ちの悪い笑顔』を作り、
ビシっと、とことんまでカッコつけた厨二ポーズで、
「こんにちは、はじめまして♪ ぼくちゃんは、『本物』の『聖なる死神』。この薄汚れた世界を、とびっきりの邪悪で照らす漆黒の輝きさ♪」
その発言を聞いた瞬間、
終理は全てを理解し、
だから、本格的に焦った顔をした。
(っ――『村人』から『セイバーリッチ』にクラスチェンジさせるつもりか?! ふっ、ふざけるな!)
終理は、即座に『彼女』を睨みつけ、
「そんな屁理屈、まさか通すわけじゃないだろうな?!」
終理の異議申し立てに対し、
『女神のような彼女』は、
淡々と、
まるで、『真理』でも並べるみたいに、
「――『理』はある。発狂による異業種への転生。それはシステム上存在している。というか、君はすでに、その恩恵を受けている。ハッカーのスキルを限界以上に乱用していながら、ギリギリのところで精神が保っているのは、『人』から『狂人』にクラスチェンジしているからだ」
その分のデメリットも当然存在する。
『真理の迷宮』における『力』の基本システムは、
『覚悟』と『代償』。
「彼が、死ぬ気で『演じる』のであれば、本気で『狂い咲く』のであれば……逆説的な話にはなるが、彼は、偽りなき狂気の存在となる。闇に輝く英雄の片腕――『聖なる死神』――」
彼女が認めた直後、
才藤の体が黒く輝きだした。
才藤の全身が黒い輝きに包まれる。
どこからともなく、鉄黒い何かが溢れては、才藤を包んでいく。
蠢く闇の粒子は、才藤を包み込むと、
奇怪なローブへと変形していった。
――そして、完成する。
英雄の後光を背負った、聖なる死神。
「にゃは♪」
一度、ニタっと笑うと、
才藤は、スゥっと息を吸い、
「汝等の死を愛しちゃう♪ 汝等の絶望を称えちゃう♪ 彷徨う魂を祝福しちゃおう♪ 終わりなき常闇に、安らかな終焉を与えちゃおう♪ さあ、詠おう。詠っちゃおう♪ 抗えぬ死と、狂える絶望に敬意を表し、たゆたう漆黒の杯を献じつつ♪ ――そう。ぼくちゃんは『聖なる死神』才藤零児。零死の剣を背負い舞う漆黒の煌めきさ♪」
応えるように、詠うように、
まるで英雄の剣翼に重なるように、
――漆黒の翼が顕現した。
英雄と死神のコントラスト。
聖なる死の英雄がそこに顕現する。
難しい計算など必要なかった。
終理は、すぐに、『現状』を理解した。
(ミスターZの方が、僅かに……ステータスが低い……くそがぁ……)
ぎりぎりと奥歯をかみしめながら、
「まだだ……終わらせない。世界を変えるんだ。この『クソだらけのゴミ溜め』を……『倫理的に完成した完全生命であふれた理想郷』に変えてやる。邪魔はさせない!!」
終理は、コックピットに設置されているスイッチやレバーをいくつかパチパチっとしてから、
「リミットブレイクウェポン・パーフェクトヒーロー。出番だ」
ハッチを開き、ミスターZから飛び降りた。
着地と同時に、ミスターZのボディから叫ぶような駆動音がする。
キュィイイイイイイン!!
その直後――
ガチャガチャガチャッッ!!
と、折りたたまれていくように、
どんどん変形し、
ついには、終理の右手に、
希望を模したような巨大な銃が現れた。
「何もかもを終わらせてやる。そして……始めるんだ」
体の三倍はある超巨大な大口径のビームライフル。
地面に固定されているがレティクルは自由。




