6話 醜い偽悪。
6話 醜い偽悪。
ミスターZに搭乗した酒神は、
即座に、その究極兵器を起動させた。
「本能のノイズ、カオスの螺旋。私は背負う。黄泉の門より超えて咎を。無限の罪を。さあ、詠おう。詠おうじゃないか。いつか、必ず、万物のカルマは、黄金と天光に満ちた裁きを超えてゆく。たゆたう一瞬を飾りし刹那の杯を献じながら。――私は、酒神終理。輝く光を背負い舞う一閃」
音声入力の直後、
ティンタンタンターンと、間抜けな音がして、
オペレーティングシステムが起動する。
『SSPSからエネルギーを受信中……変換中……アクチュエーター起動。オルタネーター回転中。コンデンサー、電荷上昇。駆動ロック解除。マニューバー、オープン。素体融合スタート。神経接続開始』
無機質なガイド音声が淡々と現状を羅列した直後、
『エグゾギア/ミスターZ、出撃準備完了。母上、いつでもどうぞ』
「了解でちゅ。じゃあ、鬱陶しい虫けらどもを蹴散らちまちょう。最終決戦でちゅ」
動き出したミスターZは、背中に背負っている銃身が十メートル以上ある巨大なエネルギーライフルを構え、その銃口を、探究者たちに向けた。
「みなちゃん、お別れでちゅ。ばーいちゃ」
「ほ、本気……なのか? く、くそ!! お前ら、逃げろ! 時間を稼ぐ!」
才藤は、銀のチェーンで巻かれた左手首のロザリオを右手で握りしめ、全員の前に立ち、
「白く輝く剣。絶望を切り裂く刃」
なるべくゆっくりと詠唱している才藤を見て、
「なにをそんなにチンタラ……ああ、詠唱中に発動する『カッコよく見栄を切っているんだから邪魔するな、空気読めオーラ』でオイちゃんの攻撃を防いで時間を稼ごうって魂胆でちゅか? ははは、でも、銃崎たん達は逃げるつもりなんて無いみたいでちゅよ?」
「なに……?」
背後を見てみると、
確かに、誰も逃げていない。
「何してんだ、お前ら! 状況、考えろ! おい、聖堂、そいつら連れて逃げろ!」
「アホか、ボケ。貴様の命令など、誰が聞くか」
「ルナってる場合じゃねぇんだよ、カスがぁ! 剣翼をもってないお前らなんざ、この戦場では飛べないゴキブリ以下だ!」
「あれが凶悪な兵器だという事くらいバカでも分かる。で、だからどうした?」
「だから、逃げろっつってんの! 耳、死んでのか?! 頼むから逃げろ! お前に死んでほしくねぇんだよぉ! わかってんだろぉ! こんなこと、言わせんな、くそがぁ!」
「貴様と! 私が! 一緒に生きていて! 初めて意味があるんだ! あほんだらぁあ!」
「うっせぇえ! 俺程度の力じゃあ、お前を守ってやれねぇんだよ! だから、お前だけでも生きろっつってんだ! 何度も何度も言わせんな、カスがぁあ! 死ねぇえ!」
そこで、才藤は、銃崎たちの方に視線を向けて、
「お前ら! 頼む! 死ぬ気で時間を稼ぐと誓うから、そこのアホをつれて、ここから逃げてくれ!」
だが、返ってきた言葉はあまりにも全てが想定外。
「これは、あたしの姉の……家族の問題よ。逃げる訳にはいかないわ」
「これでも、部長・リーダーという役職についている。逃げる訳にはいかない」
「主が酩酊した際に介抱するのも従者の仕事ですわ」
「……私も一応、センパイで探究者だから、果たすべき義務ってのがあるんだよね」
そう言うと、探究者たちは、
武器を構えて、ミスターZの前に立った。
――銃崎が、
酒神を睨みつけ、
「正直、何が何だかよく分からないが、場の空気を読むだけでも、君が、今、何かを大きく間違えているという事だけは理解できた。リーダーとして、いつか、君の隣に立つ者として、ぶん殴ってでも正気に戻してやる」
その宣言を聞いて、
終理は、ニコっと微笑み、
「分かっていまちた。銃崎たん達では、オイちゃんの『崇高な理念』を理解することなんて、絶対にできないこと。オイちゃんの本音を知れば、邪魔してくるだろうってことは想定通り。だから、まとめて消そうと思ってここに全員を集めまちた、まる」
「……終理姉様……」
「ハナたん。ずっと思っていたんでちゅけど、あんた、よくオイちゃんの妹だなんて名乗れまちゅねぇ。羞恥心とかないんでちゅか?」
「っ!」
「銃崎たん。あんたも、オイちゃんの隣に並ぶとか、よく、恥ずかしげもなくほざけまちゅよねぇ。自分のカスみたいなスペックを理解してないんでちゅか? オイちゃんと比べたら、あんたなんて、ただのゴミでちゅよ?」
「……」
「愛たんと羽金たんには……特に言うこともないちゅね。性能的にマジのゴミなんで、邪魔にすらなりまちぇん。……まあ、でも、ついでに消しておきまちゅ。ほら、ゴキブリって、言うほど害はないでちゅけど、とりあえず、見つけたら殺すじゃないでちゅか。そんな感じでちゅ」
その発言に、二人の顔が歪んだ。
怪津は絶望したような表情に。
羽金はグっと奥歯をかみしめた屈辱の表情。
全員気付いている。
これは偽悪だ。




