5話 このカッコいいボディィィ!
5話 このカッコいいボディィィ!
そう言って、酒神が扉をあけると、そこはサヴァーテと戦った空間よりも広い玉座で、その広い空間のど真ん中に、全長五メートル級のロボットが立っていた。
黄金に輝く細身の人型ボディ。
末端に向けて徐々に肥大しているアンバランスな長い手足。
青白い光を放つ、土星の環のように胴をグルっと囲っている円環。
肩甲骨付近から、六枚のフライトユニットを生やしており、
前面には、トンボを彷彿とさせる、複数眼式の光学センサー。
「どうでちゅ、素晴らしい仕上がりだと思いまちぇんか? 武装は職人の手によるSS以上を厳選。重量9トン。出力1500kW。そして、何より、見てくだちゃい、このカッコいーボディィィ! これで、お値段、たったの、いちきゅっぱ! もちろん、金利・手数料は、オイちゃんが負担しまちゅ!」
誰よりもまず、才藤が、
「なん、だ……これ……知らないぞ……こんなの……」
「当然でちゅよ。これはオイちゃんが、ラスボスのパーツを利用して開発した、世界に一つだけの搭載型戦闘兵器でちゅから」
「Zを解体して……再構築したってことか?」
「そうでちゅ。オイちゃんの持つ閃光の剣翼をも組み込み、パーフェクトな暴力を表現した、この子の新たな名前は、『エグゾギア/ミスターZ』!!」
「……自分の異名をそのままつけるほど気に入っているのか。まあ、確かにすげぇ兵器だ。白銀の剣翼を駆る俺が、ただの『ゴキブリ(ちょっと飛べるだけの虫)』に思えるほどの、圧倒的な威圧感を感じる」
「ようやく完成した、この究極兵器を皆に見てもらいたかったんでちゅよ。どうでちゅ、この、カッコいーボディィイ!」
――と、そこで、
銃崎が、
「ちょ、ちょっと待て!」
焦った口調で、
「さっきから何を言っている?! ラスボスを解体? どういう意味だ?! 酒神、君は一体何を言っている?」
「あれ? オイちゃんがソロでとっくにクリアしていたって言ってなかったでちたっけ?」
「……とっくに……クリア……していた……?」
「去年の秋くらいでちたかね。あれ? 夏だったかな? 春だった気も……まあ、なんでもいいでちゅけど、とにかく、去年の段階で、クリアしておきまちた。ソロでも、まあまあ、サクっとイケまちたね」
「な、何を言っているんだ、君は……まさか……いや、だって……」
ワナワナと、
「いや、確かに、君なら……君ほどの超人なら……一人でも……」
理解に届くと、
「……で、では、私たちは、今まで一体何を……」
茫然とした顔で立ちつくしている銃崎をシカトして、
才藤は、
「で? これが何? 確かに凄い兵器だが……だから? そんなことより、さっさと世界の改変を――」
「レイたんが相手だと、どんなに強いモンスターをけしかけても無駄だと理解できたんで、オイちゃん自ら引導を渡してあげようと思ったんでちゅ」
「……ん?」
「既存の兵器やモンスターでは、『全知』というチートスキルを持っているレイたんを殺すのは不可能でちゅ。……だから、『情報のない暴力』を用意させてもらいまちた。当然、これに搭乗して操作するのはオイちゃんでちゅから、『AIの裏をかく』なんていうナメたチートも出来まちぇん」
「酒神終理……待て。ちょっと待て。なんだ? 何を言ってんだ? 一緒に世界を直すんだろ? この腐った世界を俺とあんたで創り変えるって――」
「オイちゃんより遥かに頭の悪いバカの手助けなんて必要ありまちぇん。世界を変えるくらい、オイちゃん一人で余裕でちゅ。そもそも最初からオイちゃんだけで良かったんでちゅよ。なんで、レイたんなんかを使ったのか、マジでイミフでちゅ」
「……」
「確かにレイたんは優秀でちゅけど、オイちゃん程ではありまちぇん。誰かの助けが必要なレイたんと違い、オイちゃんはなんでもソロで余裕。さっき、友達のスーパーハカーがいるとかギャグを言いまちたけど、オイちゃんに友達なんていまちぇん。そんなもの必要ないからでちゅ。……誰の助けもいりまちぇん。なぜなら、オイちゃんは、万能で、完璧な、究極のヒーローでちゅから」
淡々と語る酒神の話を、
才藤は黙って聞いていた。
まだ理解できていない。
目の前にいる女が、
『何やら随分とおかしな事を口にしている』という事に、
まだ気付けていない。
なぜなら、心が拒絶しているから。
こんな訳ない。
心から焦がれた『最高のヒーロー』が、
この世界で唯一憧れた、
『世界を必死になって守ってきてくれた究極のヒーロー』が、
こんなおかしな事を言う訳がないと、
心が必死に拒絶している。
「つまり、オイちゃんがほしいのは、レイたんの改変能力だけでちゅ。レイたんが死ねば、もう一人の選ばれし者であるオイちゃんに、その力が移りまちゅ。という訳で、レイたん」
ニコっと微笑んで、
「死んでくだちゃい」




