最終話 誰が彼女だ、殺すぞ。
最終話 誰が彼女だ、殺すぞ。
――20分後の部室。
「誰が彼女だ、殺すぞ」
「うっせぇ、ぼけ。何回言ってんだ。つぅか、殺す宣言はもういいっつってんだろ」
「もはや癖になっている。いまさら治らん。というか、誰が彼女だ。殺すぞ」
「マジで何回言うつもり?! つぅか、誰もてめぇの事だとは言ってねぇ」
「あぁぁ?!! じゃあ、誰の事だぁあああああ!」
ブチ切れて才藤の胸倉をつかみ上げる聖堂。
その様子を見ていた華日は、
(まいったなぁ……)
心の中で呟いた。
心がギュウっとなる。
脳が熱くなって、僅かに呼吸が疎かになる。
(雅ちゃんには勝てる気がしないのに……あのクズに対する想いがドンドン膨らんでいく。……ほんと、ヤバいなぁ……あたし、なんか、マジじゃん……だっさ)
天を仰ぎ、ため息をつく。
切なさに殺されそうになる。
ギュっと奥歯をかみしめる。
どうしようもない心の痛みに苦しんでいる彼女の感情など無視して、
銃崎が、
「才藤。……さっきは、助かった」
何といっていいか分からないという顔をしていたが、
決意したように、一度だけ頷くと、
「あの後に教えてくれた『君があの迷宮を設計した』という話。だから、剣翼を最短で入手でき、セイバーの弱点も分かったという話……正直、よく分からないが、しかし、君が命がけで私達を助けてくれたという事だけはキチンと理解できている。本当に感謝している」
「あんたを助けたんじゃない。自分の命を守ったただけだ。……つぅか、根本的に、この俺様が他人なんか助ける訳ねぇだろ。俺以外が傷ついても、俺は全く痛くねぇんだから」
「なるほど……君はそういう人間か」
「そう。俺はこういう人間。極めて自己中心的なサイコパスのサラブレッド。厨二病だけは中学と一緒に卒業したけど、本質的な痛々しさは何も変わっていないイカれたクズ野郎」
「その生き方はしんどくないか?」
「……俺の人生で苦しくなかった瞬間なんて、一秒たりともねぇよ」
貫くような目で世界を射抜きつつ、
才藤は、
「けれど……それでも生きたいと思えた。その理由は確かにあった」
一瞬だけ、チラっと聖堂を見た。
聖堂は、いつもの無表情で、ジっと才藤の顔を睨みつけている。
彼女の、その冷たい相貌を見て、
才藤の表情が少しだけ緩んだ。
「だからって訳じゃないのは確定的に明らかだが、俺は、これからも……こうやって生きていく」




