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53話 ヒーロー見参。


 53話 ヒーロー見参。



[楽しい見世物だった。とっくに撃てたのだが、見入ってしまった。まあ、その笑える寸劇もどうやら終わったようなので『聖なる終焉』を始めるとしようか。さあ、聖なる絶望を数えろ]




「うるさい。何度も同じフレーズを言いやがって。気に入っているのか何なのか知らんが、本当に鬱陶しい! 黙って、さっさと撃ちやがれ! 言っておくが、耐えてみせるぞ。私はすでに、二発目をどう防ぐかを考えている!」



[素晴らしい胆力。見事だ。紙装甲の君では、100%耐えられないのだが……期待だけはしていよう。さあ、なんらかの奇跡を起こしてみるがいい]



 聖堂はグっと奥歯をかみしめて、丹田に力を入れた。

 フルゼタの凶悪な輝きが限界点を超えていく。


 凝縮されたエネルギーが一気に解放された。

 超広範囲かつ超高火力のビーム兵器。


 フルパレードゼタキャノン。


 世界を消滅させんばかりの豪快な暴力、絶死の輝き。

 聖堂以外の美少女達の頭中が走馬灯で満たされた。


((((……死……))))


 明確な死が、銃崎たちの頭を駆け巡った……


 ――その時、






「Zフィールド展開!! 最大出力ぅう!!!」






 声が空間を震わせたと同時、

 プラチナの光を放つバリアが彼女たちを守るように出現した。


 ――バリアに直撃する膨大なエネルギー。

 フルゼタの凶悪なエネルギーに耐えるZフィールド。

 そんな壁を、『彼女達を庇うよう』に展開しているのは、


「……遅い」

「うっせぇ」


 背後に左右三本ずつの、

 白銀に輝く剣翼を召喚させているサイコパス。


 両手の掌をセイバーに向けて、

 Zフィールドを展開させている才藤零児。



「フルゼタ、重てぇ……指が五本くらい折れちまった。クッソ痛ぇ」



 エネルギーの奔流が止まったところで、Zフィールドを収束させる。


 両手をプラプラしながらそう言う才藤。

 確かに指が数本、ありえない方向に曲がっていた。

 しかし、ほんの一秒ほどで、ビデオの逆回しのようにスゥウっと、折れた指が元に戻る。


 剣翼の肉体再生装置が機能している証。


 才藤は、切断された聖堂と華日の腕をつかみ、


「自分の肉体以外の再生は、凄ぇ疲れるという事を覚えておけ、このクソザコどもが。泣いて感謝する義務を与えよう」


「黙れ、カス」


「うわ、腕が生えてきた! マジ?! すごっ! ちょっとキモっ」


 数秒で完全に再生した腕を確認して驚いている華日と、

 無表情が崩れない聖堂。


 才藤は、そんな二人を一瞥してから、

 視線をセイバーへと向ける。


 そんな才藤の背中に、

 聖堂が、


「さすがに疲れた。帰って寝たいから、さっさとアレ、片づけてこい」


「命令すんな、ボケ。つぅか、まだ感謝の言葉を聞いてねぇぞ」


「貴様に礼など言うワケないだろうが、殺すぞ」



「………………もう、それ、言わなくていい」



 才藤の、その言葉に、聖堂は少しだけ目を見開いた。

 聖堂は、少しだけ俯き、

 グっと、一度だけ奥歯を噛むと、



「………………本当に?」


「ああ」


「そう」



 聖堂の返事を聞くと、才藤はゆっくりとセイバーの元まで歩いていく。

 歩きながら、心の中で、


(俺の人生は終わっている。ほとんど死んだようなもの……中学までは、そう思って生きていた)


 地獄みたいな出自。

 記憶が飛んでしまうほどの凄惨な幼年時代。



(死んでいるヤツは殺せねぇ……)



 グっと奥歯をかみしめる。



 ――ずっと――



(ずっと、そばで、『殺す』と言い続けてくれたから……)


 死んでいる者は殺せない。

 生きている者しか、殺そうとは思えない。


(ずっと、毎日のように、『俺はまだ死んでいない』と教えてくれていたから……だから、俺は、今も生きているんだと思う)


 中学時代、妙にハシャいだ生き方をしていたのは『自分を守るため』だった。


 無理して、余裕があるフリをして、

 孤高を気取って、超越者を演じて、

 ヒーローのまねごとをして、


 片っぱしから、

 苦しんでいる弱者を助けて、

 ボロボロの心を守っていた。



 己が背負っている絶望は尊いものだと必死に自分を慰めてきた。





 ――聖なる絶望? バカかよ――





 ずっと、ずっと、

 ただただ、ズタズタに砕けた心を、

 プルプル震えながら、必死に庇っていただけ。



 本当は、ヒーローのまねごとですら無かったんだ。



 『もう、そんな事をする必要はないんだ』と気付いたのはいつだったか、正確な日時は覚えていない。


 気付けば、普通に生きていられたから。



(ずっと、そばにいてくれて。俺はまだ死んでいないと、言い続けてくれて……だから、俺は……)


 ――歩みを止める才藤。


 そのトイメンで、警戒している表情のセイバーリッチ・シャドー。


[剣翼を手に入れたのか。素晴らしい。これで、少しはまともな戦いになる]


「ならねぇよ」


[何?]


「あそこにいるパラノイアが、さっさと帰って寝たいっつってる。だからって訳じゃない事だけは確定的に明らかなんだが………………お前は即行殺す」




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― 新着の感想 ―
[気になる点] トイメン?って誤字でしょうか
[一言] 才藤がヒーローの真似事をしていたのも 一種の模倣。そして、恐らくは本気で、 セイバーリッチを全うして、ヒーローに なろうと願ったんでしょうね。 あるいは、主人公たちは皆、ソルを超える 「…
[一言] クズニートの、民間人を巻き込むタイプの 飛び級前センター試験に受け継がれている 流れですね。もっとも、広範囲バリアの 名前がΣからZに変わってはいますが。 指も、天童の時は10本折れていまし…
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