48話 聖なる死神セイバーリッチ。
48話 聖なる死神セイバーリッチ。
やがて、奇怪なジオメトリは、
地面だけでなく部屋中を覆い尽くす。
サヴァーテの死によって発動する、超高位召喚術式。
[ぐぬぅう]
ギチギチと不快な音をたて、
空間を切り裂き、粒子をわななかせ、
[ぬぁああああああ]
次第にソレの姿が鮮明になる。
[ぐはぁ……ふぅ……はぁ……はぁ……]
銀に輝く七つの鋭い眼光。
闇色のガイコツを覆う気品のあるローブ。
ダークオーラに包まれた肢体。
右手に禍々しい剣、左手に巨大な鎌を持つ――極悪な化け物。
「なっ……ゥソだろ……えぇ……??」
銃崎が後ずさりしながら呻き声を漏らす。
あらわれたるは、この上なく明確な『死の具現』。
――闇を纏うそのガイコツは、
スゥっと息を吸って、
[……ごきげんよう。私は『聖なる死神』セイバーリッチ。異形の頂点。この世を究極の邪悪で照らす、漆黒の輝き。君たちに聖なる死を与えるもの。さあ、聖なる絶望を数えろ]
その姿を見て、誰よりも困惑したのは製作者だった。
真理の迷宮の製作者――才藤は、
(何でだぁああ?! 何で、あんな強制負けイベント用のチートガイコツが?! この場面で出現するようなイベントなんて設定してねぇぞ! てか、こんな逃げられない状況でセイバーとか、詰んでんじゃねぇか! セイバーは、ラスボスの『Z』よりも強いエクストラボスだぞ! ふざけんな! マジで、何だ、この状況! マジでどういう事ぉお?!)
才藤が慌てふためいていると、
銃崎が、
「くっ、より高位の異形に変身するとは……いかにも、ボス戦らしい、クラシックな展開じゃないか」
武器を構えて、戦おうとしている。
――その光景を見た才藤は、思わず、
「待て、待て、待て、闘うな! アレには勝てない! あいつはセイバーリッチ! こんな戦力じゃあ勝てる訳がない、このダンジョンで最強の最高位モンスターだ!」
「は? どうして、あの化け物について――」
「んな事ぁどうでもいい! とにかく、現状のランクと装備じゃ話にならん! あいつは、本物とは『口調が違う』から、一段劣る影武者の『セイバーリッチ・シャドー』なんだが、それでも、ステータスは……って、あれ? なんで、俺……」
そこで、気づいた。
(な、なんで、俺、セイバーの情報を銃崎に伝えられてんだ?)
これまでの流れで行けば、
途中で不快感に包まれるはず。
(セイバーに関するネタバレ防止フィルターが消えている……そしてイベントのバグ――まさか、あのキ○ガイ女ぁ――)
と、そこで、
才藤は、即座に『以心伝心の護符』を使い、
(おい、酒神。応答しろ)
『ぉお、レイたんでちゅか? ごきげんよう。本日はお日柄もよく――』
(悠長な挨拶をしとる場合か! 酒神終理! おい、お前、まさか――)
『ご想像の通り、厄介なことになっちゃいまちた。レイたんを確実に勝たせようと思って、サヴァーテの戦闘システムを少しいじりすぎちゃって、フラグ管理システムがバグっちゃいまちた』
(何やってんのぉぉお?! 無茶はすんなって言ったよねぇえええ!!)
『いやぁ、カメラとアラームのハックは簡単でちたけど、システム改竄の方はとっても難しいでちゅねぇ。はっはっは』
(なに、わろてんねん! と、とにかく、助けてくれ! このままだと死ぬ!)
『オイちゃん、そこには入れまちぇん。それとも、入れるようにした方がいいでちゅか?』
(っ?!! だ、ダメだ、ダメだ! 絶対にやめとけ! この上、さらに追加でバランス調整システムの改竄なんて尖ったマネをしたら、完全にバグる!)
『というわけで、どうにか自力でセイバーを倒して生き残ってくだちゃい』
(いやいやいや、無理に決まってんだろ! 今の戦力でセイバーに勝てるわけねぇ! セイバーは、俺が一番トガっていた時期の、それも最悪な事に、深夜のど真ん中に設定付けをしてしまった、クソ厨二全開キャラ! つまりは、『ぼくがかんがえたさいきょうのもんすたー』だ! 闘った相手は死ぬ!)
『そこは気合いでなんとかしてほしいでちゅ』
(精神論?! アホか、ぼけぇ!)
『それに、そこにいるのは、本物じゃなく、影武者の方だから、そんなに強くないでちゅ』
(シャドーでも、Zの倍くらい強いんだよぉお!)
『じゃあ、頑張ってくだちゃい。応援していまちゅ』
(ぉいっ、おいぃいい!)




