46話 転移と次元ロック。
46話 転移と次元ロック。
「――ん? なんだ、どういうことだ?」
気づいた時、
地下迷宮研究会のメンバーは、先ほどまでとは違う場所に立っていた。
「どうやら、また、転移のワナが発動してしまったようですわね。しかし、なぜ……」
「確か、才藤くんのブラスターに、虹色を横取りされて……それで、気づいた時には……ていうか、ここ……ぇ? まさか?!」
羽金だけではなく、ほかの上級生二人も気付いた。
背後に視界を向けてみると、
[こんな再会は初めてですね]
「……さ、サヴァーテ?! ま、まさか、ボスフロアに転移したのか?!」
そこにいたのは、強大な魔。
コウモリの翼をもつ奇怪な悪魔。
巨大でムキムキの体を、はちきれんばかりの高級スーツで覆っているという、形容し難い謎スタイルの中ボス。
「じょ、状況を嘆いている余裕はなさそうですわね……どうしますの? 消費アイテムも装備品も探索用で、ボス戦用ではありませんわよ」
怪津の発言を受けて、ナナメ後ろにいた羽金が、
「逃げた方がいいと思う。この状況じゃあ……まあ、今の戦力だと勝てなくもないとは思うけれど、現状は、あまりにも万全じゃなさすぎる」
そこで、銃崎に視線を向けて、
「……リーダー、アリアドネを使って」
と、オーダーを出しながら、
一年生たちに視線を向け、
「さあ、みんな、集まって。逃げるよ」
緊急脱出アイテム『アリアドネの糸』。
一瞬で地上に戻る事が出来る、ダンジョン探索で必須のアイテム。
これまでにおける幾度かの挑戦では、
負けそうになるたびにこれを使って逃げてきた。
「くそっ。アリアドネだって、結構な希少アイテムだというのに……こんなクソみたいな使い方で消費してしまうだなんて……まったく……」
銃崎は、苦々しい顔でそう呟き、
懐から取り出した『銀色に輝く糸』を頭上に放り投げた。
しかし、
「ん?」
力なく、ポトンと地面に落ちる銀の糸。
「っ?! な、なぜ、転移しない?」
いつもなら頭上で光り輝くはずの『アリアドネの糸』が、
まるで、ただの糸のように、
ポトンと銃崎の頭に落ちて跳ね、地面に転がった。
――困惑していると、
サヴァーテが、
[上位次元ロックの罠が発動しているということは……ふむ。さては、あなたたち、レイントラッパーを殺しましたね?]
「は? なんだ、それは?」
[親切なわたしが、特別に教えてあげましょう。レイントラッパーは、虹色に酷似しているワナモンスター。倒してしまうと、次元ロックや強制ボスフロア転移などの、様々な高位の罠が発動してしまいます]
「……なっ……ちっ」
そこで、銃崎は、レイントラッパーにトドメをさした才藤を睨みつけた。
己も『レイントラッパーを倒そうとしていた』ので、
才藤を恨むのは『お門違いじゃないか』とも思ったが、
しかし、心情的に、睨まずにはいられなかった。
――自分の罪だと認識するより、
他人になすりつけた方が、
いつだって気分的には楽なもの。
なによりも愚かしいことに、
『才藤』は、
そんな彼女の『卑怯な感情』すら慮る。
「あ? なんだよ。あんたらだってアレを殺そうとしていただろ。俺だけに責任を押しつけようとしてんじゃねぇぞ。むしろ、悪いのはあんたらだ! 実は、こうなるんじゃねぇかと思ったから、殺すなって警告したんだ。つまり悪いのはてめぇらで、俺は一つも悪くねぇ! 俺は! 何も! 悪くねぇ!」
「本当に……とことん最低だな、君は」
銃崎の視線は『女子という生物』が『心底軽蔑している男子』に向けるソレだった。
――そんな、もはや完全に慣れてしまっている、
『女子からの冷たい視線』など、
才藤は、完璧に無視して、
(他に、何か変わった事は無し。どうやら、発動したのは、次元ロックと強制ボスフロア転移だけっぽいな。あー、よかった、助かったぁ。セェェーフ)
心底ホっとした表情を浮かべ、
(予定外のボス戦……けど、まあ、酒神が何とかしてくれるだろう。ここに来る前、この空間の監視カメラとアラームをハックさせたから、俺らが、この状況に陥っている事は、すでに把握しているはず。そうでなかったとしても)
そこで、才藤は、懐にしまってあるアイテムに視線をおくる。
酒神から、何かあった時のためにと渡されていた『以心伝心の護符』。
(以心伝心の護符は、次元ロックの干渉も受けないから、酒神とは、いつでも連絡を取れる。手筈通り、乱数が調整されれば、サヴァーテなんか余裕)




