40話 ガールズトーク。
40話 ガールズトーク。
「初めての探索でいきなりボス戦というわけにもいかないだろう? 今日のアイテム探索は、君たちに迷宮というものが実際どういうものかを紹介しているだけ。いわば、ロケハンだな」
「ふむ……まあ、それはいいのだが、ザコモンスターを狩ったというのに、何もドロップしなかったな。アイテム狙いでモンスターを狩っているのではなかったのか?」
「ザコからは滅多に落ちない。攻略指南書に書いてあっただろう。なにを今更そんな初歩の情報……って、まさか、聖堂! 資料をちゃんと読んでいないのか?!」
「チラっと見ただけだ。私にとって大事な事は、このカスを殺す事だけ。迷宮になど興味はない。あんなものを読むような暇があったら、こいつを殺す計画をたてる」
そこで、銃崎は頭を抱え、
「本当に問題児しかいない……なんで、こんな後輩ばかりなのだ……探索に参加すらしないアホに、そんなアホに心酔しているレズのキ○ガイに、攻略指南書を読みすらしないパラノイアに、そもそもなぜ選ばれたのか本気で意味不明な、『祈るくらいしかできない』という、何の役にも立たない性悪の村人。まともに手伝ってくれているのは羽金だけ……はぁ……」
そんな銃崎の発言に、
才藤が、平坦な表情で、
「モノのついででディスるの、やめてくれません? 心があったら痛んでいる所ですよ」
と、反応し、
同時に、華日が、
「ちょっと、ちょっと、あたしだってマジメにやっているつもりなのだけれど? なんで、シカトされてんの?」
「ああ、そうだな。すまない。君と羽金だけが心の支えだ。……まあ、君に関しては、できれば、血の繋がった妹なのだから、もう少し、色々と、あのアホに近いスペックだったらと思わなくもないのだが……」
「……」
華日は、グっと奥歯をかみしめた。
(ほんっと、どいつもこいつもぉ……銃崎、てめぇ、わかってんのか? てめぇなんざ、性能的にはあたしより下なんだぞ! あたしは姉様と比べれば劣るってだけで、この世に存在する姉様以外の誰にも負けない超天才美少女なんだ! このあたしは! 酒神華日は! てめぇより頭いいし、可愛いし、運動神経だって上だ。……なのに、なのに、なのに! ナメた事ばっかり言いやがってぇ……くそったれぇ)
心中では、ドス黒い『怒りの奔流』が渦巻いているが、
(落ち着け、あたし……キレるな……乗り越えろ……ぶん殴りたいほどムカつくし、もういっそ何もかもを放棄してやりたいくらい苦しいけれど、腐る訳にはいかないんだ……あたしは……正真正銘、酒神終理の妹なのだから!)
――そこで、銃崎は、
「まあ、いい」
と、聖堂に視線を向けて、
「聖堂。君は間違いなく優秀だ。『あのアホ』の『妹』にすら匹敵する本物の超人。だから――」
その発言に対し、
聖堂は、心底不快感をあらわにして、
「おい、銃崎! 『酒神の妹と同等』だと?! なんだ、そのクソみたいな評価は! 私をバカにしているのか?!」
と、そんな聖堂の発言に、
華日の頭がプツンと音をたてた。
続けざまの侮蔑に対し、
流石に、我慢の限界。
「ちょ、ちょっと、待って……何、それ……どういう意味? ね、ねぇ……雅ちゃ……聖堂雅ぃ。それは、いったい、どういう意味だぁ……」
『いくらなんでも我慢できない』という顔をして、
強烈な殺気を放つ華日に、
聖堂は、まっすぐな目で、
「――『貴様と同等』と言われるのはギリギリ我慢できるが、あの『気持ち悪い女の妹と同等』などという評価は納得がいかんと言っている」
その言葉に、華日は目を見開いた。
思わず、のけぞってしまったほど、
聖堂の発言に心を撃ち抜かれた。
――泣きそうになった。
そんな華日から視線をそらして、
聖堂は、銃崎に視線を向け、
「訂正しろ。銃崎」
睨みつけられ、銃崎は、少しだけ自分のこれまでの発言を思い返してみた。
銃崎だって優秀なのだ。
迷宮関係の問題で、実は、
『常時、いろいろとテンパっている』ため、
時折『デリカシー不足の発言』をしてしまうこともあるが、
『本物のおバカさん』ではないため、
ちょっと頭を回せば、
聖堂が『何を言わんとしている』のか、理解をする事はできる。
「なるほど……ぁあ、そうだな……すまない。確かに、配慮の足りていない表現だったな。私の中でも、あのアホ……ぁ、いや、酒神終理に対して色々と複雑な感情があって、つい……いや、これは醜い言い訳だな。やめよう。キチンと謝罪する。その上で言い直そう。――聖堂雅。君は、圧倒的な性能を持つ『酒神華日』にも匹敵する、この迷宮探索には必要不可欠な存在だ。だから、君の、その少々難解な性格には目をつぶることにする。……なにか不明な点があれば随時答えるから、分からない事があれば、なんでも聞いてくれ……いろいろとすまなかった」
最後の発言だけは、華日に対して発せられたという事に気づけないバカはここにいない。
――銃崎の謝罪が終わった直後、
聖堂は、
華日を睨みつけ、
「一々、他人の発言にキレるな、鬱陶しい。貴様は、この私と同じくらい優秀な超美少女なのだろう? だったら、いつだって、胸を張っていろ」
「……」
華日は、黙ったまま、うつむいて、
「ぅっ……っ……」
泣きそうになっている自分を必死に抑えつけ、
ゆっくりと、聖堂のローブの袖を掴んで、
「………………ぁりがとう」
涙にかすれた、とても、とても、小さな声でそうつぶやいた。
「あん? ワケが分からん」
そう言って、聖堂は、プイと視線をそらした。




