39話 はじめての迷宮探索っ!
39話 はじめての迷宮探索っ!
二十秒ほど経過した所で、エレベーターの扉がゆっくりと開いた。
そこには、『お行儀よく並ぶ松明』に照らされた石造りの通路が一本。
その奥には五つの扉。
地下七階は、広大な迷路になっていて、奥側からしか開けない『近道』が一つも開通されていない状態だと、地下八階へと続く階段前の玉座の間までたどり着くのに、『罠も魔物もなく、さらに車を使った』としても二か月はかかる。
「この階層に辿り着いたのが二十年前。迷路を攻略するだけで十五年かかったそうだ」
すでに開通されている近道を順番に通りながら、
銃崎が、探究者の歴史をレクチャーすると、
華日がその発言に対し、
「近道全開通後の五年間は何をしていたの?」
「ひたすらランクをあげ、戦闘スキルを磨いてきた。辿り着いたばかりのころは、全メンバーが『近道発見』や『宝箱発見』といった迷宮攻略用のスキルばかりを鍛えていて、戦闘能力がクソだったから、扉を守っているガーディアンには、手も足も出なかった」
「ガーディアンって……確か名前はサヴァーテだっけ? そいつって、そんなに強いの? 資料に目を通した限りでは、姉様が対処できないほど強い化け物とは思えなかったのだけれど」
「去年、私たちは2回ほど、サヴァーテに挑んだのだが、その2回の戦闘のどちらにも、あのアホは参加していない。というか、そもそも、あのアホが私たちと一緒に迷宮へ入った事はない。招集をかけても、確定でシカトする」
「終様は奔放を愛する自由な女神ですから、致し方ありませんわ」
終理の話をする時は常に恍惚の表情を浮かべているド変態。
――そんな怪津愛を完全にシカトして、
銃崎は話を続ける。
「あのアホが、迷宮探索に対して真剣になってくれれば、君たち新人二人の加入を待たずとも、余裕で八階層にたどり着けたのだろうが、いかんせん、あの協調性皆無のバカ女は常時単独行動しか取りやがらない」
その話を聞いた聖堂は、
しぶい顔で、華日を睨みつけ、
「クソの役にも立たんとは正にこの事。貴様の姉は、いったい何だ? たとえ、どれだけ優秀でも、その力を使う気がないのでは全く意味がない」
「姉様の思考は常に高尚が過ぎるから、あたしでは推測すらできないのよねぇ。うーん、でも、ほんと、なぜ、迷宮攻略に参加しないのかしら……」
悩みだした華日を、
訝しげな顔で睨んでいる聖堂。
――そんな二人を横目に、
銃崎が、
「ここだ」
そう言って指差した先には、
なんとも巨大な扉がそびえたっていた。
「ここは七階層の最奥――玉座の間。その奥に、サヴァーテを倒さないと開かない大きな扉がある。その先に、八階層へと続く階段があるという訳だ。今日はアイテム探索がメインだから、玉座の間には行かないが、準備が整ったら、この先に向かうという事だけは覚えておいてくれ」
全員がうなずいたのを確認すると、
銃崎は、扉の前を横切って、さらに奥へと向かっていく。
それに続く、地下迷宮研究会のメンバー。
アイテム探索の途中で、
何度かモンスターが出てきたが、
『――ネオ・ヘルズ覇鬼が現れた』
『銃崎の【ドラゴンブリッツ・ランクB+】! 261077のダメージ!』
『ネオ・ヘルズ覇鬼は倒れた』
『――エターナルコール・ドラウグルが現れた』
『羽金の【一閃・ランクB】! クリティカル! 382559のダメージ!』
『エターナルコール・ドラウグルは倒れた』
ほとんどが、上級生たちの一撃で死んでいく。
「どいつもこいつも、クソみたいに弱いわね。バラエティだったらナレーションベースで処理されそうな貧弱さじゃない」
華日がそう言ったのを受けて、
銃崎が、
「私と羽金は、この二年ちょっとの間、伝承されてきた情報を最大限活用し、大量の経験値を積み、そのほとんどを戦闘スキルにぶちこんだ。それに、偉大なる先輩たちから優秀なアイテムをたくさん譲渡されている。基本的に、S級以上のアイテムの貸し借りは出来ないのだが、『卒業生から正式に受け継ぐ』という儀式を経ると使用することができるのだ。百年の積み重ねは伊達じゃない」
天上の意思に選ばれた『圧倒的に優秀な者たち』が、
必死になって積み重ねてきた100年の重み。
「最下層付近である『このフロア』に出てくるモンスターは、『最上級』や『王級』という冠がついている『超高ランクの凶悪なモンスター』ばかりだが、しかし、もはや、我々の相手ではない。君達二人が加入した今となっては、サヴァーテも、勝てない相手ではない。正直、このままボス戦に突撃しても、勝てると思うのだが、初めての探索でいきなりボス戦というのは、さすがに飛ばしすぎだろう? 今日のアイテム探索は、君たちに『迷宮というものが実際どういうものか』を紹介しているだけ。いわば、ロケハンだな」




