2話 性格が死んでいるヒロイン。
2話 性格が死んでいるヒロイン。
才藤は、バカ共の会話が聞こえないよう、
精神を統一して、外の景色を必死になって睨みつけた。
(しっかし……ほんと、無駄に諸々デカい学校だな)
壮観な眺めを堪能していると、
――スパァンッ!
と、脈絡なく、後頭部をひっぱたかれた。
「……ぃたっ……えっ?」
反射的に振り返る。
鬼の形相をした女が、才藤を睨みつけていた。
「なぜ、私の家を睨みつけている?」
「……はぁ?」
「答えろ。なぜ、私の家を睨みつけている?」
「家? はい? どういう事? 窓の外を見ていただけなんだけど?」
「とぼけるな。先ほどの貴様の視線の先に私の家がある。貴様が私の家を睨みつけていたのは疑いようのない事実。自明の理」
(疑ってくださいよ。前提や過程に対し常に懐疑的であってくれませんかね。さすれば、己の間違いに気づけもしよう)
「このド変態め。忌々しい。そして憎々しい」
(なら近づかないでほしいのだが)
「中学の時からずっと思っていたが、本当に気持ちの悪い男だ。いい加減にしろ」
(何をだ)
「どうした、核心をつかれて、ぐうの音も出ないか」
「……『核心をつかれたからじゃない』のは確定的に明らかだけれど、確かに、ぐうの音も出ねぇ」
「本当に、いい加減にしろ、クズ野郎。殺すぞ」
言うと、終始鬼の形相を保ち続けた彼女、
――『聖堂 雅』は、
才籐に背を向けて自分の席へと帰っていった。
キューティクルを平伏させた、超ロングのツヤッツヤな黒髪。
股下百センチのクソ長い脚を包む、自己防衛本能の象徴とも言うべき210デニールの真黒なパンスト。
新雪を嫉妬させる白皙と、黒に統一された衣服と黒髪超ロングヘアの過剰すぎるコントラストが特徴的な、『日本人離れ』の類義語に分類してもいい、九頭身のメンヘラ鬼女。
(全部で五十七クラスもあるのに、何で、また、あの狂人と一緒の空間に閉じ込められるハメになるんだよ。おかしいだろ)
心が悲鳴を上げている。
(どうした、運命。頑張れよ、確率。もっと熱くなれよ、エントロピィイ! 這い寄れよ、混沌んん!! ……なんか、最近、俺ばっかりが、どんどん狂っていくな。……前からか)
聖堂と才藤は、中学二年の時からずっと同じクラス。
初めて会ったからずっと、
彼女は、才藤に対して、
先ほどのような態度を貫いており、
才藤を心底から辟易させている。
(つーか、何で、あいつ、普通に高校入学とか出来てんだよ。この学校の面接担当、頭どうなってんだ? 面接って概念がどうして存在するのか、この拳で教えてやろうか)
常に焦点のあっていない目。不審な挙動。
全く理解できない言動。重度の被害妄想。
才籐の視点でいえば、聖堂雅は、
パーソナル障害モンスターのスペシャルエディションなのだが、
「今日も、聖堂、いろいろパねぇ。てか、マジ、超美人なんだけど。美味しそうに、足を長くしやがってよぉ。ああ、ヤリてぇ」
他の連中の彼女に対する評価は、
大概が、スーパーモデル体型のウルトラクールビューティ。
ミニスカパンストが垂涎極まりない、
エゲつないばかりにまっしぐらなセクシャルシンボル。
「つか、何で、あのサイトーとかいう地味ぃちゃん、聖堂と話せてんの?」
「あ、おれ知ってる。同中だったんだってさ」
「はぁ? じゃあ、あの地味ネクラも海星中?」
「らしいよん。主席だった聖堂たんとは真逆のスーパー落ちこぼれだったらしいけどねん」
「サイトーの情報とかいらんわ。それより、なんで、超進学校の主席だった聖堂が、この桐作みたいな、生徒の数しか自慢できる所がないカス高校にきたのかが知りてぇ。せめて超進学コースに入っていたなら、まだギリわからないでもないけど、このクラス、偏差値50そこそこのクソ凡人コースだぜ」
「流石に、そんな、彼女の核心に触れそうな内情までは知らぁん」
「直接聞いてみるか?」
「やめといた方がよくなぁい? さすがに、もう、あの人が、『何を話しかけても、シカトしかしない』って事くらい、基本情報として頭に入ってんでしょ?」
「風見程度じゃ相手にならんってこった。俺、可哀そうな人を見る目とかしたくないから、不可能が前提の無茶はすんな」
「ナメてんじゃねぇぞ。俺はこの年でブラインドタッチができるほどの逸材だぜ」
「その情報を得て、『まあ素敵、実は私~』ってなるようなイカれた女は、むしろこっちから願い下げだろ、流石のお前的にも」
そうして、また、クソみたいな笑い声で包まれる。クラス内の温度が上がるにつれて、
(うっせぇなぁ……マジで、あいつら全員死ねばいいのに)
そして、今日も、才藤の顔面は、キレッキレの憎悪と嫌悪に歪んでいく。