25話 そのうそホント。
25話 そのうそホント。
「あんたって、本当に気持ち悪いわよね。いい加減にしてくれない? どうせ、ここにいたって、クソの役にも立たないんだから、もう来ないでよ。何ていうか、イラつくのよね、あんたみたいに、無能のまま、何の努力もせず、何の苦労もなく、ノホホンと生きている下等な人種を見ると。人生ナメんなって言いたくなる。お願いだから、あたしの視界に入らないようにしてくれない?」
「は、はは……一応、俺たちは、同じ探索者チームだから、視界に入らないようにするのは無理だからして」
「なに笑っているのよ、気持ち悪い。……イラつく」
そこで、華日は、本当にイラっとしたのか、才藤の胸倉をつかみ、
「ほんと、こっちの方が吐き気するわ。あんたみたいなのを見ていると、マジで腹が立つ。思考を放棄して、苦難から逃げ回っているだけの、無能で甘ったれなクズ野郎」
それは八つ当たりだった。
火種は、数十分前の、怪津愛の発言。
――終様は、不完全な華日さんとはケタが違う、絶対なる完全な存在――
ずっと燻っていた想い、
『感じていないフリ』をしてきた鬱積が、
妙な所で爆発しただけ。
「あたしは必死に努力してきたわ。でも、姉様の妹だから、誰にも認めてもらった事がない。苦しくて、辛くて、それでも、必死に頑張って、でも、誰にも認めてもらえない。ずっと、『酒神終理の妹にしては、大した事がない』といわれて蔑まれてきた。それでも、どうにか『ここにはあたしという存在が確かにいる』と証明したくて必死に頑張って、どうにか、こうにか、ここまできた。そんなあたしと、あんたみたいなのが同じ? チーム? ……ふざけるな」
グっと、華日の両手に力がこもる。
「うぐ、くえっ」
胸倉をギュギュッと絞められ、顔が赤くなる才藤に、華日は、鬼でも殺しそうな顔で、
「撤回しなさいよ。あたしとあんたは何一つとして同じじゃない! どんなカテゴリーにおいても、あんたみたいなカスとあたしは絶対に違う! 撤回しなさい!」
どんどん熱くなる華日だったが、
「そろそろレイたん、死んじゃいまちゅよ、ハナたん」
背後から投げかけられた声で、
「ね、姉様!?」
両手の力が瞬時にゼロになった。
「ぶほ、ごはっ」
すぐさま華日から離れて息を整える才藤の方に視線を向けながら、
突如現れた酒神は、
「大丈夫でちゅか?」
「……はぁ、はぁ……まあ、なんとか……ぇと……あんた、誰?」
「オイちゃんは永遠の十七歳、酒神終理でちゅ。気軽に、終ちゃんって呼んでくだちゃい。まあ、実際に、後輩から、そんなふざけたアダ名で呼ばれたりしたら、オイちゃん、第三次世界大戦を引き起こす勢いでブチキレまちゅけど。てへ♪」
(こいつが、酒神の姉……つぅか、なんだ、そのしゃべり方。ラリってんのか?)
「姉様……あ、あの……」
「ハナたん、冷静に聞いてほしいでちゅ」
「はい?」
「実は、さっき、オイちゃんたちのパパが、強姦容疑で捕まりまちた」
「……え?」
「オイちゃんは、今から、裁判所に行って、パパの刑が軽くなるよう、必死に弁護するつもりでちゅ。でも、死刑を免れるのは厳しいかもしれまちぇん。なんせ、パパは、これまでに十人以上の無垢な女性を犯して殺しているそうでちゅから」
「……」
「というわけで、オイちゃんは早退しまちゅ。オイちゃんが早退せざるをえない理由、ちゃんと銃崎たんに伝えておいてほしいでちゅ。ほいじゃ、ばーいちゃ」
そう言って、風のように去っていった酒神の背中を見ながら、
華日は、
「あ、ああ……早退するためのウソね。びっくりしたわ」
「貴様、まさか、ちょっとでも信じたのか? だとしたら、むしろ、貴様の方に多大な問題があると言わざるをえないぞ」
「仕方ないじゃない。姉様は、あたしに対しては、滅多に、ああいうエグい冗談は言わないんだから」
「ほぉ。だとしたら、もしかして……知っているのか?」
「は? どういうこと?」
「さっき、貴様は、そこにいるクズの事を『苦労せずノホホンと生きているクソったれの生ごみゲロカス野郎』と言ったが」
「いや、そこまでは言われていない」
才藤の即時訂正を無視して、聖堂は続ける。
「実際のところは、そうでもない」
「は? なにが?」
「こいつの父親は強姦魔だ」
「……え?」




