24話 Re:ゲロから始める地下迷宮生活。
24話 Re:ゲロから始める地下迷宮生活。
(言うべきか? ただ『なぜ知っているのか?』と問われた時、答えようがない。……でも、超特A完食の経験値、すげぇ高いんだよなぁ。どうすっかなぁ。うーん……もう俺が設計したって言っちゃうか? それによって生じる問題は色々とあるけど……まあ、いいや)
決心すると、才藤は、立ち上がって、
「あのですね、実は、超Aランチを10回食べると、その上の超特……うぇ……うげぇえ……うごほぉおお」
「な、なんだ? は?」
「うえっ……うごぉ……うえぇ……おろろろろろ!」
のた打ち回った後、
才藤は、胃の中のものをすべて吐き出した。
「うわっ、きもっ」
全力で距離をとろうとする『極めて一般的な女子的対処』に興じる華日とは対照的に、
「零児ぃ! どうした?! 何か悪いものでも食べたのか?」
聖堂は、こめかみに大量の汗を浮かばせるという『非常に珍しい』焦った表情で、才藤の背中を、火が出るんじゃないかというくらいの勢いでさすっている。
才藤のセカンドゲロで制服が汚れたが、そんな事はお構いなしに、とりだしたハンカチで、才藤の口元を優しく拭い、
「救急車呼ぶか? おい、聞こえているか? 返事をしろ!」
「う、うるせぇ……耳が痛い……離れろ、いいから……は、吐いたら……急激に楽になった……だから、離れろ……うっとうしい……はぁ……はぁ」
強がりではなく、確かに、顔色がスゥーっと、
目に見えて、元に戻っていた。
嘔吐による喉の痛みは残っているが、
気分そのものは正常に戻っている。
「はぁ、はぁ……な、なんだったんだ……今の異常な嫌悪感……うぇ」
★
「本当に、もう大丈夫そうだね」
「はい、すんません、羽金さん。不快な想いをさせて」
「ああ、気にしなくていいよ。ボク、一年の時、居酒屋とカラオケでバイトしていたから、吐瀉物の掃除は慣れているんだよね」
「バイト……ああ、経験値稼ぎすか」
「そうそう。社会勉強にもなったし、お小遣い稼ぎにもなったから、色々と美味しい経験値稼ぎだったよ。居酒屋もカラオケも、仕事内容が性に合っていて、凄く楽しかったしね。君もどう?」
「ぃや、あの……」
才藤は、そこで、
(ためすか? おそらく、十中八九、コレが原因……今後の為に、確定させておくか)
試しに、
「実は、バイトはコスパ的に、あんまり良くなくて、出来れば、フラン……うぅううう……ぐぅうううう……かぁあ」
「ちょちょ、また?」
慌てて、才藤の口元にバケツを持っていこうとする羽金に、
「い、いえ……だ、大丈夫です。もう胃の中、何もないんで……うぅ……はぁ……」
「ほんと、病院行った方がよくない?」
「いえ、大丈夫です……原因わかっているんで。ここ来る前に、期限切れの牛乳にチャレンジしちゃって、それで、内臓をやっちゃっているだけです」
「ものすごい自業自得だね」
「ほんと、おっしゃる通りで」
言いながら、才藤は頭の中で、
(間違いないな。――『キツいバイトを100時間する』より『フランス映画を五本見た方』が、経験値を多く獲得できるんだが……そういう製作者しか知らない情報、あるいは、情報に『直接』繋がるキーワードを口にしようとした瞬間、また強烈な眩暈と吐き気がした。どうやら、俺の脳には、ネタバレ防止フィルターがかかっているらしい。……いや、まあ、確かに、ネタバレ禁止的なルールは設定した気がするけど、その設定って、こういう形で再現されんのかよ……いやいや『特定ワードは口に出せない』とかで良くない? 『言おうとしたら思いっきりゲロを吐く』ってなんだよ、ふざけんな)
辟易していると、扉が開いて、体操服に着替えた聖堂が現れた。
「おいクズ、胃薬、もらってきたぞ」
ぶん投げられた二つの小瓶とペットボトルを何とかキャッチする。
ガス〇ールとソ〇マック。
チョイスとしては極めて無難。
すぐさま、胃の中に放り込む。
「ぷはぁ、くはぁ……あー、喉いてぇ……ジンジンする……なんで、俺ばっかり、こんな目にあうかなぁ。ほんと、俺の人生、おわってるわぁ……死にてぇ……いい自殺方法ないかなぁ」
「何度も言わせるなよ、クズ。貴様を殺すのは私だ。食中毒や自殺なんかで死んだりしたら、八つ裂きにして殺すぞ。私に殺されるその日まで、出来る限り、健康で過ごせ。いいな。クズ野郎。………………返事ぃい!」
「耳が痛い。わめくな、うぜぇ」
そこで、扉が開いて、
「もう掃除終わった? ……んー、まだ気持ち悪い臭いが残っているわね。最悪。ほんと、なんなの、あんた。あたし、あんたに会ってから、不快な思いしかしてないんだけど」
「……震えるくらいミートゥーですねぇ」




