23話 設計者の全知。
23話 設計者の全知。
(あの資料はもう全文を覚えているから、ただのコピーなら、いらないわね。ふん、ナメるなってぇの)
心の中で呟いてから、 紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に放り投げる。
『もう覚えていますから』という明確な意思表示。
――その様を見た銃崎は、
(ああいう所は姉に似ている……いや、姉のマネをしているだけか? まあいい)
コホンと息をつき、
「ザっと読むだけでも理解できると思う。経験値は、ドラ〇エやF〇などのように、ザコモンスターを狩っても入手はできない。『何か』を成し遂げた時だけ取得できる。――さて、君たち一年生には、実際、チュートリアルで経験値を取得してもらった訳だが、どうだったかな? 経験値を取得する感覚は?」
「あんまりハッキリとは覚えていないのだけれど、なんというか……《自分の中にある器に『何か』が満たされた》という感覚があったような気がするわ」
聖堂も、同意するように軽く頷いた。
「ただ『強くなった』という感覚はないのだけれど?」
「取得するだけでは意味がない。清算しないと」
そこで、羽金が席を立ち、部室の隅に設置されているパソコンを起動させた。
――ティンタンタンターン、と起動音がして、モニターが光った。
「さあ、見てくれ」
モニターを見てみると、
九十年代臭い青色の画面には、ひとつのアイコンしかなく、
それには、『探究者支援ツール』というタイトルがつけられていた。
羽金がダブルクリックすると、即座に起動し、RPGのメニューっぽいGUIが表示された。
羽金が、探究者の項目を選ぶと、
新入生を含む全員の名前一覧が出てくる。
「華日さん、自分の名前を選んでクリックしてみて」
訝しげな顔の華日が、言われた通りにやってみる。
すると、彼女の顔写真つきのステータス画面が現れた。
「じゃあ、ここの、経験値精算の項目をクリックしてみて」
言われたとおりにすると、
『取得経験値が規定値に達したため、Dランクに昇格しました。
新たに所得するスキルを三つ選んでください』
そのメッセージとスキルツリーが画面に表示された瞬間、
華日は、全身に力がみなぎってくるのを感じた。
体が軽くなり、視界がクリアになる。
「へぇ……」
感嘆の声をもらしながら、
華日は、自分の両手を眺める。
「スキルはまだ選ぶな。取得すべきものを後で指示する」
言いながら、銃崎は、自分の席に腰かけ、
「これが基本で、そして全てだ。さまざまな方法で経験値を獲得し、それを、このパソコンで精算して、新たなスキルを獲得する。それを繰り返し、ランクをあげ、手に入れた力を活用して、迷宮内に隠されている良質なアイテムを回収する。難しい事など何もない」
ゲンドウポーズで、粛々と、
「当然の話だが、職業ランクが高ければ高いほど迷宮内では有利だ。ちなみに、スキルだが、できれば『探索』系ではなく『戦闘技能』系を優先して獲得してもらいたいのだが……まあ、その点は、おいおい説明していこう。とにかく、各自、できるだけ経験値を溜めておいてくれ」
「あのぉ、一ついいすか?」
おずおずと手をあげた才藤に、銃崎は視線を向けた。
「才藤、どうした?」
「経験値の取得方法なんすけど、ここに書かれてある事が全部なんすか?」
「いや、違う。現状、確実に経験値が稼げるとわかっているものだけ記載している。経験値所得の方法は完全に未知。自分たちで見つけるしかない。もし、知らない間に経験値を取得していた時は、少量でもいいから、随時、報告してほしい。そして、何が原因かを推理してほしい」
「……項目の中に一つ、『超大盛りAランチを食べきる』っていうのがあるんすけど、たとえば、超Aを十回食べきったら、それだけたくさん入手できるんですか?」
「いや、試したが、二回目・三回目では入手できなかった。『その気になれば何度も出来る』類の経験値は基本的にポイントが低いし、かつ、一度しか入手できない」
そんな銃崎の発言を受けて、
才藤は心の中で首を振り、
(いや、できる。正確には、超Aを十回食べると、超特Aへの挑戦権が得られて、それを食べきると、39Pの経験値が入る)
経験値取得方法だって、もちろん、才藤が考えた。
ゆえに、知らぬことなどない。
普通なら、発見するだけでも『何十年単位という膨大な時間』を必要とする『おそろしく発見困難な経験値の獲得方法』も、『その獲得方法に関する最も効率的な攻略方法』も全て知っている。




