21話 才藤零児の悪目立ち。
21話 才藤零児の悪目立ち。
「何だよ、地下迷宮研究会って。何すんだよ」
「この学校の創立と同時に存在している部で、名称の意味は誰も知らないんだってさ。ただ、確定しているのは、天才たちのサロン的な場所ってこと。地下迷宮研究会に所属していた卒業生は例外なく、大企業の社長や会長とかで、毎年、何億って単位の寄付があるって噂だぜ」
「それは、表向きの数字で、実は『兆』クラスの寄付があるって噂もある」
「活動とかは特にしてなくて、所属しているって事が大事らしいな。ハーバードのファイナルクラブみたいなもんって話だ」
ファイナルクラブは、150年以上にわたって厳格な社会階層の頂点に位置してきた究極のエリートクラブ。ハーバードに入れるような天才の中でも、特に優れた本物の超人だけが所属する事を許される超々エリートだけで構成されている特別な世界。
地下迷宮研究会は、それに匹敵――あるいは、それ以上の価値があると噂されている、とびっきり特別な天上の領域。
「知ってるか? 地迷研の部室。第ゼロ校舎の最上階なんだけど、なんか、凄いらしいぜ」
「学校の中とは思えないほど煌びやかだって話だけは聞いたわ」
「いいなぁ……入部できれば人生勝ち組確定とか、マジでヤバすぎ。私も入りたいなぁ」
「そう思っているヤツは多いだろうな。なんせ、この学校じゃあ……っていうか、どうやら、噂じゃあ、上流階級の世界では、地迷研に所属していたっていうのが、ほかの何よりも上等なステータスって話だから」
「俺的には、ステータス云々より、所属している人が重要だな。部長の銃崎さんが、すげぇカッケェ系のスーパー美人なんだよなぁ。俺、ああいう系がタイプでさぁ」
「銃崎さんは勿論だけど、あの人だけじゃなく、所属している人、全員が超美人なんだよなぁ。怪津さんとかもヤベぇぜ。くぅ、お近づきになりてぇ!」
「超天才で超美人しかいない部室……すげぇなぁ。くっそぉ、天才で生まれたかったぁ」
止まらないおしゃべりの途中。
――ガラガラっと、扉が開いた。
登場したのは、凛とした立ち姿が美しい、赤髪ショートのイケメン系美女。
「一年、ミーティングだ。集合!」
銃崎の号令を受けて、
聖堂は一瞬、鬱陶しそうな顔をしたが、
しかし、おもむろに立ち上がり、
銃崎の元へと歩いていく。
その様子を見ていた一軍グループの連中は、
「え、え、あの人、銃崎センパイだよね?」
「ミーティングって……やっぱ、地迷研の? 聖堂さん、もう入っていたんだ」
「いやぁ、しかし、やっぱ、銃崎さん、ハンパねぇ美人だわ」
「ていうか、なんかカッコいいよねぇ。超美形の聖堂さんと二人で並ぶと、すっごく絵になるわぁ。どっちも超出来る女って感じぃ」
止まらない『ペチャクチャの流れ』を止めたのは銃崎の一言。
「何をしている、才藤! 全員集合だ、さっさと来い!」
「「「はぁ?!」」」
銃崎の発言に、クラスメイト全員が心底から驚愕した。
一軍グループだけではなく、
ほかの生徒も全員、
自分の耳を疑って、ポカンと呆けた顔をしている。
クラスメイト全員の視線を集めた才藤は、
(うわぁ……うっぜぇ……)
心底しんどそうな顔をクラスメイトの視線から逸らしつつ、
スっと立ち上がり、そそくさと教室から出ていった。
ぴしゃりとドアが閉まったのを確認した直後、
クラスは一斉に沸いた。
「は? どういうこと?」
「まさか、サイトーも?」
「なんで、あんなゴミみたいに地味なのが?」
「い、いや、超進学の海星中出身とは聞いていたけど、確か、すげぇ落ちこぼれだったんだろ? ちがうの? ええぇ……なにこれ、なにこれ――」
「ウソだろ?!」
「なにかの間違――」
★
「奇数週の平日昼休みはミーティング。その放課後は探索。土日は、朝に軽くミーティングをして、その後の一日をすべて探索にあてる。偶数週は丸々経験値稼ぎ。それが基本的なルーティンだ。覚えておけ」
「あのー、銃崎さん」
「どうした、才藤」
「俺が地下迷宮研究会に所属しているってこと、できれば内緒にしてもらえません? 妙な悪目立ちとか、したくないんすよねぇ」
「……はぁ?」
「ぃや、あの、わかんないすかね? なんていうか、その……周りに知られたくないっていうか、その……悪目立ちするのは好ましくなく候というか、何というか、その――」
「誰が何と言おうと、君は地下迷宮研究会の一員だ。正直、私は君の入会に対して『納得』も『歓迎』もしていないが、『あの迷宮が君を選んだ』という事実を無かった事にする事はできない」
「いや、そういう事じゃなく、ちょっとは人の話を聞いてくれよ、マジで……なんていうか、その……絶対に『妙な目』で見られるから、それを回避したいというか……『歪な視線を無駄に集める』という『ヘドが出る悪癖』は中学でパーフェクトに卒業したというか……」
「ん、ぁ、そうだ。中学というワードで思い出した。君の中学時代の成績を少しだけ調べたのだが、酷いな。全教科で0点を取っているではないか。授業にもほとんど出席していないし。いったい、どういうことだ? というか、全教科で0点を取るなど、そっちのほうが、むしろ難しいと思うのだが?」
(うわー、この女も、聖堂や酒神と同系の『ゴリゴリに人の話を聞かないタイプ』だぁ。なんで、俺の周りってこんなんばっかりなんだろう……)
と、そこで、
聖堂が、
長い廊下の窓の向こうを睨みつけたまま、
「このバカは、ほぼすべての授業に出席していたし、どのテストでも、ただの一問たりとも間違えてはいない」
「っ?! そうなのか? では、なぜ、あんな成績になっている?」
銃崎の質問に対し、
またもや、聖堂が、窓の向こうをにらみつけたまま、
「あまりにも性根がクズすぎて、生徒からはもちろん、教師からも、死ぬほど嫌われていたからだ。この男のヤバさをナメない方がいい。この才藤零児という大馬鹿野郎は、そこらの変態とはレベルが違う」
たんたんと、そう答えた。




