20話 結託する美少女。
20話 結託する美少女。
「それはつまり、『ここ』がそうだから」
華日は、淡々とした口調のまま、
「私も、中学まではずっと不思議に思っていたけれど、今回の件で納得できたわ。なぜ姉様たちが、こんなカス高校に入ったのか。それは、ここに真理の迷宮があるからだってね。ちなみに、正義御爺様も、この学校出身。ほかにも、この国の実質的支配を担っている超越者たちは、大概、ここ出身よ。闇社会の帝王と呼ばれ、裏の世界のほぼすべてを支配している極悪フィクサーの蛇尾竜蔵なんかもここ出身ね」
「特進でも偏差値70が限度で、一般クラスの偏差値に至っては55程度しかない、こんなカス高校が、支配者を養成する機関な訳ないだろう」
「高校自体は、どうでもいいのよ。大事なのは、あの迷宮。さっき貰った攻略の指南書をザっと読んでみたけど、どうやら、あの迷宮には『その年代で最も優秀な人間』を二人ほど引き寄せる力があるみたいよ」
「アホか。私は自分の意思でここにいる。強制などされてはいない」
「銃崎と羽金がどの程度の天才かは、まだ分からないけれど、終理姉様とアイ姉様は、間違いなく天才よ。そして、当然のように、私と雅ちゃんもここにいる。姉様と比べれば劣るとはいえ、ほかの有象無象共と比べれば圧倒的スペックを誇るあたしたちが、海星や筑小間や羅猿ではなく、こんな高校にいる。これを偶然と捉える方が難しいわ」
証明終了とでも言いたげな顔で、
「その世代で最も優秀な天才が『人間の限界を超えた力』を得れば、その後、どういう立場の大人に育つかなんて、想像に難くないでしょ? 支配者を養成する機関なのではなく、必然的に、超越的な存在になっていくというだけの話よ」
「……」
「ねぇ、そろそろ、下らない探り合いはやめにしない? 時間の無駄だわ」
己の真摯な眼差しを受けて、聖堂が黙ったのを確認してから、
「少しだけ手をかしてちょうだい。さっきも言ったけど、別に、無理難題を押し付けるつもりなんてないの。何をどうした所で、みっともないあがきにしかならない事は、もう、流石に理解できているから。でも、できる限り、限界まで、きっちりとあがきたい。それだけのワガママ。どう? だめ?」
聖堂は歯を軋ませる。
頭の中で思考が飛び交う。
結論を出すまでに要した時間は七秒。
「契約を遵守すると誓え」
その譲歩に『致命的な穴』がないか追検討しながら、
聖堂は、続けて、
「余計な事は何もするな。不必要に絡んでくるな。三年間、やつと同じクラスにしてくれるのなら、その分だけ、真理の迷宮とやらで、闇魔法使いとして出来る範囲でサポートしてやる。ランク上げの作業も、無理のない範囲で手を貸してやる。この契約を、貴様と私の間にある全てにしろ。それ以上は関わってくるな」
それを聞いて、華日は、
「最っ高」
ニコっと太陽のように笑った。
★
――昼休み。
才藤は、いつものように、誰とも喋らず、
ひたすらに窓の外を眺めていた。
いつもは特に何も考えていないのだが、
今日は、
(マジで、なんで現実化とかしたのかなぁ。訳わかんねぇなぁ……ほんと、勘弁してくんねぇかぁ。俺の人生、マジでイカれすぎだろ。ふざけんな。そろそろ泣くぞ、ぼけぇ)
などと考えている途中、
イケてるグループに所属しているキラキラ系の女子が、
「ねぇ、才藤くん。あんたって、お昼ごはんとか、食べないのー?」
急に声をかけてきた。
(あ? なんで急に…………ああ、いつもの『間が空いた時の一イジり』か。ウゼェなぁ)
「おいおい、涼子、お前みたいなカワイー女子に声かけられちゃって、あいつ、硬直しちゃってんじゃん。やめてやれよ、童貞をからかうの。かわいそーだろ」
きゃははっと楽しそうに笑っているバカ共を見て、
才藤は、
(あいつらが消えますようにって、天に祈ってやろうかなぁ。108不可思議回くらい祈れば、一回くらいは通るんじゃね?)
連中は、いつも通り、人に話を振っておきながら、
しかし、才藤の返答など待たず、
ぺちゃくちゃと会話をつづけていた。
「なぁ、みんな、知ってる? この学校って、部活動とか研究会とか同好会が山ほどあるじゃん? で、その中でも、ぶっちぎりに最強ステータスの部があるって話」
「あ、知ってるぅ。ウチの部のセンパイが教えてくれたぁ」
「俺も知ってるぜ。なんか、就職にも進学にも異常なほど有利って有名な部だろ?」
「入会するのは、例外なく、その学年のナンバーワンとナンバーツー。つぅか、上位二人しか入れない」
「となると、今年、その部に入るのは万能天才美少女の酒神華日さんと、その酒神さんに匹敵するスペックを有しながらも何故かウチのクラスにいる彼女ってこと?」
「例年通りならそうなるな」
「そうならなかった事がないらしいから、絶対だろ。しかし、すげぇよなぁ。天才しかいない部活動とか。なんか、かっけぇ」
「でも、何やってっか分かんねぇっつぅ謎な。何だよ、地下迷宮研究会って。何すんだよ」




