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19話 酒神華日の本音。


 19話 酒神華日の本音。


「変にテンション高くて、ごめんね。つき合わせちゃって悪いと本気で思っているわ。なんせ、同格の相手に会ったのって初めてだから、今のあたし、かなりウキウキしちゃっているのよ。……あたしの気持ち、少しは、雅ちゃんもわかるんじゃない? ねぇ、そうでしょ? 周囲に、劣等種しかいない孤独。わかるわよね?」


「……知らん」


「ただ、あたしと雅ちゃんの間には、一つだけ、決定的に違う点があるの。それは『本物の超越者』が『生まれた瞬間から最も身近にいた』という劇的な幸運、あるいは、絶対的に悲劇的ともいえなくはない、ともかく決定的で圧倒的な差」


 華日は、そこで、表情をフラットな状態へと落とし、


「雅ちゃん……あたしの事、頭がおかしいとか、掴み所がないとか、超然としているとか、そんな風に思っているでしょ」


 己の問いに対し、聖堂が眉間をギュっと寄せたのを確認してから、


「心配しなくていいわ。全部ウソ、ただの演技だから」


「ぁあ?」


「基本スペックが、その辺の一般人と比べた場合に限り、ケタ違いに優秀なのは、単なる事実だけれど、突然変異中の突然変異である、究極超人の姉様と違い、あたしは決して天才でも鬼才でもない。ただ純粋に、口から血ヘドしか出なくなるほど努力してきただけ。初めて会った時、私、スマホをいじっていたでしょ? 実は、アレ、単語帳アプリを使って勉強していたの。『勉強しなくても満点が取れる超天才』を演出しているから、人目がある場所で、ノートを広げて勉強なんて出来ないのよね」


 そこで、華日は、聖堂の拳から手を離し、


「少しだけ、実直にお喋りをしてほしいの。恥ずかしい秘密を打ち明けたのだから、その敵対心を消してくれない?」


 その言葉を受けた聖堂は、

 眉間にシワを寄せたままではあるものの、

 しかし口を一文字にして黙った。


 それを見て、

 華日は、ニコリと柔らかな笑顔を浮かべて、


「あたしは、ただの凡人。だけれど、事実、姉様の妹。だから、生まれた時からずっと、姉様の汚点にならないよう必死に努力してきたわ。姉様のマネをしているのは単に憧れているからだけれど、せめて優秀であろうと足掻き続けているのは狂おしいほどの義務感から」


 目にキュっと力を入れて、溜息をつき、天を仰ぎながら、


「別に難しい話をするつもりも、複雑な話をするつもりもないわ。ただ、協力してほしいだけ。姉様の妹として、せめて恥ずかしくない存在でいたいという、あたしの、必死の抵抗・無駄なあがきを支えてほしいの。助けてくれるのであれば、あたしも、全力で、雅ちゃんのサポートをさせてもらうわ」


「何度も言わせるな。私は、貴様にも、貴様の姉にも一切興味がない。そもそも、貴様の助勢など、私は微塵も必要とはしていない」


「あのクズの監視と偵察が出来やすくなるようにしてあげる」


 その発言に、聖堂は無防備な反応を示した。眉間に寄ったシワが濃さを増す。


「クラスもずっと一緒になるよう調整してあげるわ。さっき、なぜ、超特進ではないのかと聞いたけれど、その理由くらい、ちょっと考えれば分かるわ。ごめんね。わかっている事を、あえて質問しておちょくるのは、姉様の十八番なの。嫌われるのは分かっているのだけれど、ついついマネしちゃうのよね。なんせ、その人間の最も深い部分をつつけて、色々と便利だから」


 あっけらかんとした態度で、


「どう? それなら――」


「所詮は一介の特待生でしかない貴様に何が――」


「姉様に頼めば楽勝よ。実は姉様、あたしにちょっと甘いから、頼めば何でもやってくれるの。というか、昨日頼んだから、既にそうなっているのだけれどね」


「……はぁ?」


「アイ姉様も頼めばやってくれるでしょうし、そっちの方が諸々早いし楽なのだけれど、あの人は、所詮他人だから、頼み事をするのは気が引けるのよね。ちなみに、あの人が名乗っている怪津っていう名字は、正体を隠すための偽名。本名は五画寺。祖父の名前は五画寺正義。もちろん、知っているわよね?」


 その突飛な発言を受けて、

 聖堂はフイと目線をズラして、頭を働かせる。


「あ、一応、確認だけれど、五画寺正義は、重工と銀行と電機の頂点、この国で最も――」


「黙れ。知っている。友菱の会長だろう。だが、なぜ、そんなヤツの孫が、こんな高校にいる? その手の上級国民の血を継ぐクソガキは、安全面の問題や、学ぶべき内容の相違から、国が用意する専門の教育機関に進むと聞いたことがあるが」


「それはつまり、『ここ』がそうだから」


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