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18話 聖堂雅と酒神華日はかみあわない。


 18話 聖堂雅と酒神華日はかみあわない。


 訳の分らない土人形との殺し合いを終えてから一夜が明けた。


 ほんの十数時間前に、大量の情報を頭に直接刷り込まれ、

 豪快に『死の危険』と戯れたばかりだというのに、

 聖堂雅の心境には『さざ波』程度の揺らぎもなかった。


 いつも通り、『不備のない無表情』で校門をくぐりぬける。


 そんな聖堂に向けられている男子の視線は情欲で濡れている。

 女子の一部も、彼女に熱い視線を送っていた。

 彼女のエロカッコよさは常軌を逸している。

 視線を集めてしまうのは避けようのない現実。


 だが、聖堂は自分に集まっている視線を完璧にシカトしている。


 『たった一人』に全神経を注いでいる稀代のメンヘラ。

 『たった一人』以外に興味を抱けないガチパラノイア。


 それが聖堂雅。


「おはよ」


 校舎に足を踏み入れようとした所で、

 待ち構えていた華日に声をかけられた。


「あんたさ、なんで超進クラスじゃないの? あんたの成績調べたけど、あたしと同じで、オール満点じゃない。なんで、パンピークラスにいるの? ねぇ、なんで?」


 妙になれなれしい華日のマシンガンインタビューに対し、聖堂は、凍てつく瞳を向ける。


「人違いだ」


 切り捨て御免とばかりに、会話をぶった切ろうとした聖堂の背中を、華日は、バンと軽く叩いて、


「特徴しかないあんたの外見を見間違えるほど、あたしの脳は狂っていないわ」


 カラカラと天真爛漫に笑ってから、

 まっすぐに聖堂の目を見て、


「で、なぜ?」


 聖堂は、ギリっと奥歯をかみしめる。

 鬱陶しい事この上ない。


 聖堂は常に態度を徹底させているため、たいていの人間は、多くとも三ラリー程度で、完全に心がへし折れ、二度と彼女と関わろうとはしなくなる。


 しかし、目の前にいる女は、どうやら、ただの異常者ではなく、青天井の気狂○ピエロらしく、その、禍々しい時計仕掛けのオレンジっぷりに、聖堂は、心底から辟易する。


(一般的な対処ではさばけない。ならば、しかたない)


 より踏み込んだ対策を練る必要があると理解。聖堂は決断を下す。


「貴様、たしか、酒神華日とか言ったな」

「ええ、そうよ。雅ちゃん」

「誰が雅ちゃんだ。そんなラリった呼ばれ方をされる謂れはない」


 心底不快そうにそう言ってから、


「ちょっと、こっちこい」


 くいと顎で指示をだす。


 背筋良く、スタスタと、一定のリズムで、

 何の無駄もなく歩を進める聖堂の後ろを、

 華日は、対照的に、鼻歌で第九を奏でながら、

 謎のステップを踏みつつ、

 なんとも軽妙洒脱についてくる。


 ――階段を上がり、三階の校舎裏側にある踊り場に出た。


 頬を撫でていった冷たい風。

 寝起きの太陽に照らされて、薄い影ができる。


 聖堂は、華日を睨んで、


「なんのつもりだ、貴様」

「何って?」


「……私は忙しい。貴様というゴミの処理に割く時間はない。夏の蚊みたいに、鬱陶しくまとわりついてくるのはやめろ。昨日もそう言ったはずだ。なのに、なぜ――」


「そんな事より、これからの事を話し合いましょう。とりあえず、まずは経験値を稼いで、ランクを上げる所から始めないといけないみたいだから――」


「いい加減、人の話を聞け」


 グイっと、華日の胸倉に手をかけ、眉間にシワを寄せ、


「いつまでも貴様を、自由奔放にハシャがせておくほど、私は能天気じゃない。次、一言でも、私の話を聞かずに喋り出したら、その奇麗な鼻にグーを入れて黙らせる」


「鼻の形だけで言えば、雅ちゃんの方が綺麗ね。自信を持っていいわ」


 宣言通り、熱い鉄拳を、華日の鼻めがけてつきつけると、

 華日は、余裕の表情を崩さず、左手で、聖堂の拳を受け止めた。


 唐突に暴力をふるわれていながら、

 華日は、ニコっと妖艶に笑い、


「輝くほど美しく、飛びぬけて優秀で、完全に頭がおかしい。やっぱり、雅ちゃんは良いわね。ほんと最高」


 華日の、ひどく超然とした態度に、

 聖堂は初めて、本当の畏怖を覚えた。



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