16話 才藤零児というド変態。
16話 才藤零児というド変態。
「――ちょっと待ってくれる?」
帰り道。
至極色(黒に近い紫)に照らされている校門を通り過ぎた所で、
聖堂は、背後からの声に振りかえる。
「聖堂雅だったよね? ねぇ、あんた、迷宮探索。やるの? やんないの?」
「なぜ、そんな事を貴様に教えなければ――」
「あたしはやる。なぜなら、あたしは、酒神終理の妹だから」
「人の話を聞――」
「究極超人である姉様の妹であるあたしは、これまで……ぇえ、勿論、どんなに頑張っても、その足下にも及ばないのは重々理解しているのだけれど、汚点にだけはならないように努力してきたわ」
「……ここまで会話にならないバカが、この世にいるとは思わなかった。本当に、この世界はクソだな」
「その結果、学力、体力、魅力という全ての面で、姉様を除くほぼ全ての他者を圧倒できるようになったわ。けど、達してみて分かったのだけれど、そんなものには何の価値もない。正直言って……今のままだと、あたしは『姉様の恥』でしかない」
そこで、華日は、小さく溜息をついて、
「だから、あたしは、迷宮に挑む。今日手に入れた力は、磨けば、超人以上の存在になれる可能性がある。迷宮探索で力を磨いて、なんだったら、真理とかいうのを手に入れて、あたしは、姉様の妹として恥ずかしくない存在になりたい」
「あ、そー。それは、よかったー」
真顔・棒読みからの強制会話終了宣告。
流麗かつ華麗に逃げようとする聖堂の腕を、ガシっと掴んで、
「その為には、あんたの力もいると判断したわ。協力して。あんたは優秀。決して『あたし以上』ではないけれど、限りなく同等に近い天才と認めるのも吝かではない次元に――」
「話が長すぎる。一旦黙れ」
聖堂は、斬りつけるような目で華日を見据え、
「私は、貴様という存在に対して一ピコ足りとも興味を抱いていない。迷宮にも一切興味がない。真理など糞くらえ。私の意志・目的は、ただ一つだけ」
そこで、カバンから、才藤零児の盗撮写真を取り出し、
「このクズを」
片手でグシャリと握り潰し、口の中にポイと放り込み、ゴクンと飲み込んでから、
「ブチ殺す事。それだけ。以上」
「……今の写真、さっきのクズ男?」
「そうだ。才藤零児。この世で唯一、私を心底から不快にさせるクソ野郎だ」
「ふぅん。へぇ。……うん、OK。じゃあ、それに協力してあげるわ」
「あぁん?」
「手を貸すわ。その代わり、手を貸しなさい。あの土人形との戦いで、あたしの有能さは理解できたでしょ? あたしは必ず、あんたの役にたてる。だから、あんたも、あたしの役に立ちなさい。あ、ちなみに、聞いておきたいのだけれど、あのクズ男に何されたの?」
「……」
「できれば教えておいてくれない? あのクズ、あたし的にもムカつくし無価値だから、排除するのはウェルカム。だから、あんたへの協力に対して、より前向きになれる理由があるのなら、是非聞いておきたいわ」
華日の言葉に、聖堂は少しだけ逡巡したが、キっと目つきを強くして、
「あいつは……私のすべてを奪った」
「すべて?」
「希望、願い、夢……全部……全部……許せない……絶対に許さない」
「よっぽどの事があったみたいね」
「あいつを殺すのは私だ。誰にも渡さない。誰にも託さない。誰にも譲らない。私の復讐を邪魔するヤツは、絶対に許さない。いいか、頭おかしいクソ女。最初にハッキリ言っておく。邪魔するな。手だしするな。これは私の復讐だ。あいつは私の獲物だ。もし、ほんの少しでも邪魔をしたら……全力で撃滅する」
「……」
「あと、これも言っておく。馴れ馴れしく距離を詰めてくるな。迷宮内で戦う時は、最低限の共闘をしてやるから、私に、それ以外、それ以上を望むな」
「ん……迷宮探索、やるんだ。へぇ。まあ、それなら別にいいのだけれど。ちなみに、なぜ迷宮に挑むの?」
「この力を磨けば、あいつを殺せる確率が高まる。それに、ターゲットも参加するだろうから、一石二鳥」
「なぜ、あいつが参加すると思うの? あんな、『あたしたちほどの美少女』を躊躇なく囮にするほど『保身第一』のチ○カス野郎が、危険極まりないであろう迷宮に潜る可能性なんてないと思うのだけれど?」
「貴様、本当に気づかなかったのか?」
「なにが?」
「あの土人形は、体力の高い者、動いている者を優先的に狙っていた。おそらく、あれは、知性ある化物ではなく、AIを組み込まれた戦闘ロボットなんだろう」
「もちろん、気づいていたけれど、それが何?」
「あのクズも、それを見抜いた。だから、喚きながら、私たちから距離をとった」
「あれは、あたしたちを守るための行動だったとでもいうつもり? ないわね。なら、なんで、あいつは、あたしたちのヘイト(敵意)を集めるような言動をとったのよ。あたしやあんたのような超絶美少女の好感度を稼げる機会なんて滅多にないのよ。その人生最大級の圧倒的な幸運を自ら放棄する男なんているわけがないわ」
聖堂は、華日の発言に、心底しんどそうな顔をしたが、すぐに、
「現実に即した『意味のアリナシ』で、あのカスを測ろうとするのは愚の骨頂」
「じゃあ、意味もなく美少女のヘイトを集めたっていうの? なに、あいつ、マゾ? それとも、狂ってんの? 特殊なド変態なの?」
「微塵の躊躇もなく美少女を自称しまくる貴様も大概狂っているとは思うが、まあ、それはいい。とりあえず、あいつが貴様以上の変態である事は間違いないとだけ言っておく」
そこで、一呼吸置いて、
「絶対的な前提として、あのクズは『ひねくれているのが格好いい』と勘違いしている。『偽悪的である事』に誇りを感じている。そのうえで、『自分が傷ついた分だけ誰かが救われる』と、愚かしい誤認をしているからデタラメにタチが悪い。中学の時と比べれば、今は、少しだけマシにはなっているが、根元は何も変わっちゃいない」
「……」
「この世で最も愚かなクズと言っても過言ではない、どこまでも決定的に気色の悪い男。それが、才藤零児だ。まったく、吐き気がする」
★
《探究者 ジョブ特性》
才藤零児【村人】
・「祈る事しかできない、ただの人」
聖堂雅【闇魔法使い】
・「紙装甲のジャマー兼アタッカー」
酒神華日【ファントムナイト】
・「ニュータイプ。ヒラヒラ回避タンク」
羽金怜【サムライ】
・「全能力が平均的に高い万能職。器用貧乏」
怪津愛【ブラッドサモナー】
・「生命力を贄に召喚した吸血鬼を操る後衛。性能は高いが諸刃の剣」
銃崎美沙【竜騎士】+【パラディン】《ダブル》
・「召喚した龍に騎乗する機動力が高い前衛/アヘアヘ防御力マン」
酒神終理【ハッカー】+【ヒーロー】+【エンジニア】《トリプル》
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