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12話 天に祈る。


 12話 天に祈る。


 ファーストゴーレムの怪しい輝き。

 それを受けて、

 聖堂は顔面を真っ青にして、


(分かる。……これは確実に死ぬ攻撃……ぐっ)


 華日の全身が冷や汗でびしょぬれになり、


(いやいやいや、詰んでんじゃん、なにこれ。ふざけんじゃないわよ)


 そんな、絶望している二人の後方から、


「二人とも、俺に生命力をよこせ」


 そんな声が響いた。


「さっさとよこせ。あと二十秒しかない」


「あ? ふざけんじゃないわよ。なんで、あたしが、名前も知らないあんたに生命力をやらなきゃいけないのよ」


「つい数分前に、しっかりと名前を添えた自己紹介をしたばかりなんだけど……まあ、それはいいや。単純な話だ。俺が盾になってやるから、生命力をよこせ」


 才藤の言葉に、二人は、同時に目をキュっとさせた。


「俺の職業『村人』は『天に祈る』という『パル〇ンテ』みたいなスキルが使える。祈りが届くかどうかはゲームマスター次第で、無茶な祈りは届かないが、『死にませんように』って祈りは比較的届きやすい」


 この場合に叶う願いを具体的に言えば、タンク系だけが持つスキル『リーヴ(オーバーキルダメージを受けてもHPが1だけ残る)』が、持っていないのに発動したりする。


「そして、天への祈りは、TRPG的な表現になるが、『理』があればあるほど、あるいは、『現実になりうる確率』が高ければ高いほど通る確率は高い。この場合だと、俺の生命力が高ければ高いほど届きやすい。そんなスキルを持っている上、運よく現状HPが満タン状態の俺が肉壁メイン盾を志願。非常に合理的な提案だと思うのは気のせいか?」


 『一理なくもない』という表情を見せて黙る華日とは対照的に、

 聖堂が、苦虫をかみ潰したような顔で、才籐の元まで近づき、彼の胸倉を掴んで、



「貴様は……また……」


「余計な言い争いをしている余裕はない。さっさと生命力をよこせ。それとも全員で仲良く死ぬか? 俺、お前と一緒に死ぬのとか絶対に嫌なんだけど」



 そこで、才藤は、

 聖堂の耳元で、コソっと、


「言っておくが、俺は、絶対に『やる』からな。それを踏まえた上で聞くぞ。『生存できる確率』を上げるか? それとも何もしないか?」


 それを聞いた聖堂は、

 まったく納得した顔をしていない、

 酷く苦々しい表情を浮かべ、


「……くっ……ちぃ!」


 渋々、右手を才籐に向ける。

 ゆらゆらとした深碧しんぺきの光が、才籐の体に流れ込んでいく。


 ――それを見て、華日は、

 枝毛一本ない銀髪を右手でクシャクシャしながら、


(現状において、合理的かどうかなんて、さほど問題じゃないわね。重要なのは信頼をどこに置くか。時間がない以上、ぐだぐだ考察しているヒマはない。誰の何を信じて決断をくだすか)


 深く悩む。

 平時であれば、滅多に崩れることのない整った銀髪がクッシャクシャになる。

 本気で頭を使う時のクセ。


(あの、聖堂とかいうパラノイア……性格はともかく、能力は非常に優秀。その聖堂が黙って信じた相手。うーん……とても信じるに値する男とは思えないのだけれど……)


 非常に悩んだが、


「はぁ……ちっ、ったく」


 最後は、生まれて初めて『自分と同じくらい優秀だ』と認めた同級生の判断を信じる事にした。


 聖堂以上の渋々顔で、才藤に、己の生命力を流しこむ。


 パァアっと、力強い深緑の輝きが才藤の体を包み込む。

 生命力を受け取り、一時的に最大HPが上昇している状態の才藤は、


「ひひ」


 悪い顔でニヤっと笑って、



「ばかが! あっさり信じやがって! まさか、この俺が、ミスターZみたいに、善意で他人を助けるとでも思ったか?! ぼけぇ! お前らの盾になんか、なってたまるか! あほんだらぁ! 俺だけ生き残ってやるぜ!」



 高笑いをしながら、二人を残して走りだす。

 あまりの驚愕に声も出ない華日に向けて、

 才藤は、


「つーか、マジ、どんだけ、おめでたいバカ女なんだよ、お前! 出会ってから一秒足りとも好印象を抱かなかったお前なんざ、誰が守るか、あほんだらぁ! そこにいるラリったパラノイアと一緒に死にやがれ!」


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