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VRMMOもの。

書きたくなってしまいました。

よろしくお願いします。




 ゴーグル型のVR機が世に出てから数十年。改良と進化を重ね、ダイブ型VR機が出ると、ゲーム業界は一変した。

 同時にリアルとゲームの境界が曖昧になるファンタジー症候群や重度のエコノミークラス症候群などの命に関わる健康被害が社会問題となり、VR機器メーカーやゲームソフト開発会社は連携し、バイタル機能を搭載させダイブしている最中の状態を常に監視、少しでも異常が見受けられたら強制退出することを世界基準とした。また、フルダイブ型のVR機購入には20歳以上の年齢制限を設け、それを証明するものが必要となる。さらに、VR機はID管理され貸し借りも行えない。


 と、まあVR機の歴史はこのくらいにして、説明書を確認しながら、先日購入したばかりのフルダイブ型VR機をセッティングする。炊飯器と同じくらいの大きさの本体と、本体とコードで繋がれた頭と顔半分を覆うヘルメット。指先につけるパルスオキシメーターと手首に巻くバイタルチェック用のリストバンド。

 プレイするゲームは、1年かけてのオープンベータが大好評のうちに終わり、3ヶ月前に正式リリースされたフルダイブ型VRMMORPGだ。

 本当は、ベータもリリース初日も参戦したかったのだが、VR機購入の抽選から外れてしまったため、泣く泣く見送るしかなかった。事前の情報収集は公式のPVやサイトに留めている。公式が用意している情報交換のフォーラムは、ゲームアカウントがないと閲覧できないし、SNSでの交流はネタバレ防止やネットストーカーなどの物騒な事案を考慮して、最近のオンラインゲームでは禁止しているところが多い。技術進歩で『なんでも出来てしまう』と、やばい輩が湧くんだろうな。

 他のオンラインゲームでのフレンドとオープンベータの募集が始まる頃に成人した弟もゲームをプレイしている。さっきメールを送ったら、ちょうどログインしているのでゲーム内で会うことにした。


 購入したVR機は寝ながら使うタイプだ。付属の上半身を支えるクッションに横たわると、陽が落ちるように徐々に暗くなる。さっきから心臓がどきどきしているのだが、耳元でピピッと電子音がする度、バイタルに引っかかってログインできないんじゃないかと、ヒヤヒヤする。


 暗くなった視界が少しづつ明るくなると、目の前に光の粒が現れ、やがて女性の姿となった。完全な形ではなく、時々粒子がさざめいて輪郭が崩れる。


《ようこそ、ワールド・クロス・ファンタジアへ。わたしは、案内人の“エル”です。ゲームを始める前に幾つか質問をしますので、正直にお答えください。》


 了解した。


《1時間以内にお酒を飲みましたか?》


 いいえ。


《医師の診断で、定期的に薬の服用をしていますか?》


 いいえ。


 ……等々、主に身体関係の質問が続くが、ペットや配偶者、子供がいるかどうかまで聞くのは、過去に色々な事があったからだろうな……。


《お疲れ様でした。ゲームを行うにあたり問題ないことが確認できました。それでは、ログインの仕様について説明します。先程の回答時のバイタルデータをサーバーに保存しています。他サンプルとも比較し、異常が見られた場合には、ログインできませんのでお気をつけてください。また、ゲーム中でも同様に異常が見られた場合は強制ログアウトに移行します。最大接続時間は4時間です。ゲーム内にて時間になりますとメッセージが表示されますので、必ず従ってください。再ログインには、1時間以上の休憩が必要になります。もし、これらの指示に従わなかった場合、ゲームアカウントの永久剥奪となりますのでご注意ください。》


 聞いてはいたが、かなり厳しいな。まあ、このくらいしないと本当に死人がでてしまうんだろう。他には、ゲーム内ではAIが不正行為や迷惑行為を監視していて、3回の警告の後、改善が見られなかった場合もアカウントの永久剥奪となる。そういう行為を見かけたユーザーが任意で申告もできるが、虚偽の申告をしたら同じく永久BAN。

 オープンベータのとき、悪ふざけをしたユーザーが即刻BANされたって弟が言ってたな。ゲームにはPVPもあるが、闘技場みたいな限定コンテンツらしい。PKは基本なし。ただ、今後のバージョンアップでそういうエリアが出てくる可能性はある。


《説明は以上となります。なにか質問はありますか?》


 大丈夫!


《ゲームにヘルプがありますので、いつでも確認することができます。また、何かお困りごとがありましたら、専用コマンドでGMに連絡が取れます。もしものときはお使いください。それでは、お待たせいたしました。アバターの作成に移ります。》


 待ってました!

 初期種族は、『ヒューマン』『エルフ』『ドワーフ』『獣人(犬耳、猫耳、兎耳)』『オーク』の5種族2性別。ゲームが進むと違う種族になれるらしいが、何かしらの条件があるらしい。

 とりあえず、『ヒューマン』の男を選択。年齢は実年齢に近づけて、体型は理想の細マッチョ。身長はリアルよりもちょい高め。

 髪は肩甲骨までのポニーテール、色は黒。目はアクアマリンにした。完全に趣味です。顔パーツはセットからベースを選んでちょこちょこ弄る。苦労せず美形になれるのがゲームの良いところだな。

 さて、アバターはこんなものか。


《続いてスキルを選んでください。》


 ゲームはレベルに応じたスキル制で、レベルが上がるとスキルポイントが付与され、ポイントを消費してスキルを取得する。スキルには熟練度があり、熟練度が上がると様々な効果を得ることができ、熟練度はスキルを使うことで溜まっていくのだ。ジョブはスキルが一定の熟練度に達すると『転職所』という施設でなることができる。

 初期に取得できるスキルは3つまで。無難に【片手剣】【弓】と生産で【調理】を選ぶ。基本ソロで行く予定なので、近遠対応できるようにだ。【調理】を取ったのは、リアルじゃなかなか自炊できていないからせめてゲームだけでも……。ちなみに武器の持ち替えは自由。


《ワールド・クロス・ファンタジアには、幻獣システムがあります。ソロの時にだけ呼び出すことのできるサポーターです。初心者ボーナスとして、“幻獣の呼び石”がひとつありますが、ここで呼び出しますか?“幻獣の呼び石”はゲーム内でも使用できます。また、友達紹介キャンペーンコードをお持ちの場合、もうひとつ“幻獣の呼び石”が受け取れます。》


 ワールド・クロス・ファンタジアで、もっとも楽しみにしていた幻獣システム。ベータでも実装されていて、幻獣には獣型から人型まで色々いるらしい。そして、フルダイブは触覚機能があるので、毛並みのある獣型だともふもふすることができるのだ。

 ずっと猫と暮らしたかったのだが、親が猫アレルギー、ペット可マンションの家賃を払える余裕はなく、ずっと猫カフェの常連……猫カフェも、もちろん良いが、ゲーム内でもふもふできるとあれば否が応でも期待が高まる。できれば猫科の幻獣を!

 だが、“幻獣の呼び石”は完全ランダム。月額課金のゲームでこういうランダム制アイテムというのはどうか……とは思うが、あくまでもソロ時のサポーターだから仕方がない。ステータスもそこそこ高めに設定されているとかで、ハズレはほとんどないらしい。

 弟から友達紹介キャンペーンコードを受け取っているので、2回呼び出せる。


《それでは、“幻獣の呼び石”を使用します。》


 何もなかった空間に白い六角形の物体が浮かび上がる。物体を中心に大きな円形の魔法陣が広がり、魔法陣そのものが眩しく輝き出したあと、光が収まった場所に小さな鳥が羽ばたいていた。

 手を差し伸べるとちょこんと乗っかり、黒い粒らな瞳でこちら見上げ、ピッっと鳴く。

 なにこれ、可愛いーーーーー!!!

 小鳥の横のステータスウィンドには、



[モモイロエナガ]尾の先が桃色をしている幸運を呼ぶ小鳥。

ユニークパッシブスキル【幸運の尾】:LUK30%ボーナス

スキル【小鳥の歌】:HP回復・小



《名前を決めてください。名前の変更には、専用のアイテムが必要となります。》


 モモイロエナガか…うーん、モモ……かな。

 よし、『桃』に決めた。


《『桃』で登録しました。もうひとつの“幻獣の呼び石”を使用しますか?》


 折角だし、使うか。


《それでは、“幻獣の呼び石”を使用します。》


 さっきと同じように魔法陣の光が収まったあとに居たのは、金髪よりも薄い腰まである長髪のイケメン。目の色は金色……だろうか。纏っている装備は、白を基調とした細身のコート。襟や袖口などには光の加減で浮かび上がる細かな刺繍が施されている。全体的になにやら神々しい。

 イケメン横のステータスウィンドには、



[明けの明星]空に輝く一番星。

ユニークパッシブスキル【金星の加護】:全ステータス+5ボーナス

ユニークスキル【光もたらす者】:全体攻撃。対象のレベルに依存する(リキャスト2時間)



 おいいいいいいい『明けの明星』て、ルシファーか!なんてものが出てくるんだよ!!ちょっと待て。全ステータス+5…まだ良いとして、対象レベルに依存する全体攻撃スキル。レベル差がある程よく効くってことですね?リキャスト2時間だから、ほいほい使えるものじゃないけど、ボス戦向けか。

 混乱してハテナを飛ばしまくっていると、明けの明星様がこちらに微笑みを向ける。ゲーム内のキャラだと分かってても顔が良すぎて心臓に直接来る。


《名前を決めてください。名前の変更には、専用のアイテムが必要となります。》


 そうだなー、名前なー……エナガが桃だから、琥珀かな。目が黄色いし。


《『琥珀』で登録しました。“幻獣の呼び石”は以上です。》


 はい……ですね……。

 ゲーム始める前からなんか疲れが……。


《最後に貴方のプレイヤーネームを教えてください。》


 名前は最初から決めていた。他のオンラインゲームでも使っている『カナ』だ。ゲームはID管理されているので、同名がいても登録できる。


《登録しました。ゲームに関しての設定を行います。プレイヤーネームを公開しますか?》


 いいえ。


《幻獣のネームを公開しますか?》


 いいえ!

 ルシファーなんてどう考えてもレアじゃないか!恐いわ!!


《これらの設定は、ヘルプからも変更可能です。お疲れ様でした。登録は以上です。それではワールド・クロス・ファンタジアをお楽しみください。》


 エルが優雅にお辞儀をすると、粒子となって消えていき、周囲が明るくなりトンネルを抜けるようなエフェクトが始まった。

 あ、しまった!チュートリアルの開始場所を聞いてない。




 トンネルを抜けると、そこは狭い部屋でした。

 ベッドがひとつ、窓の下には小さなキャビネット。木製のベンチが壁側に置いてある。宿の個室といった感じだ。

 そしてこの狭い部屋をさらに狭くしているのが、後ろにいる“アレ”である。

 俺よりも頭ひとつ分高い位置に、柔和な笑みをたたえた眉目秀麗な顔。金色に輝く瞳を縁取る睫毛は、髪と同じ金髪よりも薄いプラチナブロンド。ただ突っ立てるだけなのに様になっているし、若干周囲が明るいのは気のせいだろうか。というか気のせいにしたい。

 その頭の上には、桃が鎮座している。


あるじ、これからどうする?」


 あ、喋るんだ。そして『あるじ』呼び。くそ、声もイケメンだな。

 引いてしまったものはしょうがない。イベント以外はソロの予定だから、戦力が高くなるのは大歓迎だ。


「とりあえず……ステータスを確認」


 琥珀と桃のユニークパッシブスキルのお陰げで、LUKの数値がえらいことになっているな。アイテムドロップ率やアイテム作成時のクオリティに影響あるんだっけか。

 幻獣にもそれぞれ装備スロットがあるようで、桃は脚のみ、琥珀は武器とアクセサリーを除く防具スロット。なお、琥珀の防具スロットには、『布の服』という初期装備が埋まっていて、フレーバーテキストも『布製の衣服』となっている。琥珀専用というわけではなく、ユーザーも着れるようだ。俺は、着ないけど。

 ちなみに俺の装備は、全部『初心者の〜』が付く軽装備だ。腰にはショートソード、背中に弓と矢筒を担いでいる。武器を所持してことを感じさせないようになっていて、ヘルプから非表示にすることもできるようだ。


「幻獣も装備変えれるのか?」

「あくまで見た目が変わるだけで、ステータスには影響しない。私達幻獣のステータスは個々の能力が主のレベルに同期する」


 なるほど。

 琥珀のステータスが俺よりも高いのは、やっぱり明けの明星様だからですかね。似合いそうな装備が手に入ったら、渡してみよう。着てくれるかどうかは、分からないが。

 ウェポンスキルの項目に【スラッシュ】【ストレートショット】がある。それぞれ【片手剣】と【弓】の技だろう。生産スキルはひとつの項目まとめられるらしく、【調理】の下に【焼く】【煮る】が追加されていた。

 ひととおりステータスを確認して、ヘルプから『幻獣の帰還について』を探す。いきなり街中でレア幻獣を連れて歩く度胸はない。なお帰還方法はコマンドではなく音声認識だった。

 琥珀の方を向くと、微笑みながら小首を傾げる。ついでに頭の上の桃も首を傾げるので、心の中で可愛さに悶絶しておく。


「あー、琥珀、桃。悪いのだけど、一時的に『帰還』してもらえるかな?」

「なぜだ?」

「ピ?」


 理由聞いてくるの?好感度とかあるのか?


「なぜ?なぜ……街の中を一緒に歩くのは……いろいろと危険がありそうだから?」


 主に俺が。


「主を護るのが私達幻獣だ」


 同意するように桃も頷く。

 ありがたいけど、今はありがたくない。ここは正直に言うか。


「初心者が琥珀のような目立つ幻獣を連れていると、絡まれそうだから!戦闘には呼ぶから、いったん『帰還』してほしい」


 視線を逸らさず金色の目を見て言うと、琥珀は少し残念そうな表情をし頭の桃を俺の肩に乗せた。


「理由はわかった。ならば、そいつだけでも連れておけ。」


 そう言うと名残惜しそうにこちらを見ながら、光の中へ溶けるように琥珀は消える。その様子に罪悪感を覚えたけど、今は無理だ。せめて装備だけでも替えを用意しないと。

 先にログインしている弟とフレンドにメッセージを飛ばそうとしたが、フレンド申請はレベル5からとアラートが表示される。

 仕方がない、と桃の頭を指先でなでると、気持ちがいいのか目を細める桃をみて、俺もほんわかする。

 

 ほのぼのしている場合じゃなかった。とにかく街へ行くぞ!

 勢い良く扉を開けた瞬間、チュートリアルが始まった。




読んでくださり、ありがとうございます。

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