ふるさと
先程の戦いの跡を除いて、
その他は何もなんの異常も障害もなくアレイ村に着いた。
アレイ村にはまだ雪が積もっており、
レナが言うところにはあと一か月くらいは雪が残るのではとのことだ。
「着いたぞ。」
シオンに言われて外を見たが…、
残念ながら覚えてない。
見張り台から人が降りてくる。
「冒険家ギルドからの方でいいのかな?」
「あぁ、トータスで救援の要望を受けて物資を持ってきた。」
「えーっと…、おっ、トリル帰ってきたか!
おつかれさん!」
「あ、ありがとう。」
「どうした?ずいぶん他人行儀だな…。」
「実は…。」
この会話が冒険家ギルドに辿り着くまで十数回繰り返された。
「人気者だな?」
レッグが笑いながら話しかけて来る。
「んー、まぁみたいだね…。」
ただ、記憶が無くなってることを言うと、
みんな一様に気まずそうな顔をしてとりあえず冒険家ギルドに行けば良いと言った。
ちなみにレナは、
「善は急げと。
ありがとう、じゃあまたねー!」
とさっそくどこかに行ってしまった。
襲撃されて間もないからか家によってはまだ修理されている。
冒険家ギルドも例に漏れず修理中だった。
トータスのギルドに比べると小さく、バーの併設はされていないようだ。
「トリル、シオンさんご一行と一緒にいるってことは冒険家になれたんだな!おめでとう!」
ギルドに入るなりメガネの青年が話しかけて来た。
「シオンさん、レッグさん、ミミルさん。
お噂はお聞きしております。
まさかこんな村でAランクの方々に会えるとはうれしいです!
私はテルと言います、よろしくお願いします。」
テルは深々と頭を下げた。
「テル、こちらこそよろしく。
私達もこの村で調査したいことがあるからしばらく居させてもらう。」
「それは心強いし、願ったり叶ったりです!
こんな田舎に滞在していただけるなんて…。
なっ、トリル!?」
「えーと、テル。
すまないがトリルは記憶を失っているんだ。
トリルに自分のことを教えてやってくれないか?」
言葉に詰まっていると、レッグが助け舟を出してくれた。
「えっ?幼なじみのオレのことも忘れたのか?」
「あぁ、どうやらそのようだ…。
すまない…。」
「謝られると調子が狂うなー…。
それならオレよりもちょうどいい奴がいるんで皆さんをお連れします。
今救護所で怪我をした住民の治療をしています。」
連れられてきたところでは10数人の人がベッドに寝かされており、
氷の塊が2つ部屋の脇に置かれていた。
「ココー、トリルが戻ったぞー!」
金色の長髪をした同い年くらいの女性がこっちを振り返った。
「トリル、おそーい!
すぐ連れて来るって言って出て行ってなんで3日もかかってんのよ!」
ココと呼ばれた女性がこっちに近づいて来た。
「まぁ、まぁ。
ココ、それよりもトリルは記憶を失っているらしいんだ。
見てあげてくれないか?」
「はぁ?記憶喪失ってまたあんた何したのよ?
ちょっとそこに座って。」
ココの目が緑に光る。
「ほぉ…。」
シオンが声を漏らした。
それに気付かずココは続ける。
「んー、どこも悪そうなとこはないわよ…。
脳の損傷もないし…本当に記憶喪失なの?
ふりじゃない?」
「いや、本当なんだが…。」
「じゃあ、あの娘誰か分かる?」
指差してるのは氷の塊だ、よく見ると中に女の子が閉じ込められている。
「分からない…。」
「どうやら本当のようね…あの子はあなたの妹のナーシャよ。
フェンリルとの戦いで氷漬けになって…。
あなたはナーシャを助けるために冒険家になることをようやく決意したの。」
…と言われても全く実感が湧かない。
言葉に詰まってると、
「…フェンリルに凍化されて仮死状態にあるの。氷を溶かした後、息を吹き返させるには暑い地方のダンジョンの奥にある活きた地獄の花が必要なの。
それを取りに行くためにトリルは冒険家になったの。」
正直記憶はないが…、氷漬けになっている妹と言われた女の子を見た。
誰かを押した姿のまま氷漬けになっている。
「トリル、ナーシャは君を守って氷漬けにされたんだ…、この村でまともにダンジョンに入れるのはおそらく君くらいなんだ。
助けに行ってあげないか?」
テルが真剣な目でこちらを見ている。
何も思い出せない。
ただ、期待されていることが分かる。
それに、自分を守ってくれたというその少女をそのままにもできない。
「あぁ、行くよ。」
ココもテルもほっとした表情をした。
「待て。
地獄の花といえば…、メルト火山にあるダンジョンだ。
ここから馬車を使っても1週間はかかるだろう。
地獄の花は一度取ると1日しかもたないと思うが彼女達も連れて行くつもりか?」
シオンが聞いてきた。
「…ある人から小さい飛龍を預かっています。
それなら片道1日もかかりません。
あと、ココなら地獄の花を取った後の処理もできるので、
10日はもたせられます。」
テルが答える。
「トリル1人で行くのか?」
「私も行くつもりです。
これでももう冒険家の資格は取っています。」
「君は治療師としての才能はありそうだが…、
あのダンジョンは少なくともAランクはないと厳しいだろう。」
ココは言葉に詰まる。
「冒険家ギルドに依頼したところで時間も金もかかるのは分かるが無謀じゃないか?」
「俺達が行ったらダメか?」
レッグが話に入ってきた。
「ダメだ、シルフがいない以上無理できない。」
「私を置いて行ってあげて良いよ。」
「ミミル、また狙われたらどうする?」
「…じゃあ、俺だけ行くのはどうだ?
1週間はシルフも戻ってこないだろうし。」
「…5日だ。5日以内に帰ってこい。」
「よし、決まりだ!
トリルよろしくな、ついでに鍛えてやるよ。」
「ありがとうございます!トリルも頭を下げて!」
テルに無理矢理頭を下げられる。
「良いって、良いって。困ったときはお互い様だ。」
「本当にありがとうございます。
よろしくお願いします。」
「こちらこそ。トリル、期待してるぞ。」
レッグとがっつり握手をしたそのとき…
「「ぎゃー!?なんであんたがこんなとこにいるの!?」」
どこかで聞いたことのある声が部屋の奥から聞こえてきた。