オレは誰だ?
「それではここにサインをお願いします。
これであなたは今から冒険者の一員です!」
冒険者ギルドの受付嬢はテキパキと手続きを進めていく。
職業:ものまね師
個人ランク:C
サインと言われてもなー、これでいいのだろうか。
紙に書いてあった名前をそのまま素直に書く。
"トリル"
名前が違うかったらどうなるんだろう?
ライセンス剥奪になるんだろうか?
ただ、記憶が無いのだから仕方がないか…。
前日の昼。
ガタン、ガタンと音が聞こえる。
どうやら馬車の中なのだろうか?
目を開けると眩い光が目に入ってきた。
「あ、目覚ましたよ!」
「私が治癒したから当然だよ!」
目の前には、
のぞき込む赤い髪の女の子と、羽の生えた小さな人が宙に浮いていた。
宙に浮く人?
「うわっ!」
ガツン!
思い切り何かに頭をぶつけた。
「いてー…。」
「あっ、ごめんね。
いきなりこの子がいたらびっくりするよね。」
「驚くのも当たり前、
私は風の精霊シルフだー!」
話を聞くところによると、
この女の子はミミルという名前で精霊使いらしい。
精霊とはまぁ簡単に言うと約束を交わした友達なもんらしい。
「やっと、目覚めたか。
道に倒れててびっくりしたぜ。
運が良かったな、俺たちが通りかかって!」
周りを見渡すと体格のいい男が前の窓からこちらを見ている。
「俺はレッグ。まぁ、見たまんま剣士だ。
で、おまえは?」
名前は…、
「えーと、オレ誰?」
「「えー!!!」」
レッグが大声を出し馬車が急停止した、
と共にまた激しく頭をぶつけた。
「うるさい」
静かだけどするどい声が前から聞こえ、
1人の女性が顔を覗かせた。
「起きたか。
町に着いてから話を聞こうかと思ったが…、
ここで一度休憩するか。」
それから馬車を降り、
円になって座り話し始めた。
「私はシオン。」
ミミルはふんわりした感じの可愛い子って感じだったが、シオンは目鼻立ちの整った美人という感じだ。
「悪いが助けたときに持ち物を見させてもらった。
その中にアレイ村のギルドからの親書と冒険者推薦紙が入っていた。」
その紙にはトリルと書いてあったらしい。
どうやらそれが名前のようだ。
「おそらくトータスの冒険者ギルドまで行く途中でなにかの襲撃にあい、気を失ったのだろう。」
冒険者ギルドは基本的には全ての町、村に備えられている。
冒険者の登録となると町に行かなければならないらしい。
アレイ村の親書を持ってたとなると、
アレイ村から来たのかと身元が分かり安心したのも束の間、
「アレイ村はなにかの襲撃を受けて壊滅したか、壊滅寸前と話を聞いている。」
と告げられた。
聞くところによると、
アレイ村から緊急通達が入ったのがオレが見つかる2日前。
その後ぱったりと連絡が途絶えているらしい。
シオン、レッグ、ミミルはギルドから調査依頼を受けてアレイ村に向かっていたが季節外れの雪に阻まれ踏み込めなかったらしい。
そして、仕方なく帰るところで僕を見つけたらしい。
「君があの村から逃げてきたのであれば、何か情報を持っているかと思ったのだが…とりあえずトータスの冒険者ギルドに向かう。
親書に何か書いてあるだろう。」
親書には特殊な魔力が込められており、冒険者ギルドでないと開けられない仕様になっているらしい。
「悪いがトータスまで同行してもらえないか?」
アレイ村に帰ればオレの手がかりは掴めるかも知れないが…、道も分からないし、この人達も辿り着けなかったことを考えるとトータスまで一緒に行った方がいいだろう。
「よろしくお願いします。」
「よし、話はまとまった、トータスに戻るぞ!」
馬車に戻る最中、遠くからガサガサと音が聞こえて来る。
シルフはいち早く察知した。
「んー、なんかやばいやつが近づいているよ」
「俺の後ろに下がれ!」
と、レッグは前に飛び出て盾を構えた。
ガキン!!
茂みから出てきた物体をレッグは受け止めた。
その物体は4つの足に2本の角を持った怪物だ。
「なんでこんなところにベヒモスが!
援護を頼む!」
「はいな、ミミルよろしく!」
ミミルはシルフの呼びかけに応えるように空中に何かを書いている。
「エアロブラストー!」
ミミルの書いた魔法陣から光を発し、シルフに包み込む。
シルフは空高く飛び緑の閃光を放った。
緑の閃光はベヒモスに直撃し、ベヒモスは少し後ずさった。
レッグは剣を構え直す。
「ランクAの魔物がなんでこんなところに!」
「私も戦おうか?」
「今は2人で大丈夫だが、やばくなったら頼む!
トリルを守ってやってくれ。」
「オレも手伝う!」
「2人に任せた方がいい。君は…」
少し言いにくそうに、
「戦力にならないだろう。」